第2話:第一の試練(改稿済み)
『使徒候補を確認。これより第一試練を開始します』
門をくぐるとそこは緑の深い森の中だった。
目の前に広がる光景に目を点にして新は、パニックに陥っていた。
ここ一体どこだ!?それにさっきの変な声なんだ?
新はすぐに後ろを振り返り、自分が通って来たであろう門が存在する場所を確認した。
「何もない...。門どこいった......」
全く分からない場所に、先ほどの機械的な声。そして物騒なメッセージ。
ビビリである、新を恐怖に陥れるには十分だった。半泣きになりつつ、愚痴がこぼれていく。
「ま、まじでどこだよ。なんで俺、こんなところに......。そうだ携帯!」
慌てて携帯を探す新。
携帯があれば、地図アプリを使って自分の居場所がわかるかもしれない!そう思い立った新だったが、このような超常の現象に見舞われる中、そのような希望は全くもって意味を成さなかった。
「圏外...。これじゃあ使いもんにならねえじゃん......」
再び、半泣きになる新。雫が居たなら慰めてくれたかもしれない。
しかし、もし雫がここに居たなら、そこは男として情けない姿を見せないためにも虚勢を張っていたことだろう。
その場にいても仕方ないと判断した新は移動することにした。
しかし、今の自分は裸足に制服。帰って来て、そのまま門をくぐってしまったので動きやすい服装に着替えておけばよかったと後悔の念が生まれた。
自分が立っている場所には一本道がある。
とりあえず、前に進んでみよう。どこか、人の住んでいる場所に出られるかもしれない。そう期待を寄せて歩み始めた。
歩き始めてから早くも1時間が経とうとしていた。
ギラギラと輝く太陽の熱が新からどんどん体力を奪っていった。
「足痛...喉乾いた......。どこかに水、ないのか......」
いつもなら水分に困ることない生活を送っている新もこの時ばかりは、サバイバルの知識でも覚えとけばよかったと後悔するのであった。
帰ったら絶対にサバイバルの本でも読もうと新は心のなかでそう強く決めた。
それからもう三十分彷徨ったところで水の流れる音が聞こえた。
「川!?こっちか!」
体力を温存しておくなら走るべきではないのだが、そんなことも忘れ、冷静さを失いつつある新は一目散に水の流れる音が聞こえる方向へ一直線に歩を進めた。
「あった!」
川を見つけた新は周りのことなどには一切目もくれず、川に頭を突っ込み、水を飲み始めた。川に住む生物によっては飲めないこともあるのだが、今の新にはそんな思考は存在していない。
「ぷはぁ!生き返る!」
そして顔を上げたところでようやく何かがいることに気がついた。
首を横にひねるとそこには。
緑色の肌をした小さな悪鬼。そう、いわゆるゴブリンがいた。しかも三匹。
固まる新。
「ギギッ!ギー!」
変な鳴き声をしながら、こちらに向かってくる。その手には斧や包丁、棍棒がそれぞれ握られている。
物騒なもん持ってんな...。
まるで他人事のように冷静にそう考えているとゴブリンはこちらに向かってくる。
「ちょ、え?嘘だろ!?」
ようやく他人事から自分の事へと意識が戻り、慌てて逃げる新。
そしてそんな新を餌を見つけたと言わんばかりに必死に追いかけてくるゴブリンしかし、体格差で勝る新は気づけば、ゴブリンを遠く突き放していた。アドレナリンのせいか然程、足は痛く感じなかった。
「はあ、はあ、はあ。どうにか逃げ切れた。なんだよあれ?ゴブリン?あんなのがいるのか?それにしてもあんなのがいるって、まるでゲームみたいな世界だな。もしかしてここって異世界ってやつか?それなら、魔法とか使えるようになるのかな?」
先ほどの恐怖も忘れ、次々にファンタジーな妄想をする新。魔法という概念に思考を絡め取られた新は、テンションが上がっていた。
「じゃあ、もしかしてさっきのやつら倒したらレベルアップとかするのか?」
非現実的なことを目の前にわくわくする新。しかし、気づいてしまう。
「でも、俺、あんなの殺せないよ......」
まともに生物など殺したことのない人間にとって、生きるためとはいえそれは簡単なことではなかった。せいぜい虫程度しか殺したことがないのだ。
それをあんな気持ちの悪いでかい生物など誰が殺せようか。
「どうしよう。なんでこんなことになったんだ。今日は振られて、落ち込んで...わけわからんとこ連れてこられて、殺されそうになって...。俺がなにしたっていうんだよ!」
不安に駆られ思わず感情が荒ぶってしまう。溜まりに溜まったストレスが爆発してしまった。
しかし、不運にもこの爆発は今一番会いたくないやつらを引き寄せてしまう。
「ギギッ!」
「あ、やべ!」
ようやく見つけたぞと言わんばかりにゴブリンが迫ってくる。
でも今は1匹しかいない。これなら、すぐに走れば逃げられそうだ。
振り返った。刹那────。
「いっ!?」
太ももに包丁が刺さっている。なんだコレは...?
