第3話

封筒の中には、手紙が3通入っていた。



景子さん


貴方に会えるのが楽しみで仕方ありません。


井の頭公園でお待ちしています。


自然の中を一緒に歩きましょう。

             

 重勝



「シンプル~。」


私はニヤニヤしながら手紙を眺める。重勝は父の名前だ。


次の手紙を読んでみる。




景子さん


桜が綺麗に咲く季節となりましたね。


早く貴方と桜を見に行きたいです。


桜並木に沿って歩きましょうか。


それともボートを浮かべて、


私と貴方で桜が浮かぶ池の世界を


共有したいものです。


              重勝


「ふ~ん。」


父は所謂、お固くて真面目な人間だった。


普段からは想像出来ない手紙の内容だ。


「若い時はロマンチックだったんだ。」


最後の手紙を読む。




景子さん

 

最近は公園を散歩していても、貴方のことを


考えてしまいます。


雑木林から、橋の反対側から、池のほとりから、


そしてあの木の陰から、貴方が出てきてくれないか


と願ってしまいます。


夜空を見上げながら手紙を書いていると、


貴方が星となって見つめてくれているような


そんな気持ちがして心が落ち着いてきます。


貴方も同じ空を眺めて同じように


感じてくれていたら幸せです。


               重勝




「…。」


何か後ろめたい気持ちが沸いてくる。


「すいません。行先を井の頭公園に変更してください。」


「うぅ、寒っ。」


タクシーから降りる。


冬の公園は葉を落とした木々が出迎えてくれ、


冷たい風が木々と私を揺さぶってくる。


読んでしまったという気持ちと


読めて良かったという気持ちで


心の中が落ち着かなかった。


公園の池は、さざ波が立っていた。


辺りを見回す。


寒さが、この場所に静けさと荘厳さを醸し出している。


母と父が歩いただろう道を私も一人歩いてみる。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る