第33話 捕獲

 すぐに逃げ出そうと暴れる猫を押さえ込むように両腕で抱え「何もしないから落ち着いて、暴れないで」と大声で語りかける。

「デンリョク、モウ、ワズカ……オタスケ……を」

 (を)がなぜか日本の昔の響きに聞こえ急にかわいそうになった。

 さっきまで上から目線で話していたものが本性を現した気がした。

 こいつらは科学が進んでいても固体としては非常に弱いのではないのか?

 動きの止まったドローンを警戒しながら抱え込むのをやめ手に持ったまま観察する。

 プロペラが回っていると思っていた両翼のリングの中は戦闘機のお尻に付いているような筒状のモノが4つ並んでいてモーター音に聞こえた音は上部の……フィルター?と思しきところから出る吸気音なのだとわかる。

 今もかすかに吸い込んでいる音がして、まだ生きているのだろう事を思わせた。

 下部にある発光部分が弱い赤に光る。

 さっきまでグリーンに光っていたように思う。

 こちらの常識的色彩感覚でいえば、赤は何かしらの警告色……電池切れかとため息が出た。

「コウラ、観測ドローを捕まえた。たぶん電池切れだと思う」

『電池切れ?サラちゃん、そのドローンどこか破損してないか?特に電力供給部分近く』

「そんなことわからない、大体どこが電池のある場所なのかすらわからないし」

 コウラが一度黙り込んだ。何かぶつぶつとつぶやいているのはわかる、構造がどうとか漏電がどうとかよくわからない。

『ドローンの形状をおしえてくれ!』

 急に大きな声で言われて少し耳が痛いのは我慢した。

 最近我慢することが多くて困るなとか思いながらもう一度ドローンを観察しなおした。

「本体から短い両翼が伸びて端にそのまま大きめのリングが付いてる。だけどプロペラとかなくて戦闘機のお尻みたいな小さな筒が4つずつフレームで組まれているわね、中央は本体だと思う……新幹線のクチバシみたいな形で下に丸い発光部分がいま赤く光ってる。さっきまで緑だったように思うけど……こうなる直前に電力わずかとか言っていたしね、正面、たぶん進行方向は斜めに流線型で途中にも白い発光部分があるわ、光ってないけど、その途中に触手みたいなカメラが、そうだな、胃カメラみたいな感じで動いてこちらを観察していた。後ろは垂直に切れていて……なんだろモニターなのかな?」

 伝わっているのか疑問だがコウラは真剣に聞いているようだ。頭の中で私の説明を立体画像に変換しているのだろうか。

『そのモニターには何か表示はないの?』

「黒くて素材的に本体と違うだけ」

『それ、外れるんじゃない、蓋とかになって……』

「あっ開いた!」

 蓋といわれた瞬間ちょっと強めに押してずらしてしまった。なんとも直感的に動く代物に少しのユルさを感じてしまった。

 セキュリティーに対するデザイン的思考が感じられないのだ。

 この機械、いやあの世界そのものに危機感が感じられない事に気がついた。

『中はどうなっている?』

 コウラがせかすように聞いてきたのでのぞきこむと、あの農場の小屋と同じように虹色のオーブがセットしてある。

 向こうの世界は虹色のオーブで動く世界なのだろう。

 こちら側では数百年後にやっと発見される代物だ。

 地球人類はまだ存在さえ知らないでいる。

「んっ、このオーブなんか変だ。一部分だけ変色して黒くなっているわ」

『それだ!』

 コウラが手柄でも立てたような声で叫んだ。

 正直耳が痛い。

『そのオーブは何らかの衝撃で破損している。たとえば急激な電流の逆流で表面が焼きついて自然な放電ができなくなってしまった。それで破損箇所から急激な放電でアウトサイドに過剰な負荷がかかった』

「それって電撃が原因じゃないの……」

『そうそうそんな感じで……あれ?それだと俺が原因?』

「そうなるよね、ここがあと3時間で消滅とか面白いことになっている原因」

『でも電撃使ったのはサラちゃんだからおあいこということで……』

「そんな責任問題なんてどうでもいいから状況の打開策を提示して!」

 しばらく時間をくれないかといってコウラは通信を切断した。

 ドローンに入っている電力用オーブは取り外して放置しても問題ないらしいが、考えてみればこのひとつのオーブで今の世界を数か月間動かせるエネルギーだということは、言い換えれば恐ろしいほどのエネルギー埋蔵量ということになる。

 爆発しようものならどんな被害があるのか計り知れないなと怖くなった。

 このアウトサイドにいったいどのくらいの過剰エネルギーが放出されたのか……考えると気が狂いそうなのでやめた。

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