「ああああああああああああああああああああああ」
その場に転んで絶叫する。痛い痛い痛い痛い痛い。
その感情しかここにはなかった。
正面から別のゴブリンがゆっくり近づいて来た。
「ギギギ。」
三匹揃ったところ三匹は何か会話している。どうやら俺の殺す方法を相談しているようだ......。
痛みに耐えながらも俺は様子を伺っていた。このまま、このままここにいても殺される。どうにか隙をついて逃げねば。思考を巡らせ、太ももに包丁が刺さったまま走り出した。
いたい。痛い。イタイ。
恐怖と痛みに襲われながらも必死にゴブリンから逃げる。
後ろには獲物を逃さんと追いかけて来るやつらがいる。
力を振り絞り、逃げようとするがその距離は一向に開かない。
だけど、その逃亡劇にも終わりが来た。
崖だ。これ以上前に進むことはできなかった。
殺される。なんで?なんでこうなった?わからない。
「や、やめ......」
分からない。何に恐怖しているのか。ここで死ぬことか。誰にも会えなくなることか。両親の元へ行くことか。分からない。なぜ殺されなければいけないのか。
「はっははは...。」
壊れてしまったかのように振られた時と同じ渇いた笑いがこぼれた。
ゴブリンは不気味に感じたのか、少し怖気付く。それでも三匹は一斉にこちらに殺意を振り下ろして来た。
「ぐっ!」
痛みに耐え、転がり攻撃を避ける。
「はぁはぁはぁ」
そうだ、そうなんだ。やらなきゃやられる。俺がアイツラを壊さないと俺が壊される。
震える自分を押さえつけ一つの覚悟を決める。
「あああああああ!」
足に刺さっている包丁を抜き去り、もう一度襲って来た一匹のゴブリンに対し、一閃。
そこにはゴブリンのものと思われる血だまりができていた。
残り二匹。
虚ろな目をして、次々に襲ってくるゴブリンの攻撃を物ともせず避け、同様に包丁を突き刺した。
「ギ......」
ゴブリンは力なく散った。
緊張の糸が切れた。その場に倒れこむ新。
足には先ほど刺された傷が残っており、未だ、なお血が出ている。
「なんだよ、レベルアップとかねえのかよ......」
待てども待てどもレベルアップのアナウンスが流れることはなかった。
レベルアップとかがあれば、その際に全回復するのはお約束なのだが、現実は甘くなかった。
このままでは失血死してしまう恐れがある。どうにか対処せねば。
そう思い立ったところでゴブリンの死体のそばに何かが落ちていることに気づいた。
そこには、透明な液体の入った小瓶が落ちていた。
新は這いつくばりながらもその小瓶の元まで身を寄せた。
「これ...ポーションてやつか?飲んでも平気か?いや、でも飲まなきゃ死んじまうかもしれないし...」
ゲームだとお約束のポーション。それには回復薬としての効果があると知られている。
得体の知れないものを口に入れる事に抵抗はあったが、これがポーションであった場合、助かる可能性が高い。
迷っていても仕方ない。頭を左右に振り、思い切って蓋を開けて小瓶の中身を飲み干した。
すると、不思議なことに足の血は止まり、傷はふさがっていた。
「よっし...」
その賭けにどうやら勝ったようだった。
しかし、喜んだのも束の間。血を流しすぎたのだ。意味不明な体験と命のやり取りで疲労は限界だった。
傷は癒えても失った血と疲弊した精神は元に戻ることはなかった。
新はその場に眠るように倒れてしまった。
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