第21話 ユズキ
「あなた自分のやったことを理解しているの?」
直球な感じで女が怒りをあらわにした。
「まるで私が何か悪い事をしているとか言いたいようだけど?意味が分からない」
「意味が分からない?あなたは重大な法律違反をしているの、そのチョーカーもそうだし、アウトサイドを個人で機能させている。それがどれだけ危険か分かっていない」
「お言葉ですけど、何の法律で何の違反なのか詳しく教えてください、私は日本にそんな法律があるなんて聞いたことが無いし、このアミュレットもコウラというおじさんに頂いたんですが。何かおかしな法律についてのレクチャーはありませんでしたが」
女は少し冷静になったのか「そうね」と言って、スマホを取り出した。どこかに連絡するつもりだろうか?女はスマホを私に向け男の写真を見せた。
私がアウトサイドでぶちのめした男だ。
「この人、名前は田崎と言うの、今、精神状態が安定しなくて苦しんでいる。どうしてなのか分かるよね?」
私は黙ったまま答えることはしない、しかし状況は察している。
たぶんそういう事だろう。
コウラの説明を鵜呑みにして私は予想外に人を傷つけたのだ。
「機械化されて無いアウトサイドにダイブするのは危険な行為なの、そこには様々な制限があって酷い暴力を受けると精神にダメージが蓄積され現実世界に影響を与える。安全装置も無いのだから当たり前よね」
「それが私のせいだということですか?」
少し吐きそうになるのを堪えた。
自分の行為が明らかな悪だと自覚があった。
あの弱者を蹂躙する気分は最悪で心地よかった。
「わかってるじゃない、あなたが機械も使わずにアウトサイドを広げるのは本当に危険な事なのよ」
「ねえ、おばさんは何を言っているの?睡眠と夢の研究はまだ何も解明されていない、なんでそんな事分かるのですか?あなたは何者なの?説明してくれませんか」
私は自分を正当化するため強い口調で女を睨んだ。
今のところこの女一人なので強気になれた。
「あなたさ、見かけよりも神経が太いのね、人を傷つけておいて反省しない。こちらの説明なしには言う事を聞いてくれそうに無い……OKわかりました。こちらの情報を開示します」
ユズキという女は一度どこかに電話して情報開示の承認を得ると淡々と語り始めた。
アウトサイドとはただの夢ではない、この次元と別の次元をつなぐ事のできる唯一の方法で、(直視景観再構成能力)と言う力を高いレベルで有している人間のみ作り出せるコピー世界、次元の狭間にできた気泡のようなもので、この世界に私を特異点として張付いている。
能力者はその狭間の世界に自分の見た世界を復元、作り出して機械の力で維持していくものだと思っていたとユズキは言った。
私のように自分の能力のみで長い時間維持しているのは聞いたことが無いらしい、「どのくらい維持しているの?」と聞いたユズキに「もうすぐ3年になる」と告げると驚いてその場にへたり込んだ。
「大丈夫ですか?」
当面の敵を驚いて支えそうになった。
「何処まで非常識な能力なの、私がここに来た頃からずっと開いたままで……そんな強力な力、聞いたことも無い、あなたのアウトサイドに入ったときに感じたんだけど、たぶんあなたは(特殊妄想再現能力)にも特化しているのね、見たことの無いところまで精緻な再現がなされているもの!アウトサイドというのはね、もっと曖昧なモノなの、それを機械で補って安全を担保するのが常識……まったく恐ろしい力だわ」
ユズキが立ち上がり膝を払った。
「だいたいそんなアウトサイド、異常だと思わないの?いくらあなたが稀な才能を持っていようともね、長い時間で空間が傷ついて劣化していくそれが次元崩壊に繋がればこの世界の技術では修復不可能になる。私のいた所と違う世界に変化して……すでにしてるか」
そう言って溜息をついたユズキに正体の開示を求めた。
「そうだったわね、私の所属だよね、私はあなたのいる時間で言う日本国だった所、プラントナンバー6でセクション日本の所属になるのかな、そこの次元管理局にいるエージェントなの」
「スイマセンよく分からないのですが、そんなプラントとか言われても聞いたこと無いです」
「そりゃそうでしょ、私は2287年の世界から来たんだもの、ちなみにあんたの知り合いのおじさんもそこから来たわ」
うわ~未来人登場しちゃったよ。
何となく宇宙人だと思っていたので、微妙に拍子抜けだ。
「それで危険なのは分かりましたが、タイムトラベルを実現させてわざわざ人のアウトサイドに進入したり、なんの意味があるのですか?そもそもどうしてコウラを追って?」
「コウラ……おかしな名前をつけたものね、あれは私の兄で佐久間誠司というのよ」
私は目を丸くしていると思う。
「兄妹なんですか?それがなぜ……」
「私がここに来た理由は二つ、あなたの監視と空間崩壊の観測、それにあなたの言うコウラを捕まえるためよ」
「ちょっと待って、空間崩壊とは何?」
私は物騒な感じのする言葉に戸惑った。
「あなたのアウトサイドが崩壊すると言う事、正確にはしていた過去がある……あなたが高校一年の夏に世界最初の空間崩壊が起こるはずだった」
「はずだった?そんな事起こらなかったけど」
「そう起こらなかった。というか意図的に防いだ人物がいる。もうわかるでしょ」
「コウラ……アミュレットなのね」
「そう、私の出発前の時間軸での指令はすでに変わってしまった。歴史上最初の空間崩壊は改変されてこの事実を知っているのは時代から切り離されている私と田崎さんだけ、私達も向うに戻れば新たな歴史に飲み込まれるわ」
私は知らずに歴史を変えていて、ここに自分が存在する意味に乗り物酔いのようなおかしな感覚に襲われた。
「任務終了じゃないですか、改変された歴史は意味が無い」
「そうじゃない、すでに指令ごと改変されて新たな指令で動いているの、それがあなたのアウトサイドの停止と兄の確保、彼には自主的に出頭して欲しいんだけど」
ユズキが悲しそうな顔をする。
どうやら本心は別な想いに駆られているらしい。
「結局コウラは何をして追われているのですか?」
まさか本当にテロリストじゃないだろうな……嫌な予感が頭をよぎる。
ユズキは少しためらうように視線を落したが、一つ息を吐いてから私に向きなおした。
「兄は研究者で天才なのよ、あまりにもね。研究チーム副室長を任されていたわ、時間転送技術、そもそもはアウトサイドの研究から始まっているの、アウトサイドの存在と研究は世界でなされているけど私達のプラントは最先端と言って間違いない、すでに幾つかの技術を実用化して利益が出ているし、特に時間転送技術は私達だけが理論を確立して実際に行動している。その技術は非公開で他のプラントには知らされていないの、要するに極秘事項で我々のセクションだけが扱っていた。兄は室長の反対を押し切ってその事を公表すべきだと管理局に進言したのが間違いね。時間転送なんて危険な事は公表すべきじゃないし、そんな事が出来るとわかればアウトサイドの研究とその先にある次元の壁の探査に影響する。この技術が封印される恐れがあった。管理局は進言した兄を初級叛乱分子に分類したの、時空研究所はプラント政府直轄の管理局下に置かれ兄は部署変更で観測チームに左遷された。もちろん監視付きでね、その時室長だった有村祐一郎はタイムマシンと共に行方をくらませた……」
「ちょ、ちょっと待って、今有村祐一郎と言いました?」
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