第29話 転移サークル

 中学校の校庭にコウラがレクチャーしてくれた転移サークルを作った。

 広い場所と指定されて、広いといえば校庭じゃないかと安易な考えでいたがあながち間違いではないな思う。

 転移サークル制作のために短時間で2度もアウトサイドと現実を往復して機材を持ち込んだので、なんだか感覚が麻痺しているような気分だ。

 もはや寝ているのか起きているのか意識しないと曖昧さに飲み込まれそうになる。

 転移サークルはアウトサイドから向こう側、つまり異世界に行くためのゲートを出現させる装置になるらしい。

 私は作り方の作業手順と転移サークルの図面を短時間で記憶してアウトサイドの中で重労働に勤しむと言う苦行に耐えた。 

 汗が大きなしずくとなって地面に吸い込まれる程、太陽は容赦なく照りつけている中でのことだ。

 学校の体育倉庫からライン引きを拝借して中心点を決めて頭に叩き込んだ図面どおりに線を引き、そこにホームセンターからいただいたロープ止め金具をポイントを決めて打ち込んでいく。女子高生には不向きな肉体労働はいくらアウトサイドの中とはいえ私を疲弊させる。

 アミュレットの開放機能を使えば楽かもしれないが時間が無いので強制終了させるわけには行かなかった。

 計算された幾何学模様の転移サークルは有村祐一郎が設計してAIが最適化した図形になっているらしい。

 科学とはかけ離れた怪しい魔術信仰、アニメでよく見る魔法陣?みたいで変な感じがする。

 こういうモノが出てくると、アウトサイドとかタイムトラベルとか未来人なんてSFチックな展開が、異世界と共に一気にファンタジーモノへと設定変換された気がした。

 私はついていない主人公かっ、と、自身に突っ込んでみる。

 説明されている時、コウラは笑いながらもそうでもないよと言った。

「所詮科学なんて極めれば魔法のようなものだからファンタジーでいいんじゃねーか」

 研究者とは思えない発言に辟易する。

 これから異世界へと旅たつ人間にとっては笑い事ではない。

 ロープ止め金具を打ち込み終わり、リアルから持ち込んだ極細の未来製特殊合金の針金を巻きつけていく、地面から少し浮き上がった状態で立体的な大きなクモの巣みたいなモノが出来上がった。

 最後に虹色のオーブを中心にすえれば完成だ。

 細かい調整は、ゲート調整用に持ち込んだ中継器を介してコウラがやってくれる。缶コーヒーほどの小さな中継器をサークルに張り巡らせた針金の一番後ろの先端につないだ。

 我ながらいい作品になったと思い校庭に出現させたモニュメントを眺める。

 これで本当にゲートが開いて向うの世界にいけるのか、確立は半々と言ったところで、私の能力をもってその程度だとコウラが言った。

 それでも未来の世界の成功例は1720回の失敗と1回の成功という恐ろしいものだ。

 その一回も2時間の異世界接続で途切れ探査ドローンが戻ることはなかったとコウラは苦い顔をした。


 サークルの設置を完了して一度現実に戻る。

 この間もテル君の容態は悪化の一途をたどり私の気持ちは凍てついた氷を押し付けられたように冷たい痛みに耐えることになった。

「これはドローンが撮影した映像を画像処理したものだ」

 たった一度成功した2時間の接続の間に撮られた写真は、特別なものではなかった。

 見慣れた風景と言った所で、山の稜線が見える手前の土地に森が広がり、川が流れごつごつした岩が点在している。

 遠くに何か解らない物が幾つかの集合体としてあり画像上にDと表示がされていてたぶん集落のようなものだろう。

 Dの意味はきっとDANGERなのかもしれない。

「異世界で意識素体の大神さんがどういう状態になるのかわからない、増幅器つきのホログラムドローンは上手く機能したから、大丈夫だと思うけど、確かじゃない……一応異世界進入型のマインパックには、実体化のための高出力増幅器が付いているけどね、それと向うでは生物との接触は出来るだけ避ける。もし好戦的な生物に見つかった場合攻撃を受けるだろうから気をつけること」

 コウラは異世界での注意点を説明してから潜入型マインパックをくれた。

 異世界に行くための特殊な機能が増設されて、ひと回り大きい造りになっている。

「これには直接通信できる装置が付いている。コードを伸ばしてイヤホンとして耳に当ててくれ、横にカメラが着いているが動画撮影は出来ないので必要と思えるものを撮影してくれれば自動送信される。向うの世界からは音声通信は出来ないから自分で判断してね、そのほかは異世界での形態維持のための増幅器と虹のオーブ2個、一つはサークルに使う用ともう一つは電源用これは通信機と護身用の電撃に使う用になる。もちろん殺傷能力は無いし使わないに越した事はない、電撃は左手にはめたグローブを地面についてスイッチを押すと半径10mの生物を行動不能にする。チャージするのに2分20秒かかるからタイミングに気をつけてくれ、使わない事を祈る。早いとこ金のオーブを見つけて戻ってくれよ、万が一ダイブ中に異世界の接続が切れると戻れなくなる事を忘れるな、所要時間は100分にしておく、50分と90分、それと残り3分でアラームがなるからそれを目安にしてもどること」

 貴重な虹色オーブを2個も使うことになってしまうがしょうがない、もともと私が採取したものだ。

 などといいながら実は約束の21個はすでに集まっていてこの世界に保管している。しかもこの二個を消費しても余分がさらに2つあるのだ。

 テル君が助かった後に渡そうと思っていた。

 バットエンドな予感を伴ってアウトサイドに戻るとテル君はぐっすりとオヤスミのようだ。

『聞こえるか?こちらからは音声とサラちゃんのバイタルしかモニターできて無い、とにかく落ち着いてくれ、心拍が上昇しているぞ』

 校庭に着くと不自然にコウラの声が聞こえてきて私の世界を邪魔にされたような感覚がする。

 しかも急に名前呼びになった。

 フレンドリーにすることでチームワークをよくするとかふざけた理屈で決めたようだが私は不満だ。

「こっちは大丈夫だよ。虹のオーブをサークル中央にセットすればいいのね」

「そう中心にセットしてくれ、後はこちらで調整するから大丈夫」

 サークルの中心は特殊な針金で細かな網目状に仕上げてある。

 丁度オーブが乗る程度の大きさで、オーブの球面にマインパックに装着された特殊な工具で少しだけ傷を付ける。

 そこに針金の先端を突き刺すように押し付けた。

 特殊な針金は傷口からゆっくりと同化していきそのままくっついてしまった。それを網の上に置くと金属の針金は形状を記憶していたようにゆっくりとオーブを包み込んだ。

 持ち込んだ中継器の小さな赤いランプが緑に変わる。

 中央に置かれた包まれたオーブから熱が発散し始めると針金は全体に赤くなり、次第に白く輝きだした。

 高温すぎて白くなったのだ。

 ホームセンターでもらってきた金具が赤くなり壊れないか気になる。

 おまけに近くにいるだけで暑いくらいだ。

 針金は溶ける事無く発光して次第にガス状の霧を発生し始める。

 その霧は針金に沿って円柱の柱のように空へと向かい校舎と同じ高さぐらいで次第に薄くなる。

『柱が整ったか?』

 コウラの声が聞こえイベントとして眺めていた意識が戻された。

「丁度白い柱みたいになったところ、高さは学校と同じくらいで消えている感じ」

『それでいい、そこが異世界への入り口だ。中にゆっくりと入るんだ。飛び込むと向こう側ではじき出される恐れがある。タイマーをセットしてから出発してくれ、注意事項を忘れるなよ』

 

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