呪いの人形

美容師の専門学校を卒業して、今の美容室に就職が決まって、1年の事。


仲のよかった山内、浜田それぞれ別々の美容室に就職した。



まだまだ見習い中、

毎晩、お店のマネキンを使って練習。

家に帰っても、自腹で購入したマネキンで、練習。

しかし、マネキンも三千円から四千円ほどする。

見習いで、給料も、さほど多くない私達にとってはなかなか厳しい出費だった。

そのため、一つのマネキンをロング、セミロング、ショート、ベリーショートと何回も使い回す事は珍しくなかった。


ある日、3人で居酒屋で飲み会を開く事になった。


会も終盤に差し掛かった頃、山内が奇妙な事を言い出した。


「呪いの人形って信じるか?」

「なんだよそれ。気持ち悪い。」俺はすかさずそう答えた。


「呪いの人形だよ。俺は、その人形を手に入れてから、めきめきと上達してる。」


確かに俺と浜田まだ見習いで、シャンプーがメインだと言うのに、山内はもう指名が入るくらいだと言う。


「俺はもう必要ないから、2人のどっちかにやるよ。」


「じゃあ、俺にくれ。」浜田が少し考えて答えた。

「オーケー、じゃあ明日、持っていってやるよ。」


それから、4ヶ月、また、3人で集まる機会があった。


「山内、最近どうよ。」俺が尋ねると

「あの人形最高だよ!初めは気味が悪かったけど、今じゃあの人形のおかげで、結構指名貰えるようになってきたんだぜ!次はお前にやるよ」



呪いの人形と言われると気持ちが悪いが、

2人とも明らかに上達しているようだった。

「じゃあ、明日お前の家にもらいに行くよ。」

「悪い、明日用事があるんだ。そうだ、俺の家この近くだから、これから俺の家で少し飲み直そうぜ。」


そう言って、3人で山内の家に向かった。


山内の家は、三階建ての三階真ん中の部屋に一人で暮らしている。

山内は、男の一人暮らしと言うのに、部屋はかなり整理されている。


「これだよ。呪いの人形。」


山内が徐に取り出した人形は、

人形とは思えない程、精巧に作られていて、

顔立ちもかなりのかなりの美人で、今にも喋り出しそうな気配すらあった。


顔は、人間ほどあるのに、体は顔ほどしかない奇妙な人形。



「玄関に置いておくから忘れるなよ」

そう言って、山内は人形を紙袋に入れて玄関に置きにいった。


山内の家で2時間ほど飲み直して、解散することになり、俺はタクシーで、家まで帰った。


家に着いた頃には、すっかり酔いも覚めていた。


俺は早速、人形を取り出した。


吸い込まれそうな瞳、綺麗なロングの黒髪。


俺は無性に、この人形の髪を切りたくなった。


「少しくらい、いいよな。もう、2人とも要らないって言ってるし」


俺は、ハサミを持ち出し、人形の髪を切り始めた。



無心に、何かに取り憑かれたように。


気がつけば、思った以上に切り過ぎてしまっていた。


その日は疲れたので、お風呂入って寝ることにした。





翌朝、何気なく昨日貰った

呪いの人形に目をやると、昨日確かに髪を切ったはずなのに、髪が伸びていた。


俺は慌てて、初めの持ち主の山内に電話した。


「おい、なんだよあれ。」


「あれ?」


「人形だよ!」


「ああ、髪伸びただろ」


「なんなんだよあれ。」


「これで、お前も練習し放題だぜ。」

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