第7話 高校生活の始まり2

 朝食担当はタケルで私は夕食の担当になった。

 忙しい親に私達が申し出たというより自然な流れでそうなったのだ。

 正直料理に自信があるわけじゃない、手軽に出来る中華料理の素とかパスタにカレーなど私の出来るものは限られている。

 それでも3人で暮らしていた頃は文句など言われなかったしチョー適当な夕食スタイルでもよかった。

 だがそこに男性2人が加わって、一人は料理上手な毒舌男子、あの生意気な男を黙らせる料理は今のところ私のレパートリーには存在しない、たぶん海江田さんも料理は出来る男なのではっきり言ってプレッシャーとストレスでどうにかなりそうだ。

 まだ家族として打ち解けきらない状態では楽しい食事とは行かずおもてなしの要素を含んでしまう。

 仕方ない事だがそれは手を抜けない苦行としか表現できない。

 奮発して買った料理本はジャンルを間違えたとしか思えないメニューばかり並んでいて私のヤル気を萎えさせるには十分だった。

 本屋で手に取ったものを2択で悩んだのがそもそもの間違えで、お腹がすいていた私は自分の食べたい色合いで本を選んだ。

 おしゃれな本にはおしゃれな名前も聞いた事の無い料理が見栄えのいい写真と共に掲載されている。

 簡単な分量と流れが記されてコツなどは皆無だ。

 こんな本を選んだ自分が憎い、別な本は確かガッツリ男飯とかそんなタイトルで私にはぴんと来なかったのでしょうがない。

 まあごまかしながらコツコツレベルを上げるしかなさそうだ。

 月曜は麺類、金曜日はカレーの日とか決めて後は流れで肉と魚、バランスを考えて野菜を出さないときちんとしたおもてなしとはいえないだろう。

 溜息混じりに夕方のスーパーに寄って買い物をする。

 後ろで料理上手な毒舌男子が買い物カゴを持ちながら付いてくる。

「別に気を使わなくてもいいよ、先に帰れば?あっもしかして監視してんの?私が料理へただからへんなもの買わないように」

 タケルが相変わらず不機嫌そうに「ちげーよ」と言った。

 スーパーの前で偶然一緒になって流れで一緒に買い物する事になったが、私の選ぶ食材に意見を述べるのはやめて欲しい。

 その肉はバラじゃないとか、それは脂が多すぎだとか、お前は目利きか?と言いたいのを我慢して一通りの材料をそろえた。

 言うだけ言って満足そうな男って何か腹立つなと思いながらレジに並ぶと店の外に同じ制服を来た女子がこちらを見ていた?いや違う、あの表情は覚えがある。人を貶めようと企む顔だ。

 何でだと思うとタケルが「どうかしたのか?」と聞いてきたので、自分史上かつて無いほどの女丸出しの笑顔で「なんでもないよ」と答える。

 察しが付いたからだ。

 タケルと荷物を半分ずつ持って女どもに見えるようにわざと大回りで帰路についた。

 なるべくかわいく、自分なりに演出して仲良く歩く。

「なんか今日は変じゃね?いつものイライラは卒業か?」

 タケルが怪しむように私に言った。

「そんな~いつもとかわりないよ~タケルクンオッカシ~」

 甘えるような声色で向こうに聞こえるように言った。

 私は火に油を注ぐタイプの人間になったのかもしれない。

 たしかにタケルは海江田さんに似てイケメンだ。それは認める。

 ただテル君の優しさ溢れるイケメンと違う種類のもので少し悪ぶっているやんちゃ坊主なイケメン、女の子にもてると同中のハルが言っていた。

 ハルが夢見がちな少女のようにタケルの事を語るさまに少し同情しているが、まだ私との関係を話していないので若干気まずい、早く真実のタケルの話を聞かせないとハルがおかしくなってしまうと焦る私がいる。

