第9話:祀られたるは猫神(改稿済み)
なんだろう、この気持ち悪いのは。新が目の前の生物を見た時の感想は誰もが当然にして思うことだった。
その不可解な生物は対峙してからじっと新を見てうねうねしている。
新は顎に手を当て、さながら探偵の如く、目の前の生物の正体について考える。
数秒そのまま考えて新は、その答えにたどり着いた。
「こいつさては、神だな?さっき祠壊しちゃったから怒って出てきたんだな?」
先ほど自分がした行為によって、怒ってできた神様。それが新の出した答えだった。その答えは新は知る由も無いが、半分正解で半分不正解であった。
新は心の中で、焦り良りもまず謝罪をした。申し訳ないことをしたなと。
きっと真剣に謝れば目の前のうねうねも消えてくれるだろう。そう思った。
新は許してもらえるか分からないが、とりあえず土下座でもしようと思い、足を折り曲げ、跪こうとしたその時だった。どこからともなく、誰かの声が聞こえた。
「何をしておる、莫迦者!殺されてしまうぞ!」
周りを見渡しても人影は一切見えない。聞こえたのはした方からだった。目線を下に落とすとそこには一匹の白い猫がいた。白いと言っても少し、黄色味がかかっている。
新はその猫の存在を思い出した。その猫は先ほど、目の前の謎の生物に追いかけられていた生物だった。
「なんだよ、邪魔すんなよ。今、社会でも使える完璧な謝罪の方法を試そうと思ってたとこなんだから!」
「お、お主、ワシの声が聞こえているのか?」
「あん?聞こえてるけど。最近の猫は喋れるんだな」
新はいつになく冷静だった。それは、きっと昨日から起こっているあらゆる物事のせいだった。あの謎の門から始まり、自身の体の変化。おまけに今目の前にいる未確認生物。それくらい、驚愕の出来事が怒涛に新に向けて襲いかかって来ていたのだ。今更、猫がしゃべる程度では、新は驚くことをしなかった。つまりは新の頭はすでに麻痺していた。
喋る猫など日常の一部。新の脳ではそう判断されてしまった。
「そ、そうか。それより其奴は危険じゃぞ?このままでは殺されてしまうぞ?」
「そうなの?なんかニョロニョロしてるけど、神様じゃないの?」
「何を言っておる!其奴は外から来た
急に怒鳴るような猫の声にぎょっとする新。しかし、神様じゃない、人に害を与えると聞いてそれならと安心した。
「なんだ神様じゃないのか。確かにこんなキモい神様いたら信仰心なんてわかねえよな。じゃあ、倒してみてもいい?」
未だにニョロニョロしているそれを見ながら言い放つ。そのニョロニョロは不思議なことにこちらの様子を伺っているようだった。
「莫迦なことはよせ!人間などやつにかかれば一瞬で粉々にされて終わりじゃ!」
猫は人間の簡単な物言いに激しい口調で諌めた。
しかし、新には自身があった。謎の自信が。それもそのはず。すでに人外へと化したこの身体ならなんかいけそうな気がしたのだ。
「よし。やるか!」
「迂闊じゃ、莫迦者!」
新は踏み込み、拳を振るう。新の耳には後ろからニャーニャーという声が聞こえた気がしたが気にしなかった。
「は?」
ニャンコから再び声が聞こえた。
新の目の前には、既に上部が千切れた状態で先程の物体が崩れ落ちていた。
◆
「お主、一体何者じゃ?」
山からの帰り道、新の後ろには1匹の猫がついてきていた。
この猫は先ほどの霊山で謎の生物に追いかけ回されていた喋る不思議猫である。
「なんだよ。普通の人間だ、ふつーの。それよりなんで付いてくるんだよ?」
「普通の人間はあんな者倒せん気がするがの......それより家じゃ。ワシは祠を何者かに壊されてしまったのでな。お主の家に間借りしようかと思っての」
「祠......?」
祠と聞いて、新の頬に一筋の汗が流れ落ちた。
そんな新の焦りにも気付かず、猫は続ける。
「そうじゃ。その祠はあの山にとってはかなり重要なものでの。あれがないことによって先程の化け物も発生したという訳じゃ。全く、愚かな者もおったもんじゃ。故にこのままでは、しばらく危険が付き纏うのでな。お主の側なら安全だと思った訳じゃ」
「そ、それなら他の人も危ないんじゃない?」
「まあ、それは大丈夫じゃろ。あれが壊されれば協会のものどもが感づかない訳ないからの。」
「協会......?」
新にとってその初めて聞くような謎の組織が先ほど謎の生物を対処してくれるらしい。それを新は聞いて安心した。
しかし、それと同時に疑問が湧く。
(あれ?それなら、こいつもそいつらくるんだから俺のとこ来なくても良いのでは?)
新はその疑問をこの猫にぶつけようと思ったが、なぜだか意地でも家について来そうな気がしたので口には出さなかった。
そこで新は先ほどから気になっていたことを聞いた。
「そういえば、結局お前ってなんなの?喋るおもしろ猫?」
「誰が猫じゃ!ワシはあの地に奉られておった猫神なるぞ?末席ながらも神に連なるものぞ!頭が高い!」
猫はおもしろの部分は否定しなかった。どうやら猫は自分がおもしろい存在であるという自覚はあるらしい。
そして、新は急に猫が偉そうになったを聞いて、悪態をついた。
「ニャーニャー、ニャーニャーうるせえよ」
「何じゃと!?ワシはニャーニャー言うとらん!」
「そもそも、お前そんな大きな声で話してていいのかよ。他のやつに聞かれても知らんぞ?」
「ふん。その事なら心配いらん。普通の人にはニャーニャー言うとるようにしか聞こえんからの。変に見られるのは猫と話しとるお主と言う訳じゃ。」
「やっぱりか」と新はこの猫がいくら騒いでも周りの人があまり気にしていないようにしていることに納得した。逆に道ゆく人とよく目が合うなと思っていたのは気のせいではなかったと分かった。
それに新は自分で猫と言っていることについては、別に突っ込まなかった。
新は猫をしばらく歩きながら考えていた。家に来るのは別に構わないのだが、餌が全くないということに気づいた。何か食べるものがないかと家にあるものを考えていたが、フルーツくらいしか思い浮かばなかった。帰ったらバナナをあげよう。その考えに新は至った。
「ふむ。そういえばお主の家には家族がおらぬのか?飼うのを反対されたりとかせぬか?まあその気になれば、ワシの愛くるしい姿を持って懐柔することは容易いがの」
「......安心しろ、俺一人だよ」
「おお、そうか!では気を遣わなく良いの!」
予想外の反応に新は心の中で突っ込んだ。
「いや、少しは気を遣えよ」と。しかし、新にとって類の質問は慣れっこだった。昔から誰も家にいないと言うと哀れみの視線を向けられて来た。そんな目で見られるよりかは遥かにマシだと思ったのも本当のことだった。
しかし、「太々しいしい猫だな」とも同時に思った。
「おお、そういえば夜飯はあれがよいな!A5じゃ!A5の肉を所望するぞ!」
ますます図々しいと感じた新だった。
明日、ダンボールでも拾ってこようかな。そう考えながら家路についた。
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