第13話 権利の行使

 私は法律に触れることをしている。

 コウラが「ダイブは変な事に使うなよ」と馬鹿にした顔で笑った。

 久子の事は危険行為だと注意を受けたのだ。

 昼間の時間で寝ていない奴の意識を強制的に呼び出すとアウトサイドが破壊される恐れがあったとの報告に先に言ってくれと思う。

 ちなみにダイブというのはアウトサイドに入ることらしい。

 というわけで、現実世界における不法侵入で、夢でなければそんな事はしないだろう。

 梓の家は中学と私の家の中間にあった。

 そこに玄関から堂々と入って物色中だ。

 目的は梓の日記、中学の頃遊びに来ると机にある日記の話をしたことがある。

 決して見せてくれない日記に真実が書かれているだろうと踏んだ。

 日記の中身を知らなくても私の力はそれを再現してしまうらしい。

 コウラが(特殊妄想再現能力)と呼称していた。

 それと元になる能力は(直視景観再構成能力)と教えられた。

 この二つを機械的補助なしに同時に発動できるのは極めて異例な能力で見たことが無いらしい。ただ、この力は今現在の科学レベルでは宝の持ち腐れ、何の価値も無いと言ったコウラがあと3世紀後に生まれていれば大神さんは大金持ちだったねと冗談めかして笑う。

 今は役立たずな自分を指摘されたみたいで腹が立ったので、何でそんな事が分かると質問した。

「ははは、僕はこの時代では神だと言ったでしょ。神様、どうぞ崇拝して」

 馬鹿にされたがまんざら嘘ではないかもと思うことも多数。

「なに崇拝って、木刀で殴り倒すんだっけ?」

「おいおい、物騒なこと言わないで、目がマジですよ」

 私はこれまでに2つのオーブを持ち帰っていたが、未だに利用法を教えてもらっていなかった。必要数は最低でも21個といわれている。なぜかは知らない

 物色中の部屋で箱に入った携帯を見つけた。古い型で中2の時使っていたものだ。

 一緒に入っている電源コードを差し込んで電源を入れる。

 ふとこの電源何処から来ているのだろうと不安になったが知る術も無いので忘れる事にした。

 電源を入れるとちゃんと使えるようでパスワードも設定されていない。

 メールは私と仲が良かったころから荒んだ関係になり、私とのやり取りが無くなった頃だ。

 その中になぜかテル君とのやり取りがかなりある。

 最初の頃のメールを見ると。

 告白までは行かないスキスキオーラのメールを何通か続けざまに送っている。

 受信を見ると悲しいほどそっけないテル君のメールに、とどめのように私の事が好きだ、みたいなメールがあった。

 こんなの聞いてないな、テル君は言いづらかったということか。

 そりゃそうだ。

 当事親友とか思い込んでいた私に言いだせるはずも無いな。

 梓の闇に触れたような気がした。

 それにしても日記は何処に? と思って携帯の入った箱を見ると底に可愛らしいノートが敷いてある。 

 これだと思い手に取った。

 パラパラとめくってみる。人の日記なんて読むのは犯罪だがここまで人が傷ついて、テル君に至っては意識不明のままだ。


(5月20日、照之君が馬鹿サラと二人で帰っていくのを見送って悲しくなった。照之君はあのブスの何処がいいのだろう、謎だ。私のほうが絶対にカワイイ、家だって両親揃っていてお金持ちだし、馬鹿サラを陥れる作戦を立てないと)


(8月4日、明日は登校日なのに憂鬱だ。さっき馬鹿サラからメールがきてあさって照之君と映画に行くとか嬉しそうに……このクソビッチどうしてくれる。そうだあした間違ったフリしてみんなの前で映画の事ばらしちゃえば、あの馬鹿サラは絶対テレまくって映画なんて行かないとか言いそうだ。純情ぶって今さら付き合ってないとかいいそうだな、嫌いとか言ってくれればラッキー)


 私って思惑通り動いていたんだと情けなくなった。本当に馬鹿でおめでたい人間なのだ。


(8月5日、上手くいきすぎ!なはなはなははははは!ヤッターあの馬鹿想像以上だ。まさか照之君が公開告白すると思わなかったけどそれはそれで今頃傷心の真っ最中、明日照之君の家に押しかけて弱っている照之君を私のものにする。完璧な計画だ)


(8月6日、あの女、何やってくれてんだ。私の作戦が台無しじゃないかしかも照之君が溺れて意識が無いって?若山チカを殺してやる)


(8月8日若山チカが私を呼び出して私のせいだと言った。私が仕組んだ公開告白が原因で海に行ったのも私のせい?冗談じゃない若山チカのせいで照之君が溺れた事をリークしないと本当に私が吊るし上げになる)


