第6話 修羅のギャル

 細川ほそかわさんと海を見た後は結局時間までそこで遊んでしまった。


 帰ってから藤江ふじえさんに事情を話すと「ふふふっ」と朗らかに笑うだけ。彼女の店の方はわからないけどあの明るい性格なら大丈夫だろう。


 唐草からくさの湯は土日がお休みなのでその日を使って普段できない所の掃除をする。藤江さんは遊んで来ていいと言っていたけど、俺は遠慮した。


 友達は所詮他人だ……ましてや家族も……


 これ以上考えていたら暗い心に支配されてしまうので邪念を払うように一心に掃除を進める。そんなこんなをしていたら週末はあっという間に終わっていく。


 ただ一つ贅沢を言っていいなら……彼女のラーメンを食べたいと思った。


 ………………

 …………

 ……


 月曜日の学校ほど行きたくないものはない。だけど今日の昼休みになればあのラーメンが食べられる。


「おはよう唐草! しっかり朝ごはんは食べたと?」

「おはよう前田まえだ君」

「君はいらん」

「……おはよう前田」

「うん、おはよう」


 前の席の前田君……改め前田の机には、おにぎりが渦高く積まれている。


「朝ごはんは食べたよ」

「ならこれあげる! ガハハッ」


 ご飯は食べたと言ったけど、そんなのお構い無しと豪快に笑う前田。その迫力に拒否する事もできず3つほどおにぎりを受け取る。


「それでさ、前田」

「ん?」

「この前の話しなんだけどさ」

「この前の?」


 俺は以前聞けなかった事を聞いてみる。有耶無耶になっていた事を。


「隣のクラスの細川さんの事なんだけど」

「あぁ! ラーメン屋の細川か! 細川がどげんしたと?」

「えっと……その」


 周りに誰もいない事を確認しながら小声で話す。


「なんか、細川さんに近付かない方がいいとか……テストでカンニングしてるとか言う噂を聞いたんだけど……」


 俺の言葉に前田はなんの事というようなキョトンとした顔。


「そげん事いわれようと? そりゃ知らんやった」


 どうやら前田は知らないらしい。それを聞いた俺は一安心する。


 もしかしたら女子達だけの噂なのか?


「そっか。ありがと」

「よかよ。そげん事言われとったら細川が可哀想やね」


 可哀想……だけど実際は。


「その細川さんは全然気にしてないらしいんだよ」

「ん? そうなん?」

「うん。本人は気付いてない」

「なら大丈夫たい」


 いいのだろうか。

 本人が気にしてないならそうなのだろうけど、俺の心にはモヤッとしたものが残る。


「ま、なんとかなるか……」


 他人にあまり深く関わりたくない。


 俺が転勤族だったからそう思うのかもしれない。だけど細川さんに関してはほっとけないというか、目が離せないというか……自分から関わりたいと思う気持ちが勝っている。


 その後の授業もつつがなく消化して昼休みのチャイムが聞こえた。俺は一目散に教室を飛び出して癖になるとんこつ味を求めてひた走る。


「待ちに待ったラーメンだぜ」


 自然と俺の口はラーメンの形をしていた。声に出して言うあたり、どうやら俺は細川さんのラーメンに胃袋を掴まれてしまったらしい。

 そして調理室へと続く廊下を駆け足で進み、扉に手を掛けるが……


 ガチャガチャ


「アレ? 開いてない」


 何度扉に力を加えても開かない。


「……そっか、早すぎたのか」


 チャイムと同時に出てきたから俺の方が早かったのかも。以前までは昼休みに少しクラスメイトと談笑してここに来ていたっけ。


 早とちりした俺は気恥ずかしくなってそこら辺で暇を潰す事に。扉の前で今か今かと彼女を待っている姿を見られたら、またおちょくられるのが目に見えている。


「ふぅ、少し散歩するか」


 調理室は1階にあるのでそこから部室棟へ続く渡り廊下に出てみる。そういえば校内を探検した事がないのでこれ幸いにグルグルと回っていると。


「…………か」

「……どう……」

「……や」


「ん?」


 部室棟の裏手から誰かの話し声が聞こえる。声からして多分女子だろうか。俺は自然とその声のする方へと歩を進めて気付かれないように顔を出す。すると……


「これしかねぇんか?」

「うん……これだけ」


「マジか。なんなん?」

「でも、これしかなかやもん」


 俺の目の前には2人の女子生徒。壁に手をつき威圧感丸出しで迫るのは、金髪とピアスで盛りに盛った見た目が派手なギャル。


 そしてもう1人は壁に背を向け怯えた様子の女の子……細川さんだ。


 見た目派手ギャルは覆い被さるように彼女を威圧している。細川さんの方は鞄の中から何かを取り出そうとしていた。


 もしかして、カツアゲされてるのか?

 あの派手目ギャルがいじめの主犯格?


 俺はそれが真実かどうかもわからないけど、怯える細川さんを見ていたら自然と体が走り出していた。


「おい、細川さんを虐めるのはやめろ!」


 細川さんが鞄から財布らしきものを出す前に強引に間に割って入る。突然現れた俺に対してギャルが不機嫌な顔で俺を睨む。後ろの細川さんの表情は見えない。


「はっ? 誰?」


 細川さんを背中にしながら目の前のギャルと対峙する。

 鋭い目つき、見た目が派手、指の爪は獲物を狙うハンターのようだ。


「細川さんを虐めるな!」


 俺はもう一度同じ言葉を吠えていた。どんな原因かわからないが、虐めとカツアゲは良くない。それに一瞬だけしか見えなかったけど細川さんはプルプル震えていた。


「は? なんの事かちゃ!」


 ちゃ? もしかしてこのギャルは電撃を使う星からやってきたのか?


 俺の思考は削がれかけたが、それでも目の前の彼女に食ってかかる。なぜそうしているのかは俺にもわからない。


「細川さんの事をとんこつ女だとか、テストでカンニングしてるとか、おっちょこちょいのポンコツ女だとか噂を流してるのはキミだな!」


 名探偵ばりにビシッと指を立ててまくし立てる。しかしそれを聞いた派手ギャルと俺の後ろの細川さんが同時に言葉を口にする。




「「は? この子とは親友なんやけど……」」




 その言葉に俺の時が止まる。










 〜ちょこっと北九州講座〜


 今回、派手目ギャル子ちゃんか使っていた言葉は北九州の喋り方です。

 北九州の喋り方は語尾に「〜ちゃ」と付けて会話をする事が多いです。少し聞き慣れないかも知れませんが楽しんで貰えたら嬉しいです。


 それでは、次回もバリカタ!

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