ネビュラの使徒
mty
第1章
第1話:異界への門(改稿済み)
放課後を告げるチャイムとともに学園の生徒たちは教室を後にする。
そこには帰宅するもの、部活へ行くもの、居残って自習室で勉強するもの、理由は様々だ。
その中の一人でもある
どこにでもいそうではあるが、彼の評判は決して悪くない。むしろクラスメイトからは高評価を受けている。頼まれれば断らない性格でもある彼は、面倒ごとであっても一度受けた頼まれごとは必ず完遂する。お人好しと言っていいほど優しい面を持ち合わせている。
そんな彼は、今日は一つの決心を持ってとある場所に向かっていた。
その場所というのは屋上である。放課後に屋上とは何の用なのか、事情を知らないクラスメイトが聞いたら疑問が残るだろう。
そう彼は、今日告白するのだ。
同じクラスでありながら、学園でも評判の高嶺の花であるその人の名前は
日本人離れした容姿もっている。美しい金髪と長いまつ毛、筋の通った鼻に白い肌。16歳にして完成されていると言っても過言ではない。
そんな新と彼女の出会いは入学式の時。遅刻しそうだった新は同じく急ぐ彼女とぶつかった。そして、情けなくとも転んだ新に、手を伸ばしながら彼女の一言。
「大丈夫?怪我はない?」
それはもう、一目惚れだった。
彼女は入学と同時に多くの生徒から慕われていた。
容姿だけでなく、心まで美しい彼女に惚れていない人間などいない。
入学式から今現在に至るまで、同じ学園の男子からもちろん、たまには女子からも告白を受けている始末である。
しかし、その全ての人への返答はNO。
誰とも付き合わないのだった。
それでも新は1年の頃から燻っていたこの気持ちを今日、打ち明けようと思っていた。彼女をもっと知りたい。あわよくば、お付き合いしたい。そんな衝動は止められなかった。
勝算?彼にそんなものはない。
それでも新はこの1年間しっかりと下地を積み上げてきたつもりだった。
決して下心だけでない気持ちで彼女に接し、時には助けることも何度かあった。偶然にも1年の頃から同じクラスだった新は、まずはクラスメイト、そして友達としてこの1年間を過ごした。
そうやって彼女と接して行くうちに本当に彼女に惚れていることを自覚した次第である。
普通の人よりは好感度としては高いはず。新の胸にある、その一縷の可能性に賭けるべく今日、こうして彼女を屋上に呼び出し、思いの丈を打ち明けるのであった。
「高崎真白さん、あなたのことが好きです。付き合ってください」
「ごめん」
玉砕だった。考える暇もなく。
いくらなんでも早過ぎない?もう少し考えてくれてもいいじゃない?
新は頭の中は、振られたショックよりも先にそんな考えが駆け巡った。
「私は、誰とも付き合うつもりはないの。あなたは本当の私を知らないから付き合えない。だからあなたの想いには応えられない」
初めから決まっているかのような答えだった。
「本当の高崎さんってなんだよ...」そう小さく呟き、ようやくショックが後からやってきた。
「はは...」
渇いた声が口から溢れる。
思ったよりキツかった。これが失恋なのだと。新たは頭が真っ白になってしまった。
そうして彼女はこちら一瞥すると踵を返し、屋上から出て行ってしまった。
新はその瞬間、悟った。今まで尽く玉砕していった、数多の存在と同じになってしまったのだと。どこかで自分だけは特別なのではないかと思い違いをしていた。彼女のことを分かるのは自分だけだと。
「帰ろう...」
誰もいなくなった屋上で誰に聞かれるでもなく小さな声で呟いて屋上を後にするのだった。
◆
屋上から降りてきた新は、生徒玄関に先ほど自身を振った真白がいないことを確認した。
先ほど振られた相手と玄関で遭遇するなど気まずいどころの騒ぎではない。
玄関には下校する生徒がちらほらと見られたが、そこに真白の姿はなかった。そのことを確認した新は靴を履き替え学園の外へ向かった。
