第13話 薔薇ナイト参上!



「……失礼しました」




 さて、細川ほそかわに抱きついていた現場を担任に見つかり職員室に連行された俺だが、事情聴取もそこそにすんなり帰されてしまった。


「15分の遅刻か……」


 時計を見て足早に美術室へと向かう。その時に宗像むなかた先生から言われた事を思い出していた。


 ………………

 ………………


唐草からくさ

「……はい」


 これは説教されるよな。学校で女の子に抱きつくなんてヤベェ奴だもんなぁ。それに髪の毛をくんかくんかしてたなんて……


 自分で言ってて恥ずかしくなるが、先生からの追及は違う所にあった。


「アイツのラーメン。うまいだろ?」

「えっ? ラーメン?」


 予想外の質問に?マークの俺。


「俺はな……アイツの店の常連なんだよ」

「あ、あぁ……なるほど!」


 そういえば細川が言ってたな。先生達もよく来るって。


「じゃあ先生はポン……細川が虐められてる事知ってたんですよね?」


 何故か俺の中で少し怒りが込み上げてきた。本来なら説教されるはずなのに逆に先生に食ってかかるとは……


「落ち着け唐草」

「あっ……すみません。取り乱しました」


 どうやら予想以上に顔に出ていたらしい。細川の実家に行くという事は親御さんから娘の学校内での行動を聞かれるだろう。

 当然聞かれたからには答えなくちゃいけない。必然的に彼女を注意深く見るはずだ。


 その時に噂の事とか、もしかしたら現場に出くわしたかもしれない。論理立てて言えばその通りだが、少し性急過ぎたか。


「細川の事は前から知ってる。俺達教師陣は該当生徒に指導もした。それに細川の担任の筥崎はこざき先生も目を光らせてるから心配要らない」


「……はい」


 とは言うものの不安は尽きないわけで。


「実際手を出されたとかはないからな……それに細川のクラスにはボディガードがいるからそこまで心配してない。手を出せばアイツが黙っちゃいないだろう」


「はぁ……まぁそうですね」


 ボディガードとは美多目みためさんの事だろう。確かに安心なんだが、四六時中一緒に居るわけでも無いし、彼女が休みの時はひとりになってしまう。


「まぁ、そんなに心配ならお前が細川の側にいてやればいい……お前、アイツの事好きだろ?」


「はぁ……そうですね」


 心配なのは当たり前だ。俺は細川の事が好きなのだから…………………………はっ?




「……………………え? 先生今なんて?」




 ニヤリとする体育教師。


「だってお前、昼休みになるとスキップしながら"とんこつラーメン"って言ってるじゃねぇか」

「んなっ……」


 見られていた……誰もいないと思っていたのに。


 俺は絶望にも似た感情でうなだれてしまう。結局それ以上追及される事なく俺の尋問は終わった。


 何が聞きたかったのか、俺も何が言いたかったのか分からず職員室を追い出される。

 ……そして帰り際。


「青い春だねぇ……がはははははっ」


 豪快な笑い声だけが脳内に残ってしまう。



 ………………

 ………………



「……すみません、遅れました」



 美術室に入ると既に授業は始まっていた。騒がしかったクラスは一瞬にして静寂になり、扉の俺の方を向く……


 ヤバイ……俺は変態の烙印を押されて残りの学校生活を隅っこで大人しく過ごす事になるのか。


 感情が無いような視線を受け止めながら唾を飲み込む。恐ろしくはあったがどこか慣れたような視線。俺は意を決して一歩踏み込むと……



「お帰りヒーロー!」

「カッコよかったらしいな!」

「俺、遠くから見てたぞ!」


「体を張って女の子を守るなんて……」

「キャ〜ン! 憧れる〜」

「ねぇ〜」


 ワァァァァと美術室内が爆発したような勢いで俺へと駆けてくるクラスメイト。一瞬なんの事か分からず反応に困ってしまう。


「え? えっ……何これ?」


 周りをキョロキョロ見渡すと片原かたはら君が俺へ向けて大きくサムズアップしている。


 なるほど、キミのお陰か。


 その後俺はアレコレ質問攻めに合う。騒ぎが収まるまで先生には大変な思いをさたが、俺の隣に来ると……


「はがねちゃんを守ってくれてありがとね。王子様」


 まったく……宗像先生といい筥崎先生といい……少しは教師を信用してもいいかなと思えてくる。




「……ごめんね、後神うしろがみさん。待たせちゃって」

「フフフフフ……気にしてないわ。見えてたから」

「う、うん」


 相変わらず不思議な女の子だ。俺は彼女に謝って遅れた分を取り戻すように集中して描いていた……それから20分程した時に不意に隣から花の香りと綺麗な声が聞こえる。



「ふ〜む……僕のマイハニーを綺麗に描けているだろうか?」

「………………ん?」


 言葉は分かる。だけど言葉の主が分からない。


「ごめん……誰だっけ?」


 俺も大概失礼な奴だが今更なので気にしないで欲しい。しかしそれを不快に思わず、寧ろ当たり前のように自己紹介をしてくれるのは嬉しかった。


「ははははっ! 今更何を言う。君の隣の席ではないか!」

「隣の……」


 俺の隣は片原君だ。あぁ、もしかして右隣の!

 俺は改めて声の主を見る。そこには金髪の王子様が居た。比喩表現ではなく、めちゃくちゃ美形な顔立ちの金髪君なのだ。


「僕の名前は横薔薇よこばら不屈ふくつさ……漢字で書くと……こうかな」


 赤い薔薇(造花)をくわえてポーズを決める王子様。そしてご丁寧にスマホを操作して名前を教えてくれた。


「おぉ、不屈ってカッコイイ名前だな。それに薔薇も入ってる。容姿も王子様っぽいし……いやどっちかと言うと騎士ナイトかな?」


 登場こそビックリしたが、俺の目線に合わせてくれる所とか、周りの人に迷惑にならないように最小限の動きとか……なんか悪い奴ではない気がする。


「はははははっ! この高貴な名前によく気付いてくれた! 歓迎するよ。そして今日から僕達は親友さ!」


 なんとまぁ暑苦しい男だろう。前田まえだとは違った圧を感じる。


「今更だけど、唐草総司からくさそうじだ。人の名前覚えるの苦手だから勘弁してくれ」


 対して横薔薇君は瞳をキラキラさせてニッコリとした笑顔。


「気にしてないさっ! なんてったってマブダチだからね。総司と呼ばせてもらっていいだろうか? そしてどうか僕の事は不屈と呼んでおくれ?」

「お、おう……わかった」


 圧が凄い。そして俺に薔薇を渡そうとしてきたが……


「流石に口のヤツはちょっと……」

「はははっ、これは失敬……ではまた会おう。総司……そしてマイハニー!」


 聞きき逃していたが、彼は後神さんを見てそう呼んでいた。彼が優雅に去っていった後、俺は恐る恐る聞いてみた。




「……後神さんの彼氏?」



 対して後神さんの反応は……




「フフフフフ……呪いの対象」


「おふぅ……」




 不屈の心で頑張れ!




 自分の恋で精一杯なので、他人の恋まで応援できそうにないや。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る