第14話:補償と誓い
家に帰ると猫が我が物顔でソファの上に踏ん反り返っていた。
せっかく猫缶を買って来てやったのにムカついたからしばらくバナナしか与えないことにした。
「おお、やっと帰って来たか。待っておったぞ。新。」
「お前、朝出かける時いなかったけどどこいたんだよ?」
「ふむ。朝からワシは情報を収集しておったのだ。オウムがあれだけしか発生せんとは思わんからな。」
ちょっと待て。情報収集はさておき、お前どうやって家出たんだよ。鍵開けっ放しにしてたのか?戸締り大事だぞ。
「それで。なんか分かったのか?」
「うむ、おそらく協会が動くこととなるじゃろう。封が解かれた今、オウムの発生率は格段とあがることになる。それもこれもあの祠を何者かが壊したからじゃ。」
や、やっぱりあの祠はそんなに大事なものだったのか。俺なりに直したつもりだったのにあれじゃだめだったのか...?
「それじゃあ、あのニョロニョロがいっぱい増えるってことか?町にも?」
「あれはたまたまあの姿をしとっただけでオウムの姿形は様々じゃ。町の方にもポツポツ現れることじゃろう。」
まじかよ...。それって俺のせいじゃん。俺のせいであんなヘンテコな化け物が町に出るっていうのか。それを分かっていて、その協会とやらに任せて放置するのは流石に寝覚めが悪い。
「なあ、そのオウム?ってやつ、俺たちで倒していかないか?」
「ほう?それはなぜじゃ?放っておけば協会の連中が対処してくれることじゃが。まあ苦労はしても倒せんことはないじゃろ。」
「い、いや。なんとなくだよ。それに俺がやれば一瞬で倒せるし、無駄に犠牲が出なくていいだろ?」
俺があの祠を壊したとは言えない。それならせめて俺なりに償いをするしかあるまい。それにそれをやるだけの力も今ならあるしな。
「まあ、そうじゃな。しかしお主はどうやってやつら探すつもりじゃ?」
「それは、まあなんとか感覚で?」
感覚が強化された俺なら飛び回るだけで探すこともできそうな気がする。
「バカかお主は。いつ出るかもわからんやつらを常に探し回る気か?お主がよいならそれでもよいがの。」
確かに。四六時中、常に町の様子を気にするなんてできない。昼間は学校もあるしな。
「はあ。まあやつらは基本的に夜しかでんしの。わしであれば奴らが出れば場所もすぐわかる。」
そんなことができるなら、最初からそう言いやがれ。俺の家に住まわしてやってるんだからそれくらい協力してもらっても文句はあるまい。
「そういうことなら、手伝ってくれよ。いいだろ?」
「ほほう?お主、この猫神であるこのワシにお願いをすると申すか。それにしてはあれじゃのう。態度もでかいし、頭も高いのう。もう少し人に頼む態度というのがあるのではないか?」
目の前のクソ猫がにやにやしながらいってくる。いいだろう。その挑戦受けて立つ。
「わかった。じゃあいいわ。それから今日からお前のご飯一生バナナね。これもう決定。」
「にゃ、にゃぬ。待つのじゃ。それは勘弁なのじゃ。昨日からバナナしか食べておらんのだ。肉を、肉を食べさせて欲しいのじゃ。」
ふ。勝った。飼い主に逆らうからそうなるのだ。完全に俺の方が立場が上だということを分からせてやった。
「じゃあ、分かってるな?」
「くっ。仕方あるまい。お主に協力しようではないか。そ、その代わりもっとマシなおまんまを頼む。」
猫と話がついたところでチャイムがなった。雫だろう。今日はご飯を作りに来てくれる約束となっていた。
「はーい」
玄関に向かいドアを開ける。
「あ、新!よかった。今日はちゃんといたね。お邪魔します!」
どうやら急いで来たらしい。少し汗をかいている。
雫は俺のためにこうやって晩御飯を偶に作りに来てくれる。
それは両親を失ってからだ。
それは小学5年生の時だった。俺と両親は買い物のため、車に乗って近くのショッピングモールへ出かけていた。その日は父親が久しぶりの休みで家族三人で出かけること自体も久しぶりだったため、かなり楽しみにしていた。
だけど、そんな日に限って事件は起きてしまう。
ほんの一瞬の出来事だった。俺たちの乗っていた車が右折しようとした時、信号を無視したトラックが突っ込んで来たのだ。
即死だった。運転席と助手席に乗っていた両親は、両親かどうかも分からないくらい悲惨な姿へと変貌していた。
もちろん俺も無事ではなかった。そしてその事実を知ったのは、事故が起こって1ヶ月たった後だった。
あの頃、本当に生きることに絶望していた俺に雫は、何も言わず一緒にいてくれた。本当に何も言わず、ただ一緒にいてくれただけだった。
それだけで俺がどれだけ助けられたことか。
本当に雫には頭が上がらない思いだ。俺はこの時誓った、どんなことがあっても雫が困っていれば助けると。そして俺を助けてくれた雫のように誰かを救える存在になると。
玄関を上がる雫を見てなんだか懐かしい誓いを思い出していた。
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