第41話 太陽と月
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俺が頷くと太陽の精霊と呼ばれた少年は話を始めた。
「実は、僕の友達の月の精霊が捕まっちゃってるんだ。それでヤマダとアリーにはあの子を助けて欲しいんだ。このままだと夜の魔力が失われちゃう」
太陽の精霊は今にも泣き出しそうな顔になっている。彼にとって月の精霊はよほど大事なのだろう。
「夜の魔力っていうのは?」
「それはね、月の精霊が司る力のことだよ。僕の力は昼の魔力、月の精霊は夜の魔力。この対になる二つの力は白と黒の魔術の力を高めるんだ」
「なるほど、よくわからん」
「それについては俺がわかってること話すよ」
ヤマダが口を挟む。
なんでも、黒術師は昼に魔法の威力が上がるパッシブスキルをデフォルトで持つ魔法職らしい。学院に入る事ができないため掲示板情報にはなるが、『昼の魔力』と呼ばれる太陽の力を使って魔法の力を補助しているそうだ。ちなみに、『夜の魔力』を使う白術師はまだ見つかっていないとのこと。
これはつまり?
「新ジョブ発見シナリオか?」
「俺もそう思う。聞くところによれば黒術師になった後に学院に行けば、『夜の魔力』を扱う者についての話が聞けたり、大書庫でも情報探せば色々出てくるっぽい」
「じゃあこのシナリオも発見間近だった可能性あるな」
「実際掲示板見てたら王手に手がかかってるのはちらほら。ただ学院に未所属っていうのがまだ掴めてない感じだな」
「なるほど」
となると、これまた面倒だな。
俺にはメリットが経験値以外にほとんどないシナリオになる。効率でゲームをやるというほどではないし、その場のテンションで非効率な事もやるにはやるが、それはそれとして気にはなってしまうのだ。
まあ結果的に楽しかったら良いのだが。
俺は今はとにかく楽しめる、手を伸ばせるコンテンツを増やしたい。手っ取り早い方法は先に進む事であり、これは不必要な寄り道でもある。
だが、まあ、純粋に興味もある。このシナリオ、世界観的な面からこの世界を見る上で一役買いそうな匂いがするのだ。好奇心は猫を殺すなんて英国人は言うが、好奇心はプレイヤーを未知へと導くものだ。
至る未知は必ずしもプレイヤーを楽しませるものとは限らないが、未知を見出す過程こそを楽しむのもまたプレイヤーだ。未知に満ち満ちた
「これが終わったらレベル99まで突っ走るの絶対手伝わせてやるからな」
「しょうがねえなあ」
「フレ呼ばれたので失礼します^ ^」
「ちょっ、まっ喜んで手伝わせていただきます!」
どっちにしろやるつもりではあったが、これくらいの仕返しはさせてもらおう。
ヤマダは俺たちの会話についてくることのできない太陽の精霊が目を白黒させているのに気づき、咳払いをしてきた。たしかに今は俺たちの話より彼の話を聞くのが先だろう。
なにから聞こうか。
とりあえず『夜の魔力』・『昼の魔力』についてはとりあえず少し分かったが、月の精霊についてはまだなにも聞いていない。
「月の精霊がどこに捕まってるかわかる?」
「ううん、どこかまでは僕も知らない」
太陽の精霊は申し訳なさそうに首を振る。よく表情の変わる子だ。
しゃらんしゃらん彼が動くたびに服についている鈴が音を鳴らすが、その音も心なしか元気がないように感じる。
「僕は夜の間は本当は自由に動けないんだ。ほんとは夜に出てくるのも難しいの」
太陽の精霊がそう言った。
しかしこうして今彼は目の前にいる。どういうことだろうか。彼は夜の魔力や月の満ち欠けの話をしていた。それと関わりあるのだろうか。
「でもこうやって月の光が失われて夜の魔力が弱まると出てこられるんだ。月の子も太陽が欠ける時にはお昼に出てこられるんだよ」
太陽が欠ける……?ああ、日食か。
それよりもこれはどういう事だ?今おかしな事が聞こえた気がしたが。
ヤマダもこれは初耳だったらしい。昨日に会った時に聞けたのはどこに捕まっているのかわからないというところまでのようだ。
ヤマダが太陽の精霊に尋ねる。
「ちょっと良い?今見えてる月は二つしかないし、そのどっちもこれから満月になろうってところなんだけど」
「あれ、もしかして知らなかった?今空には月が三つあるんだよ。あの二つと本来の月は反対の周期で満ち欠けをしているんだ」
そういえばそんな話をチラリと見た気がする。あまり重要視していなかったので覚えていなかった。
つぎはぎの世界になった事で歪に歪んだ空間に月が三つ浮かんでいるという。太陽は増えていないらしい。重なり合った結果微妙に位置が違っていた月は増え、位置が同じだった太陽は増えなかったと考察されていたな。
