第31話 金のオーブ
遠くから何かが移動する音、リズミカルなので機械的な足音だ。
だが(カシャ)という一回の音が複数で重なり合うので、2足歩行ではないと直感的に思考した。
私は音が来るほうから陰になる小屋の後ろに回り様子を見ると、道路に沿うように何かがこちらに向かって歩いてくる。
たぶん機械仕掛けの何か?近づくにつれその容姿がハッキリと確認できた。
こっそりと写真を撮りそれを観察するが見つかったらかなりやばいんじゃないかと思う。
この農業地帯では身を隠す場所がここしかないことに不安を感じ鼓動が早くなる。
かなり巨大な蜘蛛と表現するしかない形状に少し怖くなりながら詳細を確認すると足と認識できる部位は6本ある。
楕円形の軽自動車ほどの本体には下側に足以外の突起があるが役割はわかるはずもない。
後数十メートルで遭遇する距離まで来るとそれは停止して向きを90度変えた。
柵の一部が遮断機みたいに上がり前の2本足が柵の支柱にちょうど重なって一体になる。
後ろの4本足で踏ん張るみたいに本体だけが前に迫出すような姿勢になった。
下の2本の突起物が本体と共に正面に向きを変え、何度か調整するように先端の幅が広がった。私は逐一写真を撮りながら様子を伺う。
調整を終えたのか一度停止して本体から突起物の後ろ側に筒のような何かが下がり出た。
「あっ金色の……」
金色のオーブが筒の先端にセットされていてその先からチューブのようなものが突起物の後ろに延びている。
機械の蜘蛛から延びた突起が熱を持ったように光り出した。
その光はすぐに正面に向かって放出された。
私は光を直視しないように左手で目の前に影を作り発光の収まるのを待った。
それから何度か小屋の近くで同じ動作をした機械の蜘蛛が正面に向き直った。畑は見事なまでに消失して土だけが残っていた。
直線的な収穫の正体がこの機械だった。
あれは収穫用の農業用ドローンなのだ。
そして収穫物は情報に分解され金色のオーブに保存される。
今までの情報からするとそうだろう。
私は農業蜘蛛が去ってくれるのを待った……が、蜘蛛はこちらに近寄って来た。
私はさらに壁に張り付くように体を薄くした。
もちろん気持ちだけでそうはなっていない事は承知している。
機械音と共に小屋の屋根が開いて、農業蜘蛛が小屋にまたがる感じで本体が真上に来た。
何をしているのかここからは見えないが足の一本が私の目の前にある。
ギリギリぶつかっていない。
先端には車輪が付いていて車輪走行も可能な感じだ。
たぶん舗装されてない道の轍と一致しているだろうと悠長に思うが体は硬直したまま動かない。
〈ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ〉
けたたましいアラーム音が響き渡る。
進入50分を告げるアラームだ。
私はあわててスイッチを探すが、もどかしいほど手探りでわからなかった。
こんなことならバイブ機能のみで設定してもらえばよかったと思っても、後の祭り、やっとの思いでスイッチを切ると、私の目の前には農業蜘蛛本体から金属製の触手みたいなものが伸びて、その先端はカメラになっているのか私を見つめていた。
「ドウモ、こんにちは……」
右手で友好を示すように軽く振ってみた。
〈ウーーーーーーーーーーーーーーーーー〉
サイレンが遠くの何処からか響き出してカメラだと思っていた農業蜘蛛の触手の先端が割れてアーム状になった。
一度触手が間合いを開けると私を捕獲する気満々のような勢いでアームが向かってきた。
人間の反射神経は危機的な状況下で加速するのだと驚きながら、なんとかすり抜けると元来た道に向かって駆け出した。
走るのが苦手とか言っている場合じゃない。
私の全力を出し切ってもたかが知れているけど全力を出すしかないのだ。
農業蜘蛛が動き出すのを振り向き確認した。
方向変換に時間を要した蜘蛛は、それを帳消しにするスピードで追いかけてくる。
舗装されて無い道で何度か躓いて転びそうになるのを耐えながら走る。
この道はワザと舗装して無いんじゃないのかと思えるほど走りづらい、侵入者対策であの蜘蛛みたいな機械が多足な理由を理解した。
いつの間にか飛行型のドローンが走る私と平行に飛んでいる。
カメラが私を撮り続け何かしてくる気配はなかった。
忌々しいが今は無視するしか無いようだ。
私はカメラで撮られることに慣れていない、むしろ強く拒否したいタイプの人間だ。テレビに出たがる輩を心底理解できないしなりたくも無い。
今すぐ撃墜したい衝動に耐える。
何とか橋までたどり着くとすでに背後に農業蜘蛛が迫っていた。
私は触手に突き飛ばされると、走っていた勢いにのせられるように前方に転がった。何度か転がり私は天を仰ぐように止まった。
農業蜘蛛は倒れた私に油断したのかスピードを緩め私を観察するように触手を伸ばしてきた。
飛行型のドローンは農業蜘蛛の本体に結合したみたいに乗っかっているのが見える。
触手が私の目の前に来た。
何かの光線が私を何度も照らして、体をスキャンしているみたいだ。
私はタイミングを計り、思い切ってその触手を掴むと電撃の発生ボタンを押した。
〈バチバチバチ〉と電流が回路を壊す音がして農業蜘蛛の関節や接合部分から煙が上がる。
農業蜘蛛はそのまま動かなくなり、私は1分間限定でアミュレットの解放を試した。
農業蜘蛛の足をもぎ取り仰向けで転がすと、腹の突起ももぎ取ってそれを使い腹の後ろにある蓋をこじ開けた。
「これだ、金色のオーブ」
力ずくで筒状のパイプを壊して金のオーブを外してコレクションバックにしまい、残りの20秒で全力疾走した。
全力疾走はすでに飛んでいる様に風景を置き去りにして、私は光の支柱に飛び込んだ。
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