第10話:幼馴染からの伝言(改稿済み)

新が家に着いたのは、深夜と呼べるような時間帯であった。もう四半時もすれば、日付が変わる時間でもある。今日一日を振り返った新は非常に長く、濃い、そして疲れたと言える一日だった。


相変わらず、家の中に入るまで新の後ろを着いて来る猫は、ニャーニャーとうるさく、新は頭が痛くなった。


「おお、ここが新たな我が根城か!ほうほう、少し散らかっとるが中々良いところではないか!」


居候をする割には一言多いと感じた。しかし、見た目が猫なだけに新は何も言わなかった。実は新は猫が好きだったりする。まあ、犬より猫派というだけだが。


新は廊下を通り抜け、リビングに入ると暗闇の中に点滅した光が見えた。


「ん?留守電?」


リビングに入った新は壁にあるスイッチでまずは照明をつけた。そして荷物を置いて、固定電話に向かい、その履歴を確認した。

「なんだこりゃ」思わず、そんな言葉が口から発せられた。

電話の画面を見返すとそこに溜まっているのは全て、雫からの着信であった。


「ろ、六十二件......」


その件数に顔が引きつる新。そして今日の一日が始まった時のことを思い出した。

そう、雫は学校を休むと言った新に放課後、お見舞いに行くと言っていたのだ。そのことをすっかりと忘れていた新は、恐怖した。


「これはマズイ。非常にマズイことになった......」


恐る恐る電話のボタンを押して留守電を再生する。


『メッセージを再生します...』


『新、携帯繋がらないけどどうしたの?』


『新?家いないの?』



『新!大丈夫?寝てるの?』


『本当に大丈夫?倒れてない?』



『お願い。これ聞いたら電話頂戴.......』


その短く区切られたメッセージを数件聞いていくうちに余計に顔が引きつっていく新。そして血の気も同時に引いていった。

焦りと不安が新の中を交錯する。

以前にも新は雫との約束を破ったことがあった。その時、雫の中の何かを目覚めさせてしまい、新は二度と雫との約束を破らないと誓ったのだった。

それにも関わらず、今日こうして約束を破ってしまった。一方的に押し付けられた約束であることは言い訳にならない。

病人であれば、家にいることが普通だからだ。


新は必死の形相で何かいいアイデア、もとい言い訳はないかと頭を悩ました。

そういえば、一応相談相手ならいる。新はそう思い、振り返った。


「なんじゃ?ワシになんか頼みごとか?」


その気の抜けた表情を見せる猫に対して、新はなんだか、頼る意欲が失せてしまった。


「電話でるかな......この時間だけど......」


新は意を決して、雫に電話することにした。家電の方は流石にお家の人に迷惑だから携帯の方にかけることにした。


新は恐怖で心臓が口から飛び出そうだった。ボタンを一つ一つ押していくがその手は明らかに震えている。

心の中で新は「あのニョロニョロより絶対に怖い」そう思うのだった。


「よし......」


最後のピッという音がなる。


プルルルル。ガチャ。


『も、もしもし......』


思ったより早く出たと感じた新は、恐る恐る声を出す。恐怖で心なしか小さい。


『あ.ら..た...?』


その声色はどこまでも低く、重く、恐怖を感じさせられた。さらにいえば、死ぬ一歩手前のような声だった。


『は、はい!あらたです!』


『......』


無言が怖い。本当に怖い。切りたい。怖い。でも切るのも怖い。切れない。

新の胸中はそんな感情で鬩ぎ合っていた


『ご、ごめん。携帯壊れてて...。病院行ってたんだ...』


『......こんな時間まで?』


これは完全にバレている。病院じゃないことがバレている。殺される。声が震えるのを感じる新。


『えっと、思ったより診察長引いちゃってさ。しんどくなって横にならせてもらってたんだ。点滴打ったらましになったから帰って来た』


よくもまあここまで嘘がつらつらと出ると新は自分で感心していた。でも流石に時間が時間だし誤魔化しきれないかもしれない。


『本当?もう大丈夫?明日も休む?』


新は、雫の声色が少しだけ明るくなった気がして、思わずホッとしてしまった。


『あ、ああ。点滴打ったらだいぶ調子良くなったから明日はいけると思う』


『本当?じゃあ明日、朝迎えに行くからね?』


なんとか誤魔化し切った新は、改めて明日、雫と一緒に学校へ行く約束をした。

電話を切った新はその場の弱々しくへたり込んでしまった。そのくらい恐怖でちびりそうだった。


思わずため息が出る。


「なんじゃ?お主ほどのものが何に恐怖しておったのだ?」


魔王みたいなもんだな。と口に出すことはしなかった。

今日一日の終わりに最後の最後で精神的に一気に疲れた新はソファに寝転んだ。

新の体の方はあれだけ動いたのに全く疲れていなかった。

どうせなら肉体だけでなく、精神も強くしてくれればよかったのに。そう思わずにはいられなかった。


「そういえば、お主、明日の昼間はいないのか」


「ああ、学校だからな」


「なるほど。であれば、ワシゆっくりさせてもらうとしよう。あ、ご飯は置いて行ってくれい」


この精神的疲労の中、猫の餌まで考えている余裕はなかった。バナナにしようと新は決めた。

そして今更ながら忘れていた疑問を返す。


「そういえば、お前って名前とかあるの?」


「ほう。名前か。ワシには名前などないな。昔はあった気がするのだがなにぶん昔の事すぎてな。忘れた」


「んーじゃあ、ポチでいっか」


猫なのにポチ。この一言で新に全くと言っていいほどネーミングセンスがないことがわかる。


「貴様!高貴なる猫であるワシに犬の名前なんぞ付けおって!許さぬぞ!別のにするのだ!」


再び猫であることを認めてしまっていた。


「はいはい、考えとくわ。もう疲れたから俺はシャワー浴びて寝るからな。うるさくしたら、ダンボールに入れて河川敷に捨ててやるから静かにしろよ?」


動き疲れてお腹は減っていたが、もうすぐ1時ということで新は、何かを食べるのをやめにした。


シャワーを浴びると新は一直線に寝室へ向かいベッドに倒れこんだ。

猫はいつの間にか、布団に潜り込んでいた。

寝相悪かったら、殺しちゃいそうだけど大丈夫だよな?自称神だし大丈夫か。そんなことを考えつつ、眠りについた。


「ぶえっきし!!」


寝る前に思いっきりのいいくしゃみをした。

誰かが噂していたのかもしれない。

そう思いながらも明日から始まる学校へ向けて目を閉じるのであった。

ちなみに雫には新しい番号を教えておいたのだった。

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