(8月10日若山チカから連絡があった。あの女も窮地に立っているらしい、ザマミロだ。だが私としては馬鹿サラを悲劇のヒロインにすることだけは我慢なら無い。このまま照之君が死んだら、悲劇のヒロインとして葬式で泣き崩れるなんて絶対に許さない。私は若山チカと共闘することにした。照之君がこうなった責任は全部馬鹿サラにある。明日から若山と吹聴して歩く事にする。休み明けが見ものだ)


 梓がテル君に気があるのは知っていた。それでもここまで闇が深い女だったとは気づかなかった。私は箱の中にビー玉を一つ置いて部屋を出た。


 コウラが渋い顔をしている。

「君は僕に犯罪に手を染めろと?」

 笑顔で頷いた私を見てコウラががっくりとうなだれた。

「それをやらないと協力しないということだよね」

 当たり前だがコウラに拒否権は無い。

 たぶんオーブは私にしか取れないのだろう。

 しかもそれが無いと困る。というのが勝算だ。

「分かったよ、やる。やります。やればいいんでしょ」

 私は昨日採取したオーブと大枚叩いて400枚もコピーした日記の重要記述部分をコウラに渡した。H高とR女子に一年を中心にあまれば2年にも200づつお願いね。

 コピーには、黒井照之君が溺れた真実と銘打って日記の記述と、若山チカの溺れる芝居でテル君が離岸流に飲まれたことが書いてある。

「見つからないと思うけど、入れる教室とか間違わないでね、効果が半減するから」

 一部ずつ丁寧に机に投函してもらう事になる。


 あれから4日がたった。そろそろと思っていた頃、警察から連絡があった。

 私は元地元にある警察に出頭を迫られた。

「君がやったんだね」

 若い警察官が決め付けるように質問した。

「なぜそう思うんですか?」

「君が中学時代苛められているのは分かってるんだ。君しかいないだろこんな事するのは、はやく言いなさい、こっちも忙しいんだから」

 この警察官は御馬鹿さんなのかしらと思うと笑いがこみ上げてきた。

「なにが可笑しい、そんなに人を傷つけて可笑しいのか」

 怒鳴られても私の笑いはつぼに入って収まらない。

(バンッ!)

 警官が机を叩いた。私が驚くとでも思ったのか馬鹿な大人だ。

「いい加減にしろよ、警察なめんな、オマエみたいな不良すぐに退学だからな」

「いい加減にするのはそっちじゃないの?大体そのビラ、いつばらまかれたの?聞いた話では3日前だよね、私その時部活の合宿で県北の施設に居たのだけど、どうやってばら撒くの?」

 警官の顔色が変わった。

「しかも苛められていたのを知って、それでどうするの?あなたは、その事実を教育委員会に報告したほうがいいんじゃないですか」

 形勢が逆転して警官に苛めの事実をその場で報告させた。

 警察署には梓とチカが両親と共に押しかけていて帰ろうと出てきた私に詰め寄ってきた。

「あんたなんて事してくれたんだ。許さない。不法侵入で訴えるから」

 梓の母親が怒鳴ってきた。チカは底辺高の生徒らしく殴りかかろうとして警官に取り押さえられた。

「わたしが不法進入した証拠でもあるんですか?そもそも、日記なんて知りません、盗まれたんですか?」

 コピーの時は母が研究所で使う医療用のグローブをはめていたし、現実の日記には触ったことも無い。

「それから、苛めの事実認定がなされたので何らかのアクションがあると思います」

 すっかり意気消沈の取調べ警官が梓とチカの一行に告げた。

 私は御一行を残し、母の車に乗り込んだ。

「あんたちょとやりすぎじゃない?」

「大丈夫だよ、あいつらには反省してもらわないと」

 気にしなければただのゴシップ記事で終わるかもしれない、だが田舎ではそうはいかない事はわかっていたし経験済みだ。

 田舎の退屈な日常にご近所のおいしいネタを投入してやれば盛り上がる。

 それに非力な女子高生は耐えるか見ものだねと悪い子の微笑みでテル君に注意された。

 結局犯人は分からずじまい、梓は信用を無くした挙句、陰口に耐え切れず登校拒否になり友達も無くした。現在引きこもり中、若山チカはゴシップに負けたと言うより厄介から逃げ出して底辺学校らしくすぐに学校を辞め、地元のヤンキーとおめでた婚したらしいが一月で捨てられたと風の噂で聞いた。

 下らない事態が収束してテル君との日常に戻る。

 久子は奴らがゲロして殴られていない事が分かり家に戻った。

 学校にはまだ行けてないのが残念でならない。

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