第19話 タケル
意識がぼんやりとしている。疲れた……
(開放)と言う行為は精神的疲労が激しいのだろう。
だがこれから6時間は睡眠してはいけないとコウラに注意されている。
それでも構わない、テル君との世界を守るために必要な処置だと自分に言い聞かせ、まぶたを押し上げた。
テル君をどうやって助け出すのか当面の課題で、あまり時間も無いと思う。
睡眠禁止状態ですることも無いのでリビングに下りた。
暗いのが嫌でシーリングを点灯したが外はまだ暗く時間は3時20分、深夜に煌々と光る照明に変な罪悪感がある。
緊急事態とかじゃない限り夜は明かりを消すものという思い込みが私にはあるからだ。ボケている精神状態を冷却しようと冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに分ける。
しばらくソファーに座ってぼんやりしていた。
ベッドに横になれば確実に寝てしまう。
明日は会えなくても病院に行ってみるかとかイロイロ思いながら眠気をごまかした。
「サラ、眠れないのか?」
タケルがリビングに入ってきた。
「違うよ、もう起床しました。早すぎたので時間が過ぎるのを待っているところ」
「変な言い方だな、もう少し寝ればいいんじゃね?」
6時間の睡眠禁止をアピールしたいが説明が難しいのでどうしようもない。
「大丈夫か?」
そういってソファーの端に腰掛けた。
私は心配されるほど表情が変なのかもしれないとタケルの態度から推測した。
「もう壊れそうだよ、イロイロありすぎて」
ためしに泣き言で返してみた。ちょっとした暇つぶしだ。
高校生の男子には私を受け止める事など出来まい、とか変な想いが湧いて出るのは深夜の空気のせいかもしれない。
テル君は私を受け止めない。
励ましも、欲求も何も無い、けれどそれでいい。
私が何処までも受け入れて二人はすでに一つの命を生きている。
実物のテル君に何かあっても私が守る。
意識のリンクを天国までつないで死なせはしない。
「全部捨てちゃえよ、抱えているモノ……俺がサラを支えるから、辛い事なんだろ、テル君とか言うやつを待っても、もう目覚める事も無いんじゃないか?忘れたってきっと許してくれる」
すでに哀れみを含む表情で支えるとか言われてもね。
「わかって無いな、タケルはやはりまだまだ子供だね、私は壊れるかもしれない、けどそれ以上にテル君が好きで、タケルが考えているより、もっと深いところで繋がっているんだよ。そんな人を捨てるのは、自分の一部を切り取って放り出すようなもの、出来るわけが無いんだ」
私の主張なんかたぶんどうでもいい、タケルは家族という事に囚われて状況を判断しきれてないのだろう。
「それでもタケルが、家族と思って気を使ってくれるのは嬉しいよ、ありがとう」
そう言って笑うとタケルはさらに険しい顔をした。
「おれは、家族とかどうでもいい、むしろ家族だなんて思えなくなってる……俺じゃあダメなのか?サラの隣で支えるの。家族としてじゃない、彼氏として支えたい」
私は麦茶を吹き出しそうになりながら口を押さえると無理に飲みこんでから目を見開いてタケルを見た。
「私は……そう言うのやだな……私の中でタケルはもう家族で兄妹だよ、そういうふうには見られないよ、ごめんね」
突然の告白に乱れた心のザワザワを落ち着かせ言い聞かせるように話す。
表面は整って大人のように振舞った。
それでもよく考えたらタケルは私を好きだという事になる。
一気に目が覚めたことはタケルに感謝だが……
「そっか、俺はもう家族なんだ」
俯いてしばらく二人で沈黙した。気まずい……
「これがきっかけで、タケルと気まずくなるのは困る」
「ウン……」
完全に落ち込みモードに入ったタケルに、これ以上何を話せばいいのかわからないでいる。
私がテル君と離れるとか勝算があっての告白じゃない、たまたま深夜に出会って勢いで言っちゃったのだろう。
なんてお子様なんだと思う。
「私ね、正直に言うとタケルはイケメンだと思うよ。私なんかよりもっとお似合いな人が、きっといると思うんだ。だから落ち込まないで」
言ってしまって私は馬鹿だと思う。
一番サイテーの対応だ。
変な同情はかえって人を傷つける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます