第17話 容態
最近、タケルと一緒に登校することが多くなった。
もちろん待ち合わせのコンビニに行くとハルとユウが待っていて、ついでにタケルの友達で稲垣大介という男子もセットになった。
ハルはまだタケルに告白して無い、私とユウは見守るしか出来ないし空気が重くなることがあるのは避けられない、それが稲垣大介の登場で上手く会話が回るようになった。一件軽い男だがいい緩衝材になっている。
「飯田はどうなの、彼氏とかいないの」
空気が読めずに変な話題でタケルがハルと会話していると大介が「それタケルに関係ないじゃん、ハルちゃんはかわいいので男子から人気あるんだよ」
「そんな!人気なんてありませんから」
ハルが否定するとタケルが「確かにかわいいよね」とタケルが言う。
ハルが赤くなる。
いい流れ。
私とユウが顔を見合わせて意地悪な笑い顔をする。
私のピンチとは裏腹に平穏な日常がもどかしい。
昼休みには一人で屋上の踊り場で電話をする。朝から5度目の発信だがコウラが電話にでないままで、対策の立てようが無い。
困ったなと思いながら学食でユウとハルに合流した。
「それで明日から春休みですがどうします?」
「えっ?」
私は何のことか分からずにきょとんとしてしまったと思う。
「サラちゃんまさか……忘れてるの?」
ハルが抗議するように言ってユウが可愛そうなハルとか言っておどけた。
「ハルちゃんの春だし遊びに行こうという企画、言いだしっぺはサラだよ」
「あっゴメン、そうだった。ヤバイよね、私ダメダメだ」
「そんな事だろうと思ってプランを用意しています」
頼れるユウが旅行雑誌を取り出した。
付箋が沢山ついている頼もしい気遣いだ。
「メンバーはあたしたち3人とタケルと大介でいいよね」
ユウが意見も聞かずに男子二人もメンバー登録した。
春の旅行は南へ行く事にした。
タケルは文句も言わずに賛成したのが以外といえば以外だ。
私と一緒なんて変な感じだろう。
家族になってから、その面倒な関係のせいでいわれの無い中傷や陰口も多いはず。実際、私だって言われる事がある。
紗音瑠の襲撃がいい例だ。
ちなみにタケルがイロイロと言われているのも知っている。
私のことを守るとか強がるのもそのせいだろう。
年頃の男女が同じ屋根の下で暮らすというのは、そういうことだと理解している。ここでわざわざ仲の悪いフリを決め込んでも負けた気がするし、子供じみた幼い連中の中傷なんて中学の時に比べれば可愛いものだ。
正直レットラインは設定しているのでそれを超えれば誰であろうと叩きのめす用意はしでいる。
「それでは会議を始めます。議題は春の旅行について」
喫茶店でメンバー会議が開かれた。
日程の調整と予算等、高校生らしいものにするための会議だ。
「温泉に一泊ということは、部屋はみんな一緒ですか?」
大介が陽気に言ったがユウの拳で黙る事になった。
(ぽんぽんぽぽぽぽぽん)
私のスマホがなって、一度みんなが黙った。
「ちょっとだけごめんね」
私はスマホをもって店の外に出た。
あの女のせいで困った事態なのでコウラからの電話に少しホッとしている自分がなんか悔しいなと思いながら通話をタップする。
私はアウトサイドに侵入された事を簡潔に話した。
「あいつらはコウラを追っているんでしょ、何で私のアウトサイドに?」
『困りましたね。確かあの連中は僕を追いかけている。僕に存在されてはマズイと思っている組織の手先だから』
「あの人たちが悪人なの?それともコウラがトラブルの原因?」
『そう単純じゃない、微妙な問題だけど見方が変われば僕が確実に悪だよ』
「おいっ!」
すかさず突っ込むと『あくまで見え方の問題だけどね』と落ち着いている。
『自分で言うのもなんだけど、僕はある研究に打ち込むまじめな研究者でね、でも奴らは僕の意見を認めようとはしなかった。それを認めればアウトサイドの研究と新天地への調査が中止される可能性がある事も承知でね。詳しくはいえませんが、僕がこうなっているのはあの連中に騙されたから、信じるかどうかは大神さんに任せるよ』
何の情報も無いただの女子高生の私にどうしろと?
私の見方ではどっちもどっち。ただ無理やり人の領域に侵入してくるあの女は、ターミネーター並に脅威の対象だ。
「連中に対抗できる手段はあるの?」
コウラが電話の向うで微笑んだような気がした。
店の中では、窓越しにみんながこちらを気にしてるので笑顔で手を振った。
『大神さんの空間だよ。そのアウトサイドでは大神さんは神なんだ。勝てる者などいない、少し力を解放してやればいいですよ、アミュレットの手前の石を押して(カイホウ)と言ってください、大神さんは無敵になれる。戦闘が済んだら石を押して(シュウリョウ)と宣言してね』
なぜかコウラは積極的な戦いを望んでいるようで少し怖いなと思う。
もしかしてあの女を恨んでいるのか?
『一つ注意だけど。開放を使うと力が暴走して石の濁りが早まるから、開放を解いたらすぐに現実に戻ることをお勧めしとく、状態にもよるけどくれぐれもご注意を、6時間は夢に戻らないでね』
今の夢の活動で石が濁ったのは最初だけ、それも初回の調整機能が上手く作用しなかったのが原因とコウラが言った。
通常であれば72時間連続でも濃い紫にすらなりません安全ですよと胸を張るコウラが胡散臭いのは我慢しようと思った。
「確認なのだけど暴力で対抗して死ぬわけじゃないよね」
『安心してバトってくれてOK、どんなに痛めつけても相手が死ぬことはない、アクションゲームみたいなモノだと思ってやっちゃって』
電話を切って少し安心できた。
私とテル君の世界を邪魔する者を排除できる。
「大丈夫?」
タケルは私が遅いのを気にしていたみたいだ。
「ごめん、テル君のことでアドバイスもらっている人から、中々捕まらなくてやっと電話もらえて」
へへへ、と少し照れるように笑えたと思う。
ユウとハルが良かったねと言って微笑んだ。
「あの、テル君て誰ですか?何となく話しの流れで気になって、前に黒井君とも言っていましたよね」
大介が不思議そうな顔をして、私に聞いた。
「お前知らないんだよな、そういえばだけど」
「もしかして黒井照之さんの事ですか?」
「えっ?どうして?確かに黒井君のことだよ」
私もわけが分からず目が点のまま大介を見た。
「あの、俺の母さん県立病院でナースやってて、この前母さんに呼ばれて病院に行ったんだ。忘れ物届けに、その時偶然救急で運ばれてきた患者がいてさ、ICUに入って、若い奴だったから名札憶えてて、一段落した母さんに聞いたんだ。そしたら同い年でずっとこん睡状態で、一昨日かな、急変したって、その時は気の毒としか思わなかったし……ホントは個人情報言ってはダメなんだけど」
私が立ち上がって椅子が後ろに倒れた。私はテーブルに持たれるように両手を突いて、呼吸が荒くなった。
「サラ、知らなかったのか?」
ユウが椅子を直してくれ、座り直した。
「大介、どうなった?」
タケルが怒鳴るように聞いた。
「どうなった?えっな、なに?」
「だから、容態でしょ!黒井クンは?」
ユウの怒る声に悪い事でもしたように怯えた大介がどもる。
「持ち直したよ、今もICUにいると思うけど」
私はスマホを震える手で操作して、久子に電話した。
『今のところ心配ないよ、持ち直して安定してる』
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