第11話:変化

目を開くと同時に遅刻を確信した。

なぜなら昨日と同様にチャイムで目を覚ましたからだ。デジャブ。


それでも昨日違う点が一点ある。それは今もなお、止むことなくチャイムが鳴り続けている点である。


このまま鳴らされ続けてたらノイローゼになりそうなので、雫に電話を入れる。


『す、すまん。また寝坊した。遅刻するから先行っていてくれ!』


『なんで?昨日一緒に行くって約束したよね?私、新が来るまで待ってるから。遅刻してもいいから。』


恐い。朝から恐いよ、この子。俺が悪いんだけどさ。


『いや、それは流石に悪いし、準備に時間かかるからさ!本当にごめん、先に行っててくれ!今日は必ず学校行くから!』


『...絶対だよ?来なかったら分かってるよね?』


どうにか雫を説得することができた俺は大慌てで準備をするのだった。それにしても恐かった。


「ふー、やべーやべー。あ、コンタクト!」


危うく、赤い目のまま出発するところだった。ん?そういえばあのドラ猫はどこいった?家の中に気配ないけど。まあいいか。


「行ってきます!」


誰の返事が返ってくるでもない家に挨拶をし、家を出た。

そういえば、今の俺だったら全力出せば、自力で遅刻回避できるのでは?

ちょっとやってみるか。

今日の俺ならうまく制御できそうだ。


そう、今日起きた時から昨日まで不安定だっ

た力の制御がかなりしやすくなっていた。理由は分からないが、体に馴染んできたとでも言うのだろうか。

今なら空も飛べるはず。I can fly!



そして俺は今空高く舞い上がっていた。比喩ではなく、本当に。

家を出た俺は、思い切りの良い踏み込みを行いジャンプしてみた。結果、見事な跳躍を成功させた。


民家の屋根を伝い、次々に飛び移っていく。

まるで風になったような気分だった。そして、一際大きなマンションの屋上まで駆け上り、そこから学校を探す。方向を確認した後、もう少しばかり力を込めて飛び上がった。


次の瞬間には既に学校の屋上に着いていた。

いや、墜落というのが正しいだろうか。屋上の地面は少し、ひび割れてへこんでいた。


早かった。思ってた以上に。まさか家を出て2分足らずで学校へ着くとは。

この時間ならまだ、あんまり人来てないんじゃないか?


生徒玄関を経由して靴を変え、教室へ向かった。教室へ入るとそこには生徒が一人だけ座っていた。

その人が誰であるか認識すると胸が高鳴った。

一昨日、告白して振られたばかりの想い人。高崎真白その人だったからだ。


前の方の席に座る彼女は、誰かが入ってきたことは分かっているだろうが、振り向いて確認することはなかった。


彼女の後ろ姿だけでも見ると心臓が跳ねるのがわかる。やはり、まだ俺は彼女のことが好きということなのだろう。

こちらに気付いてないとはいえ、このまま二人きりというのも気まずいので机に突っ伏してホームルームが始まるまで寝ることにした。




「あ、あの!ここ、新の席なんですけど、どちら様ですか?」


声が聞こえた。誰かに話しかけられた。周りからはクラスメイトの話し声が聞こえる。どうやら既にみんな登校してきたようだ。


「どうしたの?雫?」


「えっと、知らない人が新の席に座ってて。中々起きてくれないの。」


この声は雫と雅さんか。自分の席座ってるのになんでだ?


寝ぼけながらも顔を上げた。


「え!?」


「ん?」


まだ寝ぼけている俺は状況を理解できていない。

前を見ると雫と雅さんが驚愕の表情を浮かべてこちらを見ていた。


そ、そんなに見るなよ。照れるじゃねえか。


「な、なんでここにいるの?新!それにその体...。」


え?なんでって。俺、ここの生徒だし。もしかして俺、学校きちゃいけなかった?

お前の席ねえから!ってやつ?つらい。


あ、思い出した。遅刻で後から行くって言ってたんだった。そら、意味わからんよな。なんで先に着いてるんだって話だ。


「えっと、全力出したら間に合ったみたいな?」


嘘はついていない。


「え、でも...。それになんでそんなに大きくなってるの?」


え!?もしかして、俺の大事なもの見て言ってる!?寝てたから!?やばい、変態だ...。間違えた、大変だ。

慌てて大事なところを確認するも別に元気ではなかった。


?あれ?何が大きいんだ?


「新、お前なんでそんなに体大きくなってるんだよ!?」


馬鹿でかい声が聞こえた。碧人だ。

体のことか!ようやく得心がいった。しかしおかげかなりの注目を浴びてしまっている。

どう、言い訳しようか。どうしようもない。


「あー、あれだ。成長期。牛乳たくさん飲んでたから...」


そこへ誰かが教室へ入ってきた。


「おー、お前ら何立ってんだー。席座れよー。ん?三波なんかでかくなったな。成長期か?」


ちょうどいいタイミングで先生が着席を促す。

そして、クラスメイトはみな心の中でツッコんだ。そんな訳ねぇだろ...と。




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