第34話 交渉

 一時間も待たされた挙句にドローンへの電力供給というよくわからない回答だけだった。

 要するにこの知的生命体に解決策を提示していただこうというなんとも情けないもので結局私たちが下等生物と自ら認めることになるというお粗末な結果に泣きたくなる。

 盗みに入った家の住人に家から抜け出す方法を聞くようなもので素直に教えてくれるとは思えなかった。

『とにかく身動き取れないようにしっかりと拘束してから新しいオーブをセットしてやれ』

 コウラに言われるまでもなくしっかりとワイヤーで固定している。

 校庭にある鉄棒に引っ掛けているが本来の用途以上に役に立った鉄棒だろう。

 ワイヤーは体育館倉庫にあったものを拝借している。

 ステージ上に卒業とか入学おめでとうなどの板を吊り下げるものなのでドローンの馬力に負けて切れることはないと思うが心配ではある。

 破損したオーブがセットしてあった場所に電撃用のオーブをセットしてしばらくようすを見ていると何らかの起動音がして強制終了させられた状態を復元しているような点滅を繰り返している。

「目が覚めたなら返事できるでしょ?!」

 様子見で静かになっているドローンに怒鳴るような声をかけた。

 驚いたのかドローンは急に飛び立とうと全力と思われる排気を噴出した……が、すぐにワイヤーの限界に達して鉄棒に引っかかった昆虫のように止まった。

「ちょっと大丈夫?」

 機械仕掛けの物体を心配するフリをして飛び立とうとしないように着地させると足で押さえつけた。

 正確に言うと踏んづけている。

「ナニヲスル、スグニ、ワタシヲ、カイホウシナサイ」

「答えてくれれば解放してあげる。オーバー?」

「ナニヲ、キキタイ?」

 素直な感じで返答をしてくるドローンが急にガサガサとノイズが混じり始めた。また壊れるのでは?と不安になる。だがドローンは意識を調整するように発光部分が点滅してノイズは解消された。

「さあ、質問をしろ、下等生物」

 きゅうに日本語が本当に流暢になりさらに偉そうになった。ガイドは卒業らしい。

「下等生物?何この状況で偉そうに話ているのかな」

 少し強く踏みつけるとカタカタと両翼を動かし抵抗しているがすぐにおとなしくなった。

「痛いので足をよけてくれませんか……」

 機械の癖に痛みを感じる神経があるのだろうか?こいつは向こう側の世界で小動物なカテゴリーに属しているのだろうか?

「それで何をお話すれば……」

 打って変り低姿勢になったドローンにこちらのピンチを悟られないように冷静を装う。

「まず聞きたいのは今この空間があんたのせいで崩壊しそうだということ、あんたが大量の電力を放出したせいで……私は出ることができるけどあんたとこの空間は崩壊してしまう。できればこの空間を消失したくない、高等生物なら解決策を知っているんじゃないの」

 実際私は夢から強制退去することはできる。

 ただそうなるとテル君も救えず東京のど真ん中に立ち入り制限区域を作ってしまう。

 巻き込まれる人間も数万人……なんとしても避けたい事態だ。

 しばらく考えるようにゆっくりと上部の発光部分が点滅している。

「推測しますに、この不安定な空間は異世界同士の狭間に存在する気泡のような特殊な空間であると考えるのですが、われわれは大昔に狭間を使って異世界に進入する研究をしていましたが諸事情により干渉するのは間違いであると結論付けました。もしもそういうことなら私を速やかにもとの世界に帰して、この世界からこの気泡たる空間を分離することをお勧めします」

「分離する?それはどういうこと?そんなことできるの?」

 そんな事をできる技術が私たちの世界にあるとは思えず少し絶望した。

「簡単なことですよ、この空間はあなた方の世界を何らかの方法で複製した擬似空間だと思いますが、その特異点となる装置を強制的に世界の外側に押し出せば気泡空間は世界から独立した存在になります。あなたは逃げて私は帰り気泡空間は狭間さまよう独立世界へと変化いたします。エネルギーが尽きれば自然消滅します。これで万事解決、めでたしです」

「理屈はわかった。それじゃあこの金色のオーブはどうやって使うの?」

「あっ、それは返却していただきます。虹色のモノと同等に、あなた方がオーブと呼ぶその石は私どもの世界でも貴重なものです。しかもあなた方に使いこなせるとは思えません、あなたが破壊したトラクターのことは不問にしますのですぐに返すのです」

「虹色も貴重なの?あんたたちの世界には結構浮遊していたけど……」

「浮遊していた?何を言っているのですか?この石はまれに地面に落ちていることがあるだけで……第一規定期間でもわずか80個ほどしか発見できません。金色にいたっては期間中20から25個ほど、ああ、第一規定期間というのはあなた方の単位で……えーと、327日ほどです」

 こいつらはオーブが妖精体と言うことを知らないのか?あれだけいるのに見えないということか?しかも一年かけて80個とはどうなんだろう。

「悪いけど返却はできない、これが必要だからあなた方の世界に侵入したの、これはいただく、あなたは帰りたいんでしょ、元の世界に帰すということで納得して協力しなさい、そうじゃなければ私はこれをもってここを立ち去るだけあなたはここで消滅しなさい」

 生物に対してなら到底言えないようなことを言い切ってしまう。私って悪だ。

 苦虫を噛み潰したようなノイズと光源点滅を数秒間、両翼が苦しげに動くのは悩んでいるのだろうか?人間と変わらない高性能なAIなのだろう。

「あんた変わってるね、機械のくせに帰郷願望があるんだ。それとも金のオーブを持ち帰る任務のためなの?」

「はー?私はロボではない……意識だけはきちんと生物だ。しかも高等な部類の、意識はここにあるが肉体はコントロールセンターにある、帰れなければ死亡扱いだ肉体は有効活用されるだろうな」

 やけにさびしげに語りだしたドローンはAIではなく知的生命体?私の中の罪悪感が強くなった。

 テル君を助けるために私以外の誰かを犠牲にしようとしている。

 ドローンはいやそうに上部を一度だけ赤く点滅させると元の世界に返すことを条件に金色のオーブを使用するための協力に応じると約束した。

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