第30話 異世界
私は腰に巻きつけたマインパック改に付いているタイマーボタンを押して出現したゲートの前に立ち深呼吸した。
右手をそっと柱に押し当てたが何の感触も無い、本当にこれで異世界にいけるのか不安になる。
「それじゃあ、行って来るね、もし私が帰らないときはテル君をそのまま起してあげて、彼には家族が付いているから」
『縁起でもない事言ってないでさくっと行って来い』
コウラの言葉に促がされるように私はゲートの中に足を踏み入れた。
スッと体が柱の中に入った。
まるで知らない国に来たような嗅いだ事の無い匂いのする空気に戸惑う。
ゲートの中では押し出されるような感じで急上昇すると時間の感覚とか存在の有無など自分と言う概念が曖昧になった。
そして突然に空腹を感じて目覚めるように自分を取り戻す。
取り戻すにつれて自分が急降下の最中だと気づいて、あわてるとすぐにゲートの中に進入した時と変わらない感覚でスッと押し出されるように外に出た。
風景に身震いしてその空気を吸い込む、アウトサイドと同様に未来人が妖精と呼ぶオーブの原体が普通に浮遊している。しかも密集密度の高い場所は大きな光源のように見える。
なのに私はアウトサイドとは違う感覚に戸惑ってもいる。
実際この体は日常的にリアルでアウトサイドの中で感じていたわずかな解像度の低さが消えてなくなっていた。
私はホログラムでもなければハリボテでもない、仕組みはわからないがちゃんとここに存在しているのだ。
これは報告したほうがいいなとか現実的な思考も正常に働いている。
今一度本物と思える裸眼でぐるりと風景をなぞった。
浮遊物以外この世界は至って普通だ。
確かに私の感覚では別の世界に来たと認識しているがそこにあるモノは普通でしかない、広大なエネルギーで壁を貫いて飛来した割には物理法則も同じでたぶん魔法も使えない所なのだ。
光の柱は私の夢と同じようにそこにあり10メートルぐらいで薄く消えている。
それでも少し小高い丘の上なので、目立つ感じがするなと思いながら歩き出した。
地図があるわけではない、行方不明のドローンが撮った写真に写りこんだ金色の何かは水辺にいた。
場所は違うが沼のほとりと思われるところに浮遊しているのかも知れないので水辺を探して歩いた。
しばらく歩いても浮遊しているのは見慣れたモノだけで金色は現れない。
少し丘から下って雑木林を抜けると舗装されて無い道に出た。
明らかに人工的に作られた道には轍が深く刻まれている。
荷車的な細い溝が折り重なって出来たと思われる。
現代の車のタイヤとかではなさそうだ。
発展途上の何らかの知的生命体の痕跡と見るべきだろう。
道の脇は所々法面として削られた斜面に見たことの無い文字の書いてある木の板が張り付いているので確信する。
生物との接触は避けるべきだが私はそれに強い興味を引かれ逆らえずに道なりに進んだ。
小さな川には橋が架かっていて、住人がいる事確定だ。
ただ残念なのは川の水辺にも金色のオーブは見当たらない、虹色やほかの色彩のものは普通に漂っている。
仕方なく橋を渡り川の向うに渡った。
いつの間にか道の両脇に柵が立てられ畑が広がっている事に気がついた。
規則的に広がる農地は所々収穫を終えたように直線的な跡が延びる。刈り取られたと言うより消えてしまったように何も無い土色が見えるだけ、何らかの作物を生産して何かの企画で収穫しているのだろうか?基準はわからないがとにかく直線なラインの入る農地に見入ってしまう。
暫くすると遠くに小屋があるのを見つけ、そこに向かう。
木造小屋の窓には鉄の格子がはまって中は暗く見えにくい。入り口はなく一箇所の窓だけがある不自然なつくりに特異な文化を感じ、何気なく壁に触ると木造に似せた樹脂製だと気づいた。
よく見ると周りの柵も規格品のように均一で所々センサーのようなパネルが付いている。
発達レベルの遅れた文明の風景を楽しんでいたつもりだがとんだお門違いかもしれない。
私は小屋の裏面の小さな扉に気がついて恐る恐る開いてみた。
中にはモニターがあり言語らしい記号の羅列が表示されている。
しかもモニターの上にはガラスの小窓があり中に虹色のオーブがはめ込まれていた。
「これは電源なんだよね、たぶんだけど一応写真だけ撮ろう」
だれも聞いていないのに独り言を口にしながら作業を進める。
最悪今回の進入で収穫がなくてもヒントとなるモノを一つでも多く集める事が重要だと思いシャッターをきる。
時間通り帰り6時間後の再チャレンジに備える事ができる。
テル君の状態から見てそれが最後のチャンスとなるかもしれないのだ。
もちろん今回の進入で金色のオーブを見つけられればそれがいい。
モニターを何枚か撮影してから道に戻ろうとした時音が聞こえてきた。
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