 背後を付いてきた女子の気配が消えた。

 向こうの歩道に渡り帰っていく後姿を見送る。

「あー疲れた。これも持って」

 半分持っていたスーパーの袋をタケルに押し付けると「あっ元に戻った」とか言って文句を言い始めた。


「肉、焼きすぎじゃない?」

 タケルが一言申して私の作ったお味噌汁を飲む。

 もう一言何か言いたげな顔をしたので睨みの視線を送ると顔を背け口を噤む。

「タケ、肉はガッツリ焼いたのをガッツリたべろ」

 海江田さんがフォローするのを申し訳なく思っていると、タケルが別に不味くは無いよと……

 不味くは無いが美味くも無いのか?海江田さんがバカを見る目でタケルを見た。

「ああそういえばサラちゃんはお母さんに似て美人だからもてるでしょう。中学校でもモテモテな感じ?」

 海江田さんはフォローのつもりで言ったと思う。

 不味くは無いご飯をおいしそうに食べてくれるいい人なのだ。が、最初の夕食と言うか生活の中で中学の時の話しは何気にタブー視されていたのに2人には伝わらなかった。

 表現が微妙すぎたのだからしょうがない。

 母と佑太と私は一緒に固まった。

 もてるどころかイジメの標的で友達もいないボッチでいるのになぜか不良のように恐れを知らない反抗的な生徒、しかもあの街での最後の日に恨みを買って刺されて入院していたとはとても言えなかった。

 思い返すとトホホな自分に情けなくなる。

 海江田さんとタケルには引越しでケガをしたと伝えている。

 海江田さんがお見舞いに来るといったのを「大した事無いし、まだなれないから恥ずかしいらしい」と母が諭した。

 気を使わせて申し訳ない気持ちで一杯だったが、退院した私をタケルがマヌケなんだと大笑いで迎えてくれて私は引きつった顔をしたと思う。

 もちろんタケルは海江田さんにチョプをくらいその場でもだえ苦しんだ。

 お陰で笑い話だが痛い思い出なのでまだ話せない。

 そんな固まる私に海江田さんが察したように話題を変え、タケルがもてると言う話しに変えて盛り上がる。

 タケルは不満そうにご飯をほおばった。

 その後もタケルは放課後の買い物に付き合うようになり頼んでもいないのに申し合わせたようにスーパーの前で追いついてくる。

 相変わらず愛想の無い表情で何が楽しいのか知らないが食材選びに口を挟むことを忘れないのは、もはやウザイだけの悪癖としか思えなかった。

 鬱陶しいと思うが荷物持ちとしては便利な存在なのでスーパーから一緒に帰るようになった。

 毎日ではないのでタケルがいる日は油や醤油など重いものを買う日と決めていた。

 そんなウザイ日々の中私はしっかりと監視に気がついていた。

 スーパーの前で待ち伏せするように同じ制服の女が私を睨むように突っ立ている事がある。

 暇なのか?最初はあまり気にしていなかったが、昨日は少し違う感じだ。一人増えて携帯でこちらを撮影したのだ。

 タケルは何も気づいていないのでほおって置くがきっと何かのアクションを起してくる前兆だと思えた。


 前兆は私が磨き上げた対人関係に関する勘で危険信号にも似た警報を鳴らす。

 当たる確立はすごく精度がいいとこの目の前の集団を見て考えた。

 ボス猿を担ぐように先陣切って私を呼び出したのはあの待ち伏せ女で鼻息荒く詰め寄ってきた。

 きっと信頼と言うご褒美をボス猿がくれるのだろうとか勝手な想像をしてしまう。

 貴重な昼休みにたぶんくだらないであろう用事で呼び出されるこちらの身になってモノを考える事は出来ないのだろうか?まあ猿だから本能のまま行動するのだろうからしょうがないと諦めるしかない。

