第12話:本当の自分

私、高崎真白は自分で言うのもなんだが、よくモテる方だと思う。

今まで数々の男子からの告白を受けてくれば自ずと自分の容姿が優れていると言うことがわかる。

別にして欲しかったわけではないのにチヤホヤしてくる。


その分、一部女子からの嫉妬で陰口の標的にされることもよくあった。

それでもそんなのは、ほんの一部。それ以外の人は好意的に接してくれて同性の友達も多い。親友と呼べる子までいる。


しかしほんの一部の存在を除き、そんな友達もの私というのを知らない。もちろん、クラスメイトも。先生も。

そしてこれから告白をするであろう、目の前にいる男の子も。


「高崎真白さん、あなたのことが好きです。付き合ってください」


「ごめん。」


慣れていることとはいえ、断るのは心苦しくなる。それも目の前にいるのがあの三波新くんなら尚更のこと。


彼は他の人と違い、どんな時でも私のことを助けてくれた。

忘れ物をすれば貸してくれる。一人で荷物を持っていれば手伝ってくれる。

私が落ち込んでいるときは慰めてくれた。

柄の悪い男に絡まれていれば、そこから私を助けてくれたこともあった。

自分が殴られてまで。

自分を犠牲にしてまで誰かを助けることができるなんて人はそうそういないと思う。

そんな彼のことを私は、非常に信頼のおける存在に思っていた。


それでも本当の私を知らない人と付き合うことはできなかった。


項垂れる彼を横目に私は振り返り、屋上を後にした。




翌日私は、彼が休んでいることを知った。出席を取るときも特に理由は言っていなかったのでなんだか少し気になってしまった。

お昼休みになると勇気を出して、同じクラスで彼の幼馴染である新堂さんから彼の話を聞いてみた。昨日振っといてどの口がと思われたかもしれないが、聞かずにはいられなかった。


「はあ。」


誰に聞かれることもなく、小さくため息をついた。

彼は体調不良だったらしい。それに完全に新堂さんから訝しげに見られたように思う。彼女はきっと三波君のことが好きなのだ。見ていれば分かる。



そして放課後。私は生徒会室に呼び出されていた。


「どうしたんだい?元気ないじゃないか、真白。」


生徒会長である、音坂凛おとさかりんはそう問う。


「いえ...。いろいろありまして...。」


「そうか、また告白されたんだな?いつものことであれば心を痛めることもないだろうに」


彼女は本当の私を知っているうちの一人だ。そして私も本当の彼女を知っている。

この生徒会の会員達はみな同様の事情を抱えている。


「まあ今日は八代君達がいないんだ。相談事なら聞いてあげよう」


「実は...」


私は、ポツリポツリと会長に思いの丈を吐き出し始めた。



「なるほど、つまり真白はその新君だったか。彼が気になっているんだね?」


「べ、別にそういうんじゃありません。ただ、その彼だけでなくて仲の良い子にも事情を話せないのが辛いというか...」


「まあ、それはここの会員ならば皆抱えている問題だろうね。それはどうにか自分たちで割り切るしかないよ。仕事は仕事。プライベートはプライベートだ」


結局のところ、相談をしてもこの心のモヤモヤは無くなってくれることはなかった。


そんな日の晩のことだった。協会から緊急招集がかかったのは。



────────────────


「一体どういうことだ!?」


凛さんが支部長に問い詰める。

協会の支部に呼び出された私たちは、支部長から今日先ほど起こった説明を受けていた。


「説明した通りだ。何者かによって神楽山の封が解かれてしまったのだ」


「それは分かりましたが、一体誰が?俺たちが知りたいのはそういうことです。それにあれはそう簡単に壊れるものではないでしょう?」


同じ学校、そして同じく協会に所属している八代光輝やしろこうきが支部長に追求する。


「それは分からん。あれほどの封を解いてしまうものなど、この辺りでは心当たりがないのだ。それに封が解けた直後にもオウムの反応があったのだが、既に消失している」


「つまりは、どこかの協会に敵対する組織が引き起こしたということか。それで発生したオウムが襲って来たから仕方なく対処したと」


メガネをかけた青年、副会長である吉岡誠よしおかまことがそう推理する。


協会に敵対って、どこの誰がそんなことを。そんなことをして誰に徳があるって言うの?傷つく人が増えるだけじゃない!


「その可能性は高い。もしかしたら2年前の教団の残党という可能性もある」


教団。それは以前に、人を人とも思わないような非人道的な人体実験を重ね、「地球の浄化を謀る」を理念に協会に対立した組織だ。2年前の殲滅戦で全ての教団支部が解体されたと聞いた。


「事情はわかりました。つまり、私たち六人でその犯人を突き止める。及び、神楽町に発生したオウムを排除するということでよいですね」


この六人というのは同じ学校の生徒会メンバーであり、ここ神楽町を任されている担当魔術師のことである。

そしてここ神楽町は協会から重要視されている、特例地の一つでもある。

封印のおかげオウムの発生はある程度、抑えられていたが封印が解けた今、発生頻度が上がったり、強い個体が現れる可能性がある。


ちなみにメンバーの残り二人は今日は別の町で任務があり、支部には顔を出していない。



「うむ、十分に注意してくれたまえ。犯人の方は最悪、見つけられなくても構わん。あれほどの封を解くほどのものだ。非常に実力が高いということになるだろう。それに今回は本部の方が引率として来てくださっている。ささ、どうぞこちらへ。」


支部長がそういうと奥から、スーツ姿の男性が顔をのぞかせた。


「どうも、初めまして。本部から派遣されました相良傑さがらすぐると申します。しばらくの間、皆さまとご一緒に行動させていただきますのでよろしくお願いいたします。」


かなり丁寧な感じの方だった。本部から派遣されたということはかなりの実力があるのだろう。


「えっと、一緒に行動するということは、学校にも来るんですか?」


「ええ。非常勤の講師として勤めさせていただきます。」


そうして今回の招集は先ほどの説明と相良さんとの顔合わせで終わった。

後で今日いなかった、いのりちゃんと悠馬くんにも説明しとかなくちゃな。あ、でもその辺は凛さんがやってくれるかな。


そして帰り道、凛さんと今回のことについて、いくつか話しをしながら私は帰宅の途についた。もう日にちはとっくに跨いでいた。

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