第4話

しばらくの時が過ぎ、季節が春へと変わった頃、


母と会った。


「久しぶりだけど元気そうね。」


「そう言う母さんもね。」


「何か用事だったの?」


「うん。この間の荷物でさ…封筒が入っててさ…」


「あぁ。そう言えば封筒が無かったわね。」


「中を開けて読んじゃった。」


「…そう。それで?」


「それでって?」


「人の手紙を勝手に読んだ感想。」


「お父さんってロマンチックだったんだね。」


「…はぁ~。」


「…何よ?」


「先にごめんなさいじゃないの?勝手に読んだんだから。」


「…それは…ごめんなさい。」


「まぁ、いいわ。気をつけて帰りなさいね。」


「え!?ちょっと待ってよ。私のコメントに何か返すこととかないの?」


「何もないわよ。」


「何で?感想聞いたのそっちじゃん。」


「貴方の感想が知りたかっただけよ。私の想いなんてのは人に言うものじゃないわ。内に秘めるものよ。」


そう言って母は笑顔で去っていった。昔よく見ていた母の笑顔だった。


私は施設を出る。


桜が私を待ち受けてくれていた。


遠くに玉川上水が見えた。


あの先に井の頭公園がある。


私は私の道を歩いていく。

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想いを繋げて くじら時計 @k2kujiratokei

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