月が増えたからといって夜が明るくなるわけではなく、あくまでも景色的な変化しかなかったようだ。
「ということは、さっきの月が満ちるまでにってのは今見えていない三つ目の月のことか」
「一つ目だよ!」
「え、あー、うん、一つ目の」
太陽の精霊が満足そうにうなずく。最初の、この世界の本来の月である事にこだわりがあるようだ。
それはさておき、それならば少し余裕ができた。決して長いわけではないが、調査の時間は取れそうだ。
「それで、どうすればその月の精霊見つけられる?特に俺は魔術はさっぱりなんだが」
こればっかりはジョブの関係上仕方がない。しかしヤマダもわかってないようなので太陽の精霊からヒントなりなんなりを得ないとどうしようもないだろう。
「それは、夜の魔力を辿ればわかるはずだよ。いまはかなり不安定になってるから新月じゃなくても僕は出てこられるし、多分昼になっても夜の魔力が濃く残っているところがあるはず」
「でもその夜の魔力って俺もよくわからないんだけど」
「大丈夫、ヤマダなら感じられるはず」
「感じられる?」
たしか黒術師は『昼の魔力』が能力に関わっているはずだ。ならば逆に言えば、『夜の魔力』に干渉されて魔術が弱体化したりするようなところが怪しいというわけだな。
「でもこの街広いぞ?」
「街のあちこち行って使ってたらさすがにMP足りなさそうだな」
こいつのMP量を俺は知らないが、そんなことは簡単に予想できる。時間をかければできるだろうが、やはり手当たり次第になんて事をしていたら時間がかかりすぎる。
「月の子は学院の誰かに捕まってるんだ……」
太陽の精霊が俯いてそう言った。
なるほど、魔術学院に未所属ってのはここで効いてくるのか。てことは、学院に関係のある施設を当たれば良いってことだろうか。
それを調べるところから始めなければならないが、手間と時間はグッと減ったはずだ。
「ふーむ、とりあえず必要な情報は手に入ったか?」
「そうだな、黒術師派生っぽいし確実に白術師に関わりがあると見て良いな。とりあえずシナリオ終わったら掲示板にでも流すか」
「隠さないのか?」
「どっちにしろそろそろ見つかるだろうし、このジョブは隠す価値は特にないだろ?」
まあそうだな。
なんにしてもここにいる意味ももうあまりなくなったし、そろそろ行く事にしよう。レベル上限の解放をすれば獲得分の経験値も入るようだし、今から経験値稼ぎに行っても問題ないだろう。
「色々ありがとう。また何か聞きたいことができたら会いにくるよ」
「そういえば、昼には会えないのか?」
たしかにヤマダの言う通りだ。太陽の精霊なのだし昼に会えても良いはずだ。
「うん、お昼の間は僕は精霊力になって世界に散ってるからこの姿になれないんだ。本来は新月の夜にだけなんだよ」
なるほど、ならばシナリオの発生時間自体が限られているのもうなずける。ということは不安定になっているという夜の魔力の関係上、あと二、三日くらいは彼と話す機会があるということだ。
逆に言えばそのくらいしかないわけだが、その間に必要な情報を纏めるようにすれば問題はない。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
ヤマダの言葉にうなずく。
太陽の精霊に再び礼を言い噴水広場を後にしようとしたその時、目の前にウィンドウが表示された。
「ん?お知らせ?」
「メンテみたいだな。アプデか?」
「急だなぁ。まあある意味予告はされてはいたんだが」
メンテナンス開始までまだ二時間以上あるが、どうやら夜通しの経験値稼ぎはお預けになりそうだ。
『メンテナンスのお知らせ
平素よりネバーエンディングワールドをプレイいただきありがとうございます。誠に勝手ではありますが『星のかけら』イベントのクリアに伴いまして、かねてより予定しておりましたアップデートを行います。
2:00よりアップデートに伴うメンテナンス作業を行います。終了時刻は4:00を予定しております。
それにより全サービスを利用する事ができません。2:00時点で強制ログアウトが発生いたしますので、それまでにログアウトをお願いいたします。強制ログアウトに伴う健康上の問題、データの不具合等は当社では責任を一切負いません。あらかじめご了承ください。
アップデート内容の詳細については公式サイトをご確認ください。』
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