第39話 魔術の街
「とまあ太陽の精霊名乗る
「んで何すりゃいいかわからんからレベル上げに出たがなかなか上がらなくて困ったと」
「そゆこと」
つまりどうしろと?
レベル上げをするのはやぶさかではないが、それだけではないだろう。
「まあ置いてかれた腹いせにお前に内緒で攻略してやろうとも思ったんだが、面白そうなネタだしお前も巻き込もうと思ったわけよ」
「つまり厄介ごとでも一蓮托生ってことだろそれ」
「さぁ、なんのことやら」
こいつ、簡単に人を巻き込もうとしてやがる。
そもそも特殊シナリオとは名前の通り、発生条件が特殊なシナリオのことを示す。似たものにイベントシナリオがあるが、アレは運営が時節的なものとして用意したものだったり突破的発生したりするものだ。
特殊シナリオはあらかじめ特定の条件が定められており、それを満たさなければ発生しない。イベントシナリオと違い、一部のものを除いて条件さえ満たせば再戦する事が可能だ。
俺がつい数時間前までやっていたものを例にすれば、おそらく条件は託宣を受けたアイダにトゥーリ内でなんらかの方法で認められること。その前のイベントシナリオはアイダの気まぐれによる突発発生のものだ。
今回のことで考えるならヤマダはなんらかの条件を満たしたのだろう。魔力などの発言から考えると魔術師系統が必須だろうし、月の満ち欠けや時間帯なども条件だろうか。これくらいなら二ヶ月もあれば見つかっていそうなので、他にも何かあるかもしれない。今は判断がつかないのでそれは置いておこう。
問題はそのシナリオがもたらす結末だ。
イベントシナリオは基本的に突発的な、誰もが楽しめるようなものとして発生することが多く、結末は特に問題はない。
しかし、特殊シナリオは違う。俺のものがそうであったように、選択や進行次第では良くないことが起こる可能性もある。俺のものは再戦不可タイプと思われるので特殊な可能性もあるが、wikiを見た限りではNPCが数名死亡しそのままになっているケースもあるようだ。再戦をしても、過程は変えられても必ず死亡してしまう結末に固定されているらしい。
つまり、下手にはじめてのシナリオに触れて大爆死した場合の道連れとして俺を選んだのだろう。こいつというやつは。
「お前ほんとそういうところは抜け目ないというか計算高いというか」
「初歩的なことだよアリソンくん。道連れは作るものであり生け贄もまた同じく、なのだよ」
「うるせえよアホームズ」
「アホームズ上手いな、今度使わせてもらうか」
「……」
何故俺はこんなアホに付き合わにゃならんのだ。
まあ良い。そもそもこいつとは一緒に遊び尽くすつもりではいたし、俺を待っていてくれた恩もある。こいつは貸しだとか思ってないだろうが、自分もやりたいだろうに俺に合わせて購入時期をずらしてくれたのは素直に感謝しているのだ。
「まあいいや、あの見えてきてんのがピャーチか」
「うむ。なんかこう街ごとに特色あっていいよな。ピャーチは魔術が発達してるからか、街を囲うのが低い塀な代わりに結界が張ってあるんだよな」
「へぇ、あのうっすら青く見える壁みたいなのか」
「そうそう。あれでモンスターとかが入れないようになっているらしい」
少し下り坂になった街道の先、見えてきたのはなんとも言い難い奇妙な街だ。中央に異様に高い尖塔を備えた建物が見え、その周りを囲うように摩訶不思議な街が広がっている。そしてその街を薄い青色の、透明なドームが覆っていた。
建物の形状には統一性はなく雑多に並べられ、道も複雑怪奇に入り組んでいる。トゥーリの迷路のように立体ではなさそうだが、平面とはいえこれは迷いそうだ。
生活する事を前提としていないようにも見える。利便性など二の次にして、とりあえず試しに建物を置いてみたというような、なんとも行き当たりばったりを感じさせる形だ。
よくこんなところに住んでるな……。
「面白いだろ。アレ全部建築魔法の実験で建てた建物なんだよ。どこかれ構わず建てまくるからあんなゴタゴタして、今じゃ街中を走る道が魔法陣の役割を果たして、地脈の力を吸って巨大な魔術になっているらしい」
「もしかしてあの結界がそうか」
「ご明察。たまたまこうなったらしいがそれをうまく利用してるってさ」
「でもこれそのうち新しいの発動したりするんじゃ」
「その時はその時らしいぜ」
なんじゃそりゃ。
ヤマダが言うには、過去には街の一角が爆発で消し飛んだりもしているらしい。かなりやばい街だなここ。ああ、なんか確かに不自然に欠けている場所があるな。
俺は絶対に住みたくない。
しかしプレイヤーにはそこそこ人気なようで、ハウジング用の土地もプレイヤー同士で高く取引もされているそうだ。いきなり吹き飛ぶスリルだとか、ただただファンタジック(俺には奇怪な夢にしか見えない)な街に憧れただとか、色々な理由があるという。
街中でそこそこプレイヤーを見るらしい。
ちょっと名前が売れてしまったために心配ではあるがまあ大丈夫だろうと思い直す。釣り人ライク装備は伊達ではない。
なんだかんだと話している間に、ピャーチの門へと辿り着いた。入り口はどの街も変わらず門衛が居るようだが、ここは一味違った。
格好は剣を携えた兵士のようなものではなく、ローブを纏い長杖を手に、そして腰に短杖を吊り下げた魔術師装の男女だった。門のそばの詰所にもいるのは魔術師装の人ばかりだ。
「こんなところから魔術の主張が激しいな」
「だろ?この街で剣持ってるのはほぼ100%プレイヤーだと思っていい」
「魔法剣士とかは……」
「ここの人々にとったら邪道だな」
夢のない話だなぁ。
まあここの人にとっては、ということはスタイルとしては有るのだろう。俺もちょっと憧れはあるのだ。
まあ、もう次のジョブは決まっているようなものなのだが。
「これ俺街に入っただけで袋叩きとかないよな?」
「さすがに剣持ってるだけでそれはない。それに星人だしな」
なら安心だ。
どういう仕組みとタイミングでポップしているのかいまいち不明なNPCの入門待ちの列に並ぶ。ゾロゾロと人は流れていき、すぐに俺たちの番になった。
「ん?その格好……なんだ星人か」
「いや、紛らわしくてほんとスンマセン……」
「ふん、構わんが……貴様、剣士か。くれぐれも妙な真似はするなよ」
「ハ、ハイ」
なんかものすごい剣呑な気配で送り出されなんとか街に入る。ヤマダもその姿に苦笑していたが、どうやら一部のプレイヤーが余計な騒ぎを起こしたらしい。
魔法は剣には勝てないだのなんだの騒いだ挙句、この街の実力者ポジションのNPCに喧嘩を売ってそれはもう見事に返り討ちにされたらしい。
元々剣を軽視する風潮はあったらしいが、それをがより強まった、というよりは蔑視になったというか、とりあえず立場は相当に悪くなったようだ。どこの誰かは知らないが、くだらない事をやってくれる。
「まあ、何も問題起こさなきゃ大丈夫だって」
「起こすかもしれないんだよなぁ……」
「その時はその時だな!なるようになる!」
おいおい、勘弁してくれよマジで。
今度という今度は洒落にならないぞ。魔術師系統以外の入門拒否、および星人全排斥のきっかけみたいな事には絶対になりたくない。
これは絶対に失敗できない流れになってしまったな。
本当に。
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