「はあ、忘れよう。彼女のことを。明日から学校も行きたくない。顔を合わせるだけでも気まずい。嫌だなあ.......」
独り言がこぼれた。
「新!」
学園の校門前でそんな絶望の海を泳いでいる新に声をかけるのは、茶髪のショートカットに垂れ目の先ほどの玉砕した真白とはまた違った美少女だった。
「おう、待っててくれたのか?雫」
少女、
どうやら校門前で新の帰りを待っていてくれたようだ。
「どうだった?告白?」
「見れば分かるだろ?玉砕した」
「ははは......。残念だったね......。えっと、一緒に帰ろっか!」
雫から向けられる同情の視線は決して悪いものではなかった。
二つ返事で雫からの誘いに答えると並んで家の方向へ歩き始める。
時刻は黄昏時。広大な空は今にも夜の闇に飲み込まれそうになっている。
そこには数多の星たちがまるで新を励ますかのように燦然と煌めいていた。
「元気出しなよ?そ、その新のいいところは私がいっぱい知ってるからね?」
「あ、ありがとう......。やっぱり雫は良いやつだよなぁ......」
「私にすればいいのに......。私だったら、私が彼女だったら、新の事、悲しませないのに......」
小さな声で呟くその声は、新の耳には届かない。
しばらく、無言が続いたが雫は思い切って新に提案した。
「あの、よかったらこの後ご飯作りに行こうか?」
「いや、いいよ。ごめん。今日は疲れたから一人になりたいんだ。また今度作りに来てよ」
「そ、そうだよね。ごめんね。気を遣えなくて......」
再び訪れる静寂。いつもなら他愛無い話で盛り上がりながらも楽しく帰っているところだが、今日はそんな風に接することは雫にはできなかった。
どうにか新を元気付けようと画策する雫だが、何も具体的な案が思いつかないままに二人は家の目の前に着いた。
二人は幼馴染であり、その家も隣同士なのである。
「じゃあ、また明日」
「う、うん。またね!」
元気なく、別れの挨拶を告げる新のことを心配しながらも雫は新が家の玄関を開けて入って行くまでその様子を見送った。
雫と別れた新は玄関を開け、中に入った。
「ただいまー」
家からは誰の返事も返ってこない。それもそのはず。この家には新以外の住人はいないからだ。
靴を脱ぎ、家へ上がった瞬間に新は家の中に違和感を感じた。
「な...んだ?この感じ?」
違和感を感じながらもリビングへ向かうと、明らかに不自然なものがある。
門だ。門としか形容しがたいものがリビングのど真ん中にあるのだ。
「?何でこんなものがここにあるんだ?それに......」
異質。
門には扉はなく、白い靄がかかっている。それは正面からみても裏からみても同じことだった。
「こんなとこにこんなもん生えてたら邪魔でしかないな。ソファとテレビの間を分断しやがって......」
意外にも冷静に状況を判断し、悪態を吐きながらもその異様な光景にふと考える。
一体この門はなんなのだろう。この門をくぐるとどうなっているんだろう?
そんな疑問は尽きない。試しにすぐ側においてあるティッシュを丸め投げ入れてみる。投げ込んだティッシュは何事もなく、門に吸い込まれていく。裏側からティッシュは出ていない。
新の頭では当然ながら、この光景を処理しきれず呆然としていた。
「意味がわからん。これくぐってもいいのか?どこに繋がってるんだ?」
先ほど振られてしまったことによる暗い気持ちも忘れ、今は目の前の異様な門に意識が注がれる。
不気味に感じつつもなんとなく好奇心が勝ってしまい、門に手を伸ばす。否、伸ばしてしまった。
手は先ほどのティッシュ同様に門の内側へ吸い込まれていく。
「お?おお、入っていく!?」
そして手を飲み込んだそれは、遂には体全ても飲み込んでいった。
家には再び静寂が訪れる。そこには影も存在していなかった。
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