第15話 好きな人

 朝、玄関を出るとタケルが待っていた。

「あれ、先に行ったんじゃ?」

「いや、なんつうか、たまには一緒に行こうかと」

 元々私がこの学校に入学する事でおじさんとお母さんが徒歩圏内の借家を用立ててくれた。

 ありがたいことだ。

 タケルと一緒に登校したのは入学式の最初の100メートルだけで、後は同時に玄関に立ってもタケルが走って逃げるみたいに行ってしまう、よほど嫌なのだと思って気を使って同時刻を避けていたのに突然の仲良し登校になる。

 今さら引いている自分を少し不思議に思いながら歩き出した。

「昨日はゴメン、向きになってキモイよな」

「あーその話はもういいよ、それより途中でハルとユウが合流するけどいいよね」

 ハルにタケルとの時間をプレゼントしようと私は思いなおしてすぐにハルにラインした。

「誰に?」

 タケルが私のスマホを覗こうとする。

「女の子のスマホを見ようとするなんていい度胸ね」

 気づいたタケルがビクッと体を引いた。

「ゴメンそんなつもりじゃ」

「なんて、嘘だよ、ハルと待ち合わせのライン、本気でビックリしてる、ははは」

 引きつった顔でタケルが笑い「飯田とね、はは、そうか」と言ってなんか安心したように頷いた。

「変な勘違いとかやめてね、私はモラルに反するような事はしませんので……でも心配してくれてありがとう。やっぱりタケルのほうがお兄ちゃんなのかもね」

「えっ、あっ、そうそう俺は心配しただけ、お兄ちゃんとしてね、やっと分かってくれたか」

 嬉しそうなタケルを連れ待ち合わせのコンビニが見えてきた。コンビニのポストの前にそわそわと落ち着かないハルがこちらに気がついた。

「おはよう、ハルちゃんゴメンね~今日はこんなんが一緒で」

「酷いな!別にいいじゃねえか」

 ハルは赤くなって小さな声で「おはよう」と言った。

「そこの3人組私を置いていくな!」

 ユウが後ろから走って合流した。

 不自然を感じさせないようにハルとタケルを並ばせる。

 ユウと私が話し、ハルに時々話題をふる。

 完璧なフォーメーションは中々ゴールが決まらない。

 ハルが今ひとつ前に出ないというか出られない。引けちゃって話せないのだ。

「そういえば二人でタケルにはなしたでしょ、私のこと」

「あーそれね、ゴメンゴメン聞かれたのでつい話しちゃった」

 ユウがこっつんテヘペロしたので吹き出した。

「昨日そのせいでモメたんだから、勘弁してよ、タケルが私と知り合いのおじさんが不倫してるとか言い出してさ、も~サイアク~」

 タケルとユウと3人で笑っていると急にハルが足を止めて私を見た。

「サラちゃんの好きな人ってだれ?片思いしてるんでしょ」

「えっ?」

 私が返事に困っていると、ユウがハルの肩に手をあてて「まあまあ、今はその話いいじゃん、そのうちはなしてくれるから私たちは待っていようよ」

 私は呼吸が乱れて動悸が早くなった。

 頭にはテル君のことが浮かんで動揺しているのが丸分かりだ。

 私の不自然な恋愛は日常での影になりその存在は許されることは無い。

「おい、サラどうかしたのか?」

 タケルがあわてたように私の肩をさすり声を掛ける。

「大丈夫、なんでもない、遅れちゃうから行こう」

 私は少し自分を落ち着かせるように歩き出した。

 皆も続いて歩き出す。

 皆無言で歩く。

 原因を作ったハルがしょんぼりしているのが分かる。

 タケルに一途でどこかで私のことを気にしているのだろうと思った。

 そりゃあ好きな男子が事情が有るにせよ同級生の女と一つ屋根の下で暮らしているのは気持ちのいいものではないだろう。 

 私は意を決して振り返り黙り込んだ3人を見た。

「ねえ、今日はこのメンバーで帰ろう。タケルは私たちが部活終わるの待っていて、皆には話しておきたいから」

 3人は目を丸くして驚いたような顔をした。


 喫茶店でお通夜みたいに無言の時間が過ぎる。

 パフェを頼んだユウが申し訳なさそうにクリームを口に運んだ。

 まさか私の告白がこんな重いものとは思っていなかったようだ。

 ただののろけ話程度で、女子高生にありがちな恋愛模様を思っていたのなら申し訳ないことをした。

 私は中学での出来事に付いて順を追って話した。

 もちろんアウトサイドの事は話していない、今ではテル君の妹とも打ち解けて時々会っていると言った。

 もちろんお見舞いもしている。

「本当にごめんなさい、私バカです。自分の事ばっかりでゴメン」

 ハルが泣き出した。

 静かな喫茶店に気を使ってか小さく泣いているが時々耐え切れず嗚咽が響くのでかえって悪目立ちしている。

 私がなだめてユウが背中をさする。

「片思いって言ったけど実は違うの、教室で告白されてから本当の答えを言っていないだけなんだ。私はテル君が好きで今でも変わらない、以上なんだけど」

「なんかサラのイメージが変わったよ、いい意味でね、そんな背景感じさせない強さって言うか、尊敬します」

 ユウが優しく言った。

「ハルももう泣かないで、私は気にしてないし皆に聞いてもらうチャンスをもらえたと思っているよ、聞いてもらえてなんかホッとしてる」

 私の言葉に「ありがとう」と言ってまた泣いたハルにユウと二人で微笑む。

「なんで、もっと早く言ってくれないんだよ、そんな辛い目にあってたなんて、親父も教えてくれないし、俺ならサラをちゃんと守るのに」

「それは妹としては嬉しいけど、あの町にいたときまだ他人でしょ、ないわ~」

 ふんっとそっぽを向いたタケルに笑いながら「今日はたけるくんの好きなハンバーグにしますからね」と言って機嫌をとった。

「それよりもうすぐ2年生になるし皆で遊びに行かないハルちゃんの春だし」

 なんか適当な思いつきで誘ってみると思いのほかみんなノリノリだ。

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