第14話 濃厚な想い
自分自身の気持ちに気付き悶々とした一日が終わろうとしていた。
俺は……
気付いてしまえば呆気ないもので、言葉にすれば濃厚なとんこつスープのように心に染み渡る。だけどそれと同時に彼女に申し訳ないという想いも出てくる。
いつ……伝えようか。
好きという言葉を伝える……というわけではなく。俺自身の秘密というか悩みというか。
スマホのメモ帳の欄を開き、今日あった事を書き記す。
「確か……
記入を終え過去の日付をタップする。俺がここに来る前の日付を見つめながら、ポツリと心が漏れていた。
「…………この名前の子…………誰だっけ」
………………
…………
……
「今日でデッサン最後だからねぇ、みんな頑張ってー。皆が描いてくれたものはコンテストに出すからそのつもりでー」
俺が細川を助けた日の翌日。なんだが恥ずかしくて昼休みに調理室へは行けなかった。
その日の夜に
「なんで来んの? なんで何も言わんの? ウチ助けられてばっかやんかっ! お礼も言えんやんかっ!」
申し訳ない事をした。
泣きそうになりながら怒るものだから俺の恥ずかしさは霧散して、次の日からはいつもと同じようにラーメンをご馳走してもらう約束をして
少し、距離が空いただろうか。
それからお互い表面的な会話しかできずその週は過ぎて、
「フフフフ……恋の悩みかしら?」
「うわっと! う、
正面に座っていたはずの後神さんが俺の横へと移動していた。
「え、えっと……ごめん。集中できてなかった」
「いいわよ。私はもう描き終えたから」
「そっか……」
俺はあと少し残っている。しかしどうもあまり筆が乗らない。
「何か心配事でも?」
髪をかき上げる仕草をする彼女。そのお陰で俺は初めて彼女の素顔を見る事ができた。
「っ! 綺麗な……瞳だね」
「フフフフ……自慢の瞳」
漆黒の瞳が宝石のように俺を見つめる。まるで全てを見透かされたように吸い込まれ、心の中が少しだけ軽くなっていく。
「恋の悩みかしら?」
「うっ……」
もう一度同じ事を言う彼女。どうやら隠し事は出来ないらしい。俺はとりあえずデッサンを終わらせて後神さんに言葉をかける。彼女になら、相談しても大丈夫という心に従って。
「放課後……話がある」
「フフフフ……大胆ね」
同級生なのにドキッとしてしまう大人びた返し。美術の時間が終わり課題を提出して残りの授業を消化する。
そして昼休み。
「ねぇカラカラ」
「ん? どうした?」
お互いぎこちなさが残るけど、なんとかいつも通りを保つ事ができてきた。相変わらず細川のとんこつラーメンはうまい。
だけど、細川の表情は今ひとつパッとしない。そんな彼女から意外な提案を受ける事に……
「今日の放課後さ……一緒に帰らん?」
「……放課後」
「うん……あんね! 美味しいクレープ屋が来とるらしいんよ! やけん……その……この前助けてくれたお礼なんやけど……」
いつもの彼女の強引さはなりを潜め、
だけど今日は……
「ごめん! ちょっと先約があるんだ」
俺のお辞儀に対して目を丸くする彼女。
「そ、そっか……わかった。ごめん……無理に誘って」
「あっ、いや……無理にじゃ」
「……ごめんね」
ダッと走り去って教室を出ていく彼女の背中は……泣いているように見えた。チラリと彼女が座っていた席の器を見ると……残ったスープが波状の心を映し出す。
そして放課後。誰も居なくなった教室で俺は後神さんと
「それで……王子様の悩みってなに?」
「ぶふぅ……」
初手から攻撃はずるいと思う。そんな後神さんの気遣い(イタズラ?)で話しやすい雰囲気を作ってくれたのはありがたい。
「あのさ……あぁ。実はなんだけど……俺、隣のクラスの……」
「ちょっと待って!」
意を決した途端、後神さんは俺に待ったをかける。そして自分のスマホを見つめながら……
「フフフフ……見えるわ」
と言い出した。呆気に取られる俺を他所に何度かタップしたかと思えばポケットに仕舞い俺に向き直る。
「では、どうぞ……」
拍子抜けしながらも、ぎこち無く恥ずかしく彼女に打ち明ける。
「隣のクラスの細川
「えぇ、貴方のお姫様ね」
「あ、いや……えっと」
一向に話が進まないけど仕方ない。
「俺さ……その、彼女に昼休みラーメンご馳走になってるんだけど」
「学校で知らない人はいないわ」
「そうなの?」
「続きを」
「あ、うん……」
合いの手が衝撃的過ぎてどう答えたものか。
「それで、この前彼女が倒れそうな時に……」
「名前を大声で叫んで愛の告白をしたっと」
「そこまてしてない!」
なんなんだよ一体! 後神さん性格悪いよ! ニヤニヤしながら楽しんでるじゃん。
「話が長いわ
ここまで言われたら俺だってヤケだ。顔を赤くしながら叫んでしまう。
「好きだよっ! 好きだから困ってんじゃん!」
教室内に響く程の大音量。目の前の後神さんにだけ聞こえれば良かったのだが、羞恥心に耐えかねた俺のリミッターが外れてしまった。
「ふふふふ……素直ないい子」
「もうっ! ちゃんと話聞いてよ!」
相談者の俺の方が取り乱してしまう。これじゃあまるで駄々っ子だ。なんだか彼女と話していると不思議と子どもの頃に戻ったような気分だ。
「まぁ……初めから分かってたけどね……それじゃあ私は帰るから」
「え! いや、俺の相談はここからが本題なんだけど……」
細川とどうやって恋仲になるのか。俺の秘密を話していいのか……やっとまともに話が出来ると思ったのにもう帰るだって?
「私、心霊番組の再放送見なきゃ……」
「は? 心霊……」
後神さんはスマホを取り出すと時間を確認したのかスタスタと教室を後にする。去り際に……
「……貴方たちなら問題ないわ」
その声の真意は俺には分からない。
………………
「はぁ……相談相手間違えたかなぁ……でもなぁ……
教室に残された俺は重い足取りで下駄箱へと向かう。最近俺の周りでよく騒ぐ3人の顔を思い浮かべながら。
相変わらずおにぎり爆弾の前田。片原君は色んな情報を教えてくれる。そして教室に入るなり意味不明なブレイクダンスを俺の前で披露する不屈が最近の流れ。
まるで昔からの知り合いのように楽しい朝の
まぁ、2年から編入した俺を気遣っての事だろう。だけどその優しさが凄く嬉しかった。
「……どうやったら、細川と……」
恋人になれるのか。
俺の頭の中にはその割合が強くなる。この際秘密の事は黙っていた方がいいのでは? だけどそれは俺の心が許しはしないだろう。
葛藤をしながら下駄箱で靴を履き、少しだけ暑さが和らいだ太陽を見つめて校門を出る。
太陽を眩しいと手でガードを作る。するとそこには人影がいた。
逆光になっていたので目の前の人物が誰か分からない……分からないけど心で感じてしまう。
俺の……心の……安らぎ。
「細……川」
鞄を持った彼女が俺へと駆け寄る。
「んっ!」
先に帰ったものと思っていた。あんな振り方をしたから怒っていると思っていた……だけど彼女は昼休みの不機嫌さを吹き飛ばす声で快活に笑うのだ。
「ねぇカラカラ……デートしよ?」
この想いは消したくない!
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