第28話 細川夫婦とご対面


「はがねの両親への挨拶」

「うん! ウチの両親が会いたがっとったよ」


 唐突に告げられた言葉に緊張してしまう。テストが終わった開放感を喜んでいたらまさかのラスボス戦に挑む事になるとは。


「で、でも俺制服だし」

「は?」


 スーツ買った方がいいかな。



「バイト代の3ヶ月分ってあったかな?」

「あの……は?」


 結納金ってこれくらいだっけ?



「指輪買ってないし」


 結婚指輪? 婚約指輪? どっちだっけ?



「俺……一人娘もらうから婿養子がいいのかな?」


 はがねって確か一人娘だったよな。という事はゆくゆくは俺がラーメン店を支える立場になるのか……


 厨房で味見したり、カウンター磨いたり、賄いはやっぱりはがねのラーメンだよな。

 あっ! でも、チャーハンもいいかも。俺が作れるようになればいいのか。だったらまずは弟子入りかな……でもでも、唐草の湯も継ぎたいし。ならいっそ合体して……


「おーい、ソウジ!」

「ソーウージー!!」


「のわっ! ど、どうしたはがね?」


 耳元で大声出さなくてもいいじゃないか。ビックリする。


「どうしたはこっちやん! 制服とかバイト代ってなんの事?」

「えっ?」


 どうやら俺は色々な方向に暴走していたらしい。彼女はキョトンとした顔でこちらをジッと見つめる。


「はよ行こ! みんな待っとるよ」

「みんな?」


 促されて顔を上げると友人達が勢揃い。


「腹へったぞ! がはははっ」

「早くいこーよ」

「フフフ……味玉は渡さない」

「わかってねぇなぁひかれ。チャーシュー特盛が最高っちゃ!」

「僕はチャーハンセットにしようかな」


 ラーメン談議に花が咲く。


 どうやら俺は勘違いしていた。はがねと2人っきりだと思っていたけどそうじゃない。我ながら勘違い甚だしいと思う。


「これじゃあどっちがポンコツなんだか」

「ふぇ? なんか言ったソウジ」

「いや、何でもねぇよ」


 空を見ればまだ真上付近に太陽がギラつく。これがきっと夏の日のとんこつ日和なのだろう。


 開放感いっぱいの俺達は道中も大はしゃぎ。不屈ふくつのダンスを真似したりギャル子ちゃんの語尾を真似したり(しばかれた)楽しい帰り道を満喫する。



 ガラガラ


「ただいまー!」


 開口一番元気よく店に入っていく我らがリーダー。入口には『臨時休業』と貼ってあったのでもしかしたら最初からここで打ち上げをするつもりだったのだろう。


「おう、帰ったか愛する娘よ!」

「おかえり〜」


 扉の音を聞きつけて厨房から顔を出すはがねの両親。


「オジサン特盛で!」

「おう、ゼンッシーか! 益々デカくなったな」


 前田まえだは待ちきれない様子で注文する。不屈と後神うしろがみさんはみんなの分のお冷を準備して、はがねとギャル子ちゃんは荷物の整理。


 細川夫婦を一言で表すと野獣と美少女。

 パパさんは大柄だけどママさんは小柄。はがねよりは身長は高いけど幼さが残る顔をしている。


 はがねが成長したらママさんみたいになるのかぁ……凄くいい!


 1人店内でする事がない俺は立ち尽くしてしまう。すると厨房からふたりがゆっくりと近づいてくる。


「あ、あのっ! 初めまして、はがねさんの友達の唐草からくさ総司そうじです!」


 直立状態からの90度のお辞儀。そう言えばばかねはデートに俺と行くと言ったのだろうか。

 今更になってなんともしれない不安が頭をよぎる。だけどそれは杞憂に終わり……



 ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ



「もふっ……わふっ……あわわわ、あのっ」



 2人からの熱い抱擁。



「何も言うな……何も……言わなくていい」

「いらっしゃいソウジ君……ずっと……ずっと待ってたわ」


「………………」


 そこから暫く無言の時間が続く。俺を見つめるはがねの瞳がキラリと光った気がした。


「んじゃまぁ……改めて。"とんこつラーメン鋼鉄心こうてつしん"店主の細川鉄左衛門てつざえもんだ」

「わたしはこころで〜す!」

「ウチははがねで〜す!」



「「「3人揃って! とんこつ戦隊・鋼鉄心」」」



 ドパーンッと後ろから爆竹が鳴りそうな格好で3人はポーズを決める。


 こりやぁ間違いなくはがねの両親だわ。


 ノリと勢いは遺伝子レベルで引き継がれるんだな。


「よーしっ! 決まった所でラーメン作るかぁ」


 パパさんは何事もなかったように厨房へと戻っていく。


「おっちゃん、チャーシュー特盛りで!」

「あいよデコッシー。相変わらずキラキラしてんな」

「個性やけんね!」

「がはははっ」


 台風みたいな展開に置いていかれながらテーブル席に着く。肝心のはがねはと言うと奥の方へ入って、しばらく戻ってこなかった。そして……



「お待たせー着替えてきた! どう似合う?」



 ピンクのTシャツには"ドとんこつ!"の文字。赤いバンダナを頭に巻いて、下はジーンズを履いている。


 それを見た俺は当然言葉は決まっていて。



「抱き締めていいか?」


「「「「「「「なんでやねんっ!!!」」」」」」」


 俺とはがね以外から総ツッコミ。パバさんもママさんもとてもノリがいい。


「いや、だって……その、可愛いから」


「俺の知っとる唐草やない。あの頃は……うぅ」

「素直になったって事だと思うよ前田くん」


 男2人で慰め合っている。さっきまで緊張していたけどはがねの働く姿を見たら欲望が抑えられなかった。


「せ、せめて写真を……」

「は、恥ずかしいけんやめれ〜」


 手をクロスさせながらモジモジするはがねちゃん。うん、やっぱり可愛い。


 尚も引かない俺を見たママさんが手招きで俺を呼ぶ。


「な、なんでしょう?」


 はがねの大人バージョンだから妙に緊張してしまう。それを分かってるのかいないのか、心さんは耳元でそっと囁く。



「あの子と結婚したら毎日堪能できるんよ?

 ちなみにまだ成長途中だから将来わたしみたいに……」



 あまり意識してなかったけど、ママさんは服の上からでも分かるご立派な武器をお持ちで……


「あ、えと……ちょっと」


 たゆんとする2つの実りは俺の腕に押し付けられている。しかしすかさずインターセプト。



「オカン! ソウジに手ぇ出すのやめれ〜! ウチのやけんっ!」


「あらあらまぁまぁ」


 はがねが強引に引き離してくれた。女性経験が無い俺からしたら鼻血が出そうだった。




「妻と娘が俺の元から離れていく件……今度小説書いてみるか」



 パパさんの独り言に周りは爆笑に包まれた。



 その後はみんなでラーメンを囲み、テストの反省会もそこそこにきたるべき夏休みに向けての計画を立てるのだった。



 余談だが、俺のラーメンははがねちゃん特製『全部のせ愛が増し増しラーメン』



 もちろん麺はバリカタで!





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