「大神サラさんだっけ?あんたさ、タケルクンと付き合ってるの?学校帰りにこそこそ一緒に帰って家にまで押しかけてずうずうしい、証拠写真だってあるんだからね」

 ここで「誤解だよ」とか弱気な発言は精神衛生上よろしくない、それに決め付けて行動している引っ込みの付かないメス猿は、私の話しなど理解できると思えなかった。

 まるで町内会のルールを無視した者を吊るし上げるように証拠写真を私の目の前に提示して逃げ場をふさぐように騒ぎ立て人を集めた。

 聴衆を味方につけようとするいじめる気満々のやり方だ。

 証拠写真を周りにも見せまくって事実確認を怠らないバカが私の後ろで見ていたユウにも写真を見せた。

「これが何なの?くだらない」

 ユウの言葉にムッとした女がそれを無視して別の女子にターゲットを移す。

 後ろでボス猿がほくそ笑んでいる。

 リーダーオーラ全開のお嬢様と言ったところだ。

 容姿がまさにお嬢様っぽいのでそう呼ぶ、名前は紗音瑠というかなり恥ずかしい3文字の名前で親のセンスを疑うレベルのキラキラネーム、名前で人を判断したくは無いがたぶんそういうことだ。

 この学校に入ったのだから頭はいいはずなのになぜ……?

 それにしてもだ。

 タケルのためになんで私がこんな連中に追い込まれなければいけないのだろう。モヤモヤが胸の中で増殖中だ。

 別に私自身はなんとも思わないが他人の目に映る状況はあきらかに私が攻められている?よろしくない状況にウンザリしている。

 集団心理とは恐ろしいもので一度貼られたレッテルは否応無く平穏な生活を蝕んでいくだろう事は明らかだ。

 教室の前に人だかりが出来てしまいかなり迷惑な状態に辟易して、この中心にいる事がすでに耐え難い、私は説明するのも面倒になりスマホを取り出した。

 少しイラつきながらタケルを呼び出すとほくそ笑んでいた紗音瑠がオドオドし始めた。

 すぐに駆けつける意外と律儀な男、タケルはざわついている人ごみを掻き分けるように登場した。

 すると彼氏かよ!みたいな反応で私に駆け寄った。

「サラ!何かあった?大丈夫か?」

 腕をつかんでしかも名前呼び捨て……

 駆けつけたタケルは私と4組の女子を交互に見て何か思うところがあるらしい。

「この紗音瑠ちゃんがタケルのこと好きらしいので、私に迷惑かからない様に私達の関係を説明してくれるかな、かなりめんどうくさいし正直ウザイのよ」

 私の不機嫌を察したのかタケルは溜息をついて私に謝罪した。

 それを見た紗音瑠が困惑しているのがわかるほど表情が変わる。

「お前ら何がしたいの?俺に関係ある事なら俺に言えっつーの……意味わかんね~し」

 切れ気味のタケルが紗音瑠を睨むと泣きそうな顔になった。

「だ、だってね、この子がタケルくんにちょっかい出してるみたいだから注意しようとして……タケルくんだって迷惑でしょ、こんな子に付きまとわれるの」

 こんな子呼ばわりに私がキレそうになったのをタケルが見て少し焦っている。

 尻すぼみになった紗音瑠は猿仲間御一行に助けを求めるような視線を送る。

「紗音瑠がタケルくんのこと好きなの知ってるくせに酷い!」

 空気を呼んだ後ろのデブが聞こえる程度のデカイ小声で呟いた。

「何のことか知らねーけどサラは俺の妹だ。だいたい人の写真とか勝手に取って証拠ってなんだ?くだらねえ」

 頭を掻きながら照れくさそうに私のことを妹認定したタケルはばつが悪そうにこちらをチラ見していた。

 私の妹発言にその場にいた全員が「え~~!」とハモった。

 私は何時から妹になったのだろう?そんな記憶は何処にも無い。

 紗音瑠の起した騒動は身内と言う意外な結末で幕を閉じた。

 血が繋がらない事で可笑しな想像をして楽しむ輩がいたが、特に煩わしいというほど積極的なロビー活動はしてこない、その話をすると私がキレるとか思ったふしがある。

 それならそれでめんどうくさくなくていいがハルが腫れ物を触るようにタケルの話を振ってくるようになった。


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