第32話 ドローン

 自分のアウトサイドに戻ると素早く針金の一箇所を外した。

 安全装置的にすぐに断線できるようにしていたのだ。

 中継器は赤の発光に変わりゲートはすぐに閉じて光の支柱は虹色のオーブに吸い込まれるように消えてしまった。

「コウラ、金色のオーブを手に入れた」

 コウラに怒鳴るような通信を送ったがノイズばかりで返事がなかった。

「何してんのよ大事な時に……」

 呟いた私の声にかぶさるように、背後から異様なモーター音が響いている事に気が付いた。振り向くと飛行型のドローンがそこにいる。

 私は焦りながらもゆっくりと後ずさりした。

 まるでクマと対峙したような行動をとるのはどうしてだろうと、どうでもいいことが頭に浮かぶ。

 数歩下がるとドローンは距離を保ったまま付いてきた。

 ためしに一歩前に出るとそれにあわせてドローンも下がった。

 変な光線とか撃ってくる様子もなく、ただ距離を保って私を観察しているのだろうか?私はどうすればいいのかわからずに動くのをやめ呼吸を整えた。

 1分とはいえアミュレットを開放しあれだけの戦闘をしたことで石が濁り始めている。

 状況としてはこのドローンのせいでコウラと通信が出来ないのだろう。

 どうするか考えても答えなど見つかるはずも無い、もう一度アミュレットを開放してコイツを叩き落すか?

「アー……アー!」

 複雑に入り混じったような電子音声がドローンから聞こえてきた。

「オロカナル、カトウセイブツニ、ツゲル、ワレヲコノリョウイキヨリ、カイホウセヨ」

 流暢なガイド機能みたいな日本語でコンタクトを取ってきた。

 しかも何か偉そうに上から目線で気に入らない、確かに他人の世界に入り込んで泥棒じみた事、いやはっきりと泥棒をしたが、ここはあくまで私の世界でその延長線上に向こう側がある、などと屁理屈を思考しながら睨み返した。

 状況的に見て私は侵略者で悪だなと思いながらもワザと人間的基準を無視するように歩み寄った。

 もちろんドローンも距離をとろうと後ろに下がる。

 こいつ怖がっている?

 偉そうな態度はハッタリだと中学の時の苦い経験が教えてくれた。

『ちゃん……サラちゃん……聞こえるか?』

 コウラからの通信が復旧した。何らかの手段でこの妨害電波をかいくぐったのだろうか。

『聞こえるか?実にやばい状態だ、アウトサイドの異常波動を観測している。ゲートも強制停止しているしおかしな振動が徐々に大きくなっている。何が起こってるんだ?このままでは3時間20分後に半径3キロが次元震に飲み込まれて消えうせるぞ』

「私も今対処に困ってる。向こう側の観測ドローンをつれてきたみたい……」

 コウラが絶句したのがわかるように呼吸音がスピーカーから消えた。

「絶句してないで対処法を教えて」

『ああ、すまない予想外の展開に思考が追いつかない、それでそいつとはコンタクトが可能なのか?』

「ええ、私たちを下等生物とか言って、元の世界に帰せとか上から目線でのたまってるけどどうすればいい?」

『とにかく話をするんだ!何か解決の糸口がつかめるかもしれない』

 とにかく何でもいいからこの上から目線のドローンと話をしないといけないらしい。

「あんた話せるの?何でついてきちゃったんだよ、普通あきらめるでしょ」

「……」

 返事もなしかよと思いながら戦闘体勢丸出しに身構えて一歩前に出るとさっきと違い向こうは引かないでとまったままだ。

「何?下等生物とは話せないとか決まりでもある?会話できる以上お互いに歩み寄りがないと解決策は見出せないと思うのだけど」

 少し迷っている?そんな感じがするふらつきが一瞬だけ見えた気がした。ただのドローンにしては人間くさいAIでも搭載しているのだろうか?生還したいという願望でもあるのならそれは機械仕掛けとは微妙に違ってくる。

「コノセカイハ……ナゼコンナニ、フアンテイナノダ……」

 ドローンは次第に安定を失いときどき左右に旋回しながらも何とかホバリング状態を保っている。

 私はゆっくりと近づき少し高い位置に浮遊するドローンを捕まえた。

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