第35話 データ変換
「コウラ聞こえてるの?」
黙っているコウラは同情して言葉を失ったのかもしれない。
それでも時間が惜しいので私は概要を説明した。
崩壊まであと1時間20分しかないのは、どうしようもない事実なので仕方ない。
協力してくれる異世界のドローンはキプロスと名乗った。
キプロスは金色のオーブを空にして初期化しないと使用はできないといった。
収穫物がまだ5分の1ほど残ったままでそのまま使用すると私たちの考えていたやり方では転送先が爆発してしまうらしい。
恐ろしいことだ……
収穫物は穀物で実体ごと情報化してあの小屋の中継基地で管理保管してから流通させる経路に乗るシステムになっているらしい、流通経費が通信費のみで二酸化炭素の排出量は私たちの世界の数万分の一というエコな仕組みになっている。
などとプチ情報をぺらぺら偉そうに語るキプロスを軽くスルーして準備する。
「それでこの生物もどきの情報を丸ごと金のオーブにデータとして収納したいということですか」
私は気軽な感じに、どうでもいいような感じに話を切り出した。
慎重に危機を悟られることのないように話した。
キプロスの説明で直接この空間との媒介になる装置と接続すれば金のオーブは使用しなくても言いと言われて一瞬小躍りしてみたが、その方法が生物の場合、脳を分解して再構成した後電極を多数装着するというおぞましいものだったので却下した。
「まずは穀物の排出をどうするかですが、この空間にもいろいろな石、オーブが存在しているのですよね、その中で青のオーブと赤のオーブ、それと黄色はありますか?」
以前暇つぶしでとったいろいろなオーブを保管してある。私はすぐにテル君の小屋に置いてある自称宝箱を取り出した。宝箱は私たち2人がこの世界の思い出をいくつか収集したものを入れておこうと決めた箱だ。リアルに持ち帰るかどうか話したことはない、中にはオーブのほかに二人でいつか着けようかといってふざけて持ってきたペアの指輪が入っていた。この空間にあるホームセンターの一画にシルバーアクセの特設コナーがあり名前とメッセージを自分たちで彫り込んだのを思い出した。
そんなことを思い出してテル君用の指輪をパックにしまった。
「これでいいのかしら」
3つの色違いのオーブをキプロスに見せた。
キプロスは確認するとそれぞれにゲート出現装置に使った針金を直列につなげるようにと言った。
順番は青、赤、黄色の順でこうすることである程度のデータ蓄積に対応できる性質を持つということだが組み合わせ次第で別な用途もある?ということだろうか?
わけもわからずに指示通りつなぎ合わせキプロスの下部にある小さな穴に針金を経由させると上部の穴から金のオーブに接続した。
入力出力ということだろう。
「穀物のデータと動物、特に知性を有する生物はデータの大きさもクオリティーに関する繊細さなど高度な技術を要しますので私がお手伝いできるのは穀物の移動だけです。後はそちらで何とかしていただきたいです」
「コウラ、聞こえてる?そういうことなのだけど対処できるの?」
不安なまま、震えるように通信してしまう自分が、へし折れてしまいそうなのを何とか耐えている状態だ。
『まあ今の技術ではどうしようもない、だが23世紀の技術はすでに人データの移動実験に成功している。安心してくれたまえ』
偉そうに言っているが、ん?と思う。
「今実験と言った?」
『そう実験は成功してる』
「実用化は?」
『……実用段階ではまだない、が、安心したまえ、僕は天才だし有村室長の助言もある。もちろん金色のオーブもあるし』
いろいろと安心できないのはコウラのキャラのせいだろうか?天才をしっかりした大人と認識できないでいる自分のせいなのかわからないがこの状況では何とか思いとどまることはできそうな気はする。
こんな後のない現状では贅沢は言っていられないというのもある。
さっきからキプロスが金のオーブと三色のオーブの間で中継器としての役目を実行しながら点滅と、聞いた事のない言語によるおかしな音の羅列を繰り返していて、それを退屈しのぎに眺めているしかできないのがもどかしい。
この作業が終了した後、私は一度現実世界に戻りコウラが用意した極小型素体転移装置をこの世界に持ってくる。
順調に行けばその装置を稼動して12分後に入れ変わるように私の本体をこの世界に送り出す。
すでに圧力限界を超えている私の世界は衝撃で現実世界を離れ二度とつながらない小さな独立世界に変化してしまうらしい。
つまり私は一人でこの世界で生きていくことになる。
世界に穴を開ける事態を回避することとテル君を助ける一石二鳥の作戦を遂行するための犠牲、人柱になるのだ。
もともと私が作ったアウトサイドが原因で自分に罰が下るだけのこと、私はリアル世界から消え去り、皆様の記憶からもおさらばするのでリアルは改変され、困ることは一つもないことが救い……少し落ちこんでため息をつき天罰に近い自己犠牲から逃げ出したくなる。
これが自然の摂理に反して、自分を通した結果なのだとあきらめるしかないのか……
「変換転送完了しました。穀物はすべて移動した。これでこの金のオーブは使用可能になりました」
キプロスが告げると同時に空間が一度ゆれた。
「もう時間がないということですね」
私は答えずにコウラに通信を送り意識をリアルに戻した。
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