第29話 終業式と少しの勇気
テストが終わったらいつもの日常が戻ってきた。ひとつ変わった事があるとするなら、昼休みにみんなと集まる事が増えた。
調理室でラーメンを食べる俺とはがね。
学食でテイクアウトしてくるギャル子ちゃん。
おにぎりを大量に机に並べる
昼食はそこまで食べないのでサンドウィッチの
少し前まで2人だけの空間だったけど、賑やかなこの空気も好きだ。
「ソウジあれ取って」
「あいよ……はがねそれ欲しい」
「んっ」
「「「「「…………」」」」」
もうひとつ変わった事があるとするなら、友人達の視線が生暖かくなった事だろうか。
さて、本日は1学期の終業式。
この高校の変わってる所といえば最後の日にテストの結果を伝える事だろうか。
まったく心臓に悪いったらありゃしない。
そんな訳でホームルー厶後は皆で体育館へ移動して先生達のありがた〜いお話を聞く。有り体に言えば羽目を外しすぎるなよという内容だ。
そして次に表彰式が行われた。これはいつかの美術の時間に描いた人物画のデッサン。はがねの担任の
「え〜。大変名誉な事に美術コンクールで賞を受賞した生徒がいます。名前を呼ばれた者は前へ……」
ザワザワとした雰囲気で待っていると1番始めの人物が呼ばれる。
「2年4組……
えっ? 片原君? ウソッ!?
俺の前に居る片原君は返事を忘れて固まっている。
「か、片原君! 呼ばれてるよ! おーい!」
「え、アレ? 僕?」
「そうだよ! 優秀賞だってさ!」
俺も興奮して何度も肩をゆさゆさしてしまう。
「え〜。片原くん? 片原致くん?」
再び教頭先生が名前を呼ぶ。俺は彼の背中をポンと押すと笑顔で送り出す。
「はいっ!!」
知ってるか? 片原君って俺の親友なんだぜ!
誰かに自慢したくてウズウズしてしまう。手足が震えるのを抑えていると隣のクラスのはがねと目が合う。
(やったやん!)
(めっちゃ嬉しい!)
アイコンタクトで通じるまでに俺と彼女の心の距離は近くなった。何があるわけではないけれど確実に好意は伝わっているはず。
たとえ夏休みに彼女の秘密を知ったとしてもこの気持ちが変わる事はなく、そして全て受け止めて恋仲になる。
恋する人ではなく……恋する仲。
その後、夏休みの諸注意を生活指導の先生から聞いて終業式は終了。これから帰りのホームルームで成績表を貰って1学期全日程の修了になる。
「やったな致!」
「ありがと前田君」
「すごいぜ片原君」
「うん! 唐草君」
ここでふと今更ながらに引っかかりを覚えてしまう。今まであまり気にしなかったけど、彼らとも随分親しくなった。だからこれは俺の第一歩だ。
「あ、あのさ……みんな」
クラス内でいつものメンバーで顔を見合わせる。前田達はどうしたのか? というような顔で俺を覗き込む。
「その……俺達結構親しくなっただろ? だから……その。不屈みたいにさ……俺の事、下の名前で呼んでくれないか?」
「「「「…………」」」」
はがねの時とはまた違う緊張感を持ってしまう。俯いたまま変な汗がポタポタと……
「ふっ」
「ははっ」
「くくくっ」
「がはははははははははっ」
笑いのクレッシェンドが俺を包む。まさか笑われるとは思っていなかったのでポカンとした顔で呆然としてしまう。
「な、なんだよ……」
めちゃくちゃ恥ずかしい。一番大声で笑っている前田をキッと睨むけど収まる気配はない。顔から火が出そうになって席を立とうとしたけど片原君と不屈に止められる。
「じゃあ条件だね」
「条件?」
片原君が正面に来てニッコリと笑う。
「僕の事も下の名前で呼ぶ事! いいね?」
まるで幼子に諭すように指を立てる仕草で俺を見つめる。
「あぁ、わかったよ……致」
「うん! ソウジ」
彼等と過ごしていくと……
「じゃあ俺もだな。ソウジ」
「もちろんだ
少しだけ前に進める気がする……
「私もソウジ君って呼ぶわ」
「じゃ、じゃあ……惹さんで」
「フフフ……ヘタレ」
「うぐっ」
いつか俺の秘密も知ってもらいたい……
「では僕は……」
「不屈は不屈だろ!」
「そんな〜」
「「「「あははははっ」」」」
こんな毎日がずっと続いて欲しいと願いながら夏休みに突入していく。
余談だが俺ははがね達のお陰で赤点回避。そして不屈は数学で赤点……そして意外だったのが、惹さんも数学で赤点。テストの点数を聞いたら……
「フフフ……29点」
まったく……優しすぎるよ惹さん。
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