12
紅色は黒牛を視認すると、直ちに懐中電灯を消した。何が相手に刺激を与えるかがわからない今、極力余計な行動は避けなければならない。ましてや目の前に現れたのは牛の妖。ろくに準備が整っていない段階でこちらへ突っ込んでくるようなことがあれば一環の終わりである。
(牛……そういえば失念していた。この呪いの果てに現れるモノ――)
丑の刻参りは同じ
動画ではたった一度きりの儀式だったが、運が良かったのか、あるいは悪かったのか――七日を待たずにその儀式は何処からか黒牛を
紅色はそっと懐中電灯をコートに戻し、音をたてないように手に持っていた箱を地に置く。箱の持ち手から手を離し、屈んだ姿勢のまま、左腰の太刀を片手で静かに抜刀し、黒牛へ切っ先を向ける。
わずかな灯りに照らされ、太刀の波紋が白銀に煌めく。迎え撃つ用意は一先ず整った。
黒牛はまだ石段の辺りに立ち尽くしたままだ。
「そんな……どうして……」
横にいる関内が掠れきった細い声を漏らす。
「絶対にそこを動くな」
ゆっくりと立ち上がった紅色は小声で関内に命じ、太刀にもう片方の手を添え、正眼に構えた。
すり足で黒牛との距離を詰める。黒牛はまだ動く様子を見せない。
紅色はふと、夕時に自分も夢を見ていたことを思い出す。随分昔の遠い記憶――妖斬りとしての最初の討伐を行った時の夢だった。あの時は太刀を持つ手が震えていた。だが今は、闇から出でた妖と対峙しようとも、それを畏れ慄くことなく切り捨てるのに、もはや迷いは無い。
(俺はもう、怯える子供じゃない。ヒトに仇なすのなら、叩き切る――)
黒牛が動く。
二人に向かい疾駆した。
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