第23話 消えた彼

 私はファミレスの17番テーブルに座って女が起きるのを待っている。

 自然に気づかせたいが、だめなら水をぶっ掛けようと決める。

「こういう事か」

 女は私がコップに手を掛けた瞬間に起き出した。

 何となく馴染んでない女は時々ノイズが混じる。

「黒い液体なしに自然にダイブしたから時間はあると思うけど、つながりが弱いから何時切れるかも分からないから急ぎましょう」

 私が言うと「恐れ入ったわ」と溜息をついた。

「あなたの能力の前では機械なんて意味が無いのね」

 ユズキが呆れている事に少し優越感を覚えた。

 夢の中では理性や精神構造のフレームがかなり緩んでしまうのだろう。

「私が知りたいのはコウラが何をしたいのか、なぜあなた達が私のアウトサイドに入ったのか、それと光る石、ユズキさんが最初に会った時言ってましたよね……あとできれば有村祐一郎の事を知りたい……です」

「有村室長の事?なぜ?」

 私は答えずに順番にお願いしますと言った。

「まず兄さんが何をしたいのか私にもよく分からない、ただ光る石というのはオーブと呼ばれる貴重なモノで次元エネルギーの塊なのよ、一粒で今ぐらいの世界なら数ヶ月回るぐらいね。一つで私の一生分の給料でも全然足りないぐらいの価値がある。それを使ってタイムトラベルが可能だし」

 えっ?私今、大金持ちですか。下世話な話しだなと思ってしまう庶民なわたし。

「それで私の夢に侵入したのはどうして?止めるためだけじゃないでしょ」

「それはね、タイムマシンの起動コードを隠してあるんじゃないかと思って……私たちの時代にはターミナルと呼ばれるタイムマシンの発着場がある。活動が極秘なので規模は小さいけど安全な係留施設ね、でも時代をさかのぼれば当然ターミナルは無い、そこで既存のアウトサイドにさらに小さなアウトサイド気泡のように簡易な場所を作ってコードを隠す。コードを隠せばタイムマシンは休眠状態で次元の狭間に係留所出来る。この世界にあるけど見えない、今の技術水準では見つかる事が無いのよ、アウトサイドも大きくなくてもいい、あなたみたいにでたらめで安定感のあるのはおかしいのだけど、そうね、植物状態の人のアウトサイドは使えるのよ、実際私もこの地域の人間のアウトサイドにコードを隠しているし」

 植物状態?そこに係留?アウトサイドがあるのは私だけではないのか。

「あなたが特別で他の人のものは本当に小さくて曖昧なのよ、中に入ることも出来ない、ガシェットでコードを呼び出してタイムマシンをリアルに出現させる」

 ユズキが髪を掻き上げてから私に言った。

 結局私のアウトサイドにコウラの使うタイムマシンコードは無いとユズキは言った。

一度目に遭遇した時のダイブでそれは分かっていたらしい。

 ぶちのめした男はアウトサイドを強制終了させるためにダイブしてきたということなので、ぶちのめして正解だった。

「それで有村室長の何が知りたいの?」

 ユズキは不思議そうに私を見た。別に私はカレセンじゃ無いです!といいたくなるようなユズキの視線をかわす様に一枚の写真を出した。

「この人は有村祐一郎ですか?」

 私はアウトサイド出現以前に住んでいた家にあった写真を持ってきた。ユズキが写真を確認すると、驚いた顔をして私をみた。

「この人よ、有村室長、この時代にいたんだ……」

 感心して写真を見ているユズキ。

 父のことは納得が行った。

 私はユズキにもう一つだけ頼みごとをした。

 最初は渋っていたが、この不安定な空間で何かの事態に備えたいと言ったらしぶしぶ承諾してくれた。

 後日リアル世界で頼みごとの受け取りをする約束をしてユズキが薄くなっていく。


 ユズキとのリンクが切れて一人歩いて浜にもどった。

「テル君?」

 ハンモックにも小屋のベッドにもテル君はいなかった。

 テーブルには飲みかけのコーヒーが放置してあり少し温かい。

 中学校や自宅あたりを探すがそれらしい気配は見つかる事はなかった。

 私は呆然と立ち尽くしてテル君が消えてしまった街を眺めた。

 真夏の太陽は容赦なく照り付けているのに肌寒さを感じている。

 世界に私だけが取り残されたように気持ちが沈むと空が曇りだす。

 私の気持ちが強く反映された気象現象に戸惑いながら、消えてしまったテル君を想い事実を受け入れられずにいた。

 本当に消えてしまったのか?

 まるでこの世界の支柱でも無くしたように雨が降り出した。

 乾ききった地上のすべてから靄が上がり大地を冷やしていく、私は浜辺で倒れ込んで意識を覚醒させた。

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