増田さんのペット

@me262

第1話

 私の住むマンションはペット可なので、色々な動物を飼っている人がいる。

 ある日、最上階の部屋に増田さんという老紳士が入居してきた。愛犬を散歩させていると、増田さんと会ったので、私は挨拶した。

「こんにちは」

「やあ、こんにちは。可愛い犬ですね」

「ありがとうございます。増田さんは何を飼ってらっしゃるんですか?」

「残念ながら死に別れてしまいまして。また新しいのを飼おうと思っているんですよ」

 低く甘い声でそう言って、彼は愛犬に近づいた。すると犬はこれまで見た事もない様な剣幕で増田さんに噛み付こうとした。

「駄目じゃない!」

「知らない人だから驚いたんでしょう」

「ごめんなさい。何とお詫びしたら……」

「気にしないで。それなら今晩、御飯を食べに来ませんか?一人身だと誰かと食べたい時があるんですよ。料理には自信があります」

 下心は感じられないので、私は承諾した。

 その晩、私が増田さんの部屋を訪れると、マンションの全住人達がいた。皆、同様に夕食を誘われたらしい。

 顔見知りがいる事で私の気は緩み、増田さんが運ぶ料理と酒をいただいた。どれも美味しく、笑顔で話す増田さんはとても優しげで面白く、その夜は楽しく過ごせた。

「またいらっしゃい。御馳走しますよ」

 私は早速、翌晩彼の部屋を訪れた。


 あれから半年、私は増田さんの部屋に入り浸っている。彼の食事と何とも言えない魅力に、私はすっかりまいってしまった。もう増田さんなしの生活は考えられない。

 先程から犬が餌をねだってうるさい。面倒だから捨ててやる。

 増田さんの笛が聞こえる。御飯の時間だ!ああ、増田さん、いえ、マスター様!

 私は喜び勇んで扉を開け、四つん這いで階段を駆け上って行った。

 私の住むマンションはペット可なので、色々な動物を飼っている人がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

増田さんのペット @me262

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