第34話 始まりのエピローグ
「このアリーってもしかしてアイツの事じゃないだろうな……」
ヤマダDEEPは掲示板に書き込まれていた名前を見て思わずそう呟いた。
プロゲーマーの伯父を目標にし、高いPSを自負しているヤマダから見ても、アリーというプレイヤーはそれなりにPSの高いゲームプレイヤーだ。
高難度イベントとかも涼しい顔をして参加するような男であり、変なフラグも踏みやすい男だ。すぐにアイツじゃないなとは否定できない。
「まあそれはそれで面白いんだけど」
これがあのアリーならば、これをネタにいじってやるという決意を固める。
アホ面を晒してくれそうな親友の現実での顔を思い浮かべて、どうからかってやろうかと思案しながら彼はギルドから出る。
「負けてらんねえな」
一歩先でこの世界を謳歌しているであろうと思われる男に、自分は負けてはいられないとヤマダは決意をかためる。
まずは目下の問題を片付けねばならない。そのために彼は今日、徹夜でプレイする事を決めたのだ。
「夜の魔力、ねぇ。気になるっちゃ気になるが……」
自身の見つけた特殊シナリオを攻略するためにもまずはレベルを上げねばならないと、彼は夜の街から飛び出していくのだった。
いくつかの場所で発見された特殊シナリオ。それらをクリアした者達がもたらした情報は、それを知った者達に衝撃をもたらした。
それは星人という存在にとっては一部の情報ではあるらしいのだが、その断片だけでも議論が巻き起こるほどには大きなものだった。
曰く、星人は侵略者である。
曰く、星人の本来の主らしきものが存在する。
曰く、それらを打倒、あるいはそのまま取り込む事で新たな力を得られる。
曰く、それは星人でなくともできる事である。
曰く、それらを逃すと世界の危機となる。
曰く、取り込んだ者は世界の敵対者である。
曰く、すでに敵対者となった者が存在する。
ある者は考えた。その敵対者が特殊シナリオをプレイした者であるのか、あるいはもっと別の者なのか。それはどこにいるのか。
ある者は危惧した。やはり星人とそれ以外との敵対は決まっているのではないかと。
そして、誰もがこう思った。敵対者となる事をプレイヤーにさえ選択させるのか、と。
「なるほど、それが自分だけの冒険って事なのか」
トゥーリの街の裏路地でTanTakaTanTanはため息を吐きながら呟いた。とある書き込みのせいで捜索対象になっているため、少し肩身が狭い。
そして物語を紡ぐのはプレイヤー、いやこの世界の住人なのかと納得する。
おそらく、運営は世界だけを用意して、その全てをプレイヤー、NPCひいては仮想世界そのものもに全てを任せた。彼らの中に筋書きはなく、その行く末の全てを委ねている。あまりにも無責任に見える行いだ。
プレイヤーの全てが良心的なプレイヤーではない。さらに言えば悪意ではなく、純粋な興味で自ら引き金を引くものもいる。それこそ、ここは仮想世界であり現実ではない。
「終わりのない、なんて言葉が誇張表現になってしまうよ、これでは」
この世界の未来に一抹の不安を抱き、そしてふと思いついた。
「ああ、なるほど、だから救世の勇者の伝承か」
プレイヤーの行動についてはそれこそ制御ができない。だからこそ、世界の行く末を選択する者の中にNPCがいるのかと納得する。
どこかのプレイヤーが道を違えた時、そこに立ち向かい、それを止めるストッパーの役割。
この世界を簡単に終わらせるつもりはないのだろう。
「それでもやっぱり無責任と言わざるを得ない」
それでも結論は変わらない。
それならば、望み通り終わらないようにしてやろうとTanTakaTanTanは決意する。
「一年過ごして充分愛着もあるし、それにここで生きるのはそれなりに楽しいんだ」
終わらないことに異存はない。むしろ永遠に存続しても構わない。彼自身、この世界に毒されているなと、心の中で苦笑する。たかだか仮想世界の未来がどうあろうと、かまわないはずであるが、どうやらもう自分は世界の住人の一人になってしまったらしい。
ならばこそ、そんな住人一人一人に未来という重荷を背負わせる存在に対しての、ささやかな仕返しを決意する。
「あなた達が疲れ果て、望んで終わらせてしまいたくなるほどに、長く長く世話をさせてあげようじゃないか」
そんな彼に一つの通知が届く。仲間からのメッセージだ。
内容を確認し、ただ港に行けと指示されたそれにTanTakaTanTanは従う。そしてたどり着いた彼が見たのは人だかりと、その中心にいる五人の人影だった。
そのうちの三人は知っている。
一人は非常によく知った顔だ。そもそも今回の大元の原因を作り逃げるように街を駆け抜けたNPC。
一人は一度会ったのみだが忘れてはいない。昨夜ともに街を駆け抜け、そして今ここにいるということが非常に重要であるプレイヤー。
一人はここにいるのが意外だった。見知らぬ耳が生えているが、名前と装備からするに闘技場PvEランキング50位以内の、たしか
「そうか、彼はクリアできたのか」
心配は急に終わったらしいと安堵する。そしてTanTakaTanTanはは、アリーというプレイヤーが竜巫女とともに敵対の姿勢を見せることもなく同じ場にいると言うことは、良い選択をしたのだろうと推測した。
そうして眺めていると、錫杖を持ち、浮いているように見える女性がシャンという音ともに口を開く。
「私は女神、この身に名はなく、ただ女神と。どうか私の言葉を聞いてください」
そして、全てが始まった。
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