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 二人は石段を上り、街灯の光が殆ど差し込まない境内に立ち入る。


 二、三ほどの社や詰所が木々の間に所狭しと並ぶ境内の拝殿の脇には、一際存在感のある一本の大木がそびえ立っていた。幹に近づいて目を凝らすと、樹木の皮に二つの円状の傷が入っていた。動画に映っていた木で間違いないだろう。女の腕力で釘打ちをしたせいなのか、幸いにも幹に入った傷はかなり浅く、この傷のために木が腐るようなことはなさそうだった。


 大木の横には植え込みが拝殿の奥へと伸びている。紅色がコートのポケットから懐中電灯を取り出し照らすと、葉の色が周囲のものとやや異なる部位が見て取れた。変色部位はブロック状であるため、すでに職人の手で整えた後なのだろう。比較的最近植え替えたのであろうその箇所は、首領が言っていたヒト三、四人分よりもさらに一回り大きいように感じた。


 紅色がふと懐中電灯の灯りを植え込みから下へ落とすと、地面にあるものを見つけた。


 足跡である。


 野良の犬猫の類ではなく、ひづめだ。紅色の足よりもやや小さい程度の跡が、土の上に鮮明に残っている。

 まっとうな生物の蹄ということは、断じて有り得ない大きさだ。


「何、これ?」

「『居ます』よ。大きな声は出さないように――」


 石段の方角から何かが歩いてくる。


 十分な距離があるはずの石段から、何者かが、ひた、ひたと静謐に登る音が聞こえる。


 境内の外の電灯から漏れる薄暗い灯が、その来訪者をわずかに照らす。


 その下に現れたのは――


 瑞々しく濡れた鼻、二本の角、屈強な肉付きの四つ脚。


 真っ黒な、牛だ。


 こちらを見据えた両のまなこだけが、燃え盛るように赤く揺らめいていた。

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