第33話 答えは決めてあるので
このゲームが発売され、プレイヤーが増え始めたあたりからずっと議論されていた事がある。
この物語の主人公になるのは誰だ?
終わらない物語、永遠に続くお話というがストーリーの中に主人公がいないのは変だとか、このゲームのプレイヤーは主人公にはなれず世界の住人その一だとか色々語られてはいたが、今ここに主人公の一人が生まれようとしていることは間違いないと思う。
世界の歴史を紡ぎ、星人のあり方を守り支えてゆく。そのための決断を迫られているのだろう。
何もせずとも終わらない話なんてものはやはりなく、誰かが努力してそれが続くようにしなければならない。今回は俺がその一端に触れたということだ。
「内容にもよりますが、まあ俺は多分拒否しませんよ」
女神様の微笑みに不敵に見えるように笑顔を浮かべて答える。ステータスが八分の一しかない雑魚だが、こういうところくらいイキっていきたい。
正直世界の根幹に関わるとは考えているが、これそのものはそのほんの一部でしかなく、俺たった一人の行動では大きな結果はもたらされないだろうとどこか確信めいたものがある。ただ、情報が多くに知れれば、それはたった一人の行動ではなくなるかもしれない。情報は使う者次第であり、使い方もある。
その点俺と鵺さんなら問題ない。……はずだ。
さっきも考えていたがバタフライエフェクトなんてものが存在するのだ。俺の預かり知らぬところで何かが進むのはどうにもできないし、ならば見えるところにある方がいい。
あとまあ、他のプレイヤーにはない俺だけってのはまあ、憧れる要素だ。MMOでのオンリーワンは羨望の的なんだよね。ナンバーワンよりも力を持つと俺は思っている。
「助かります、星の子。私の願いはこの力の管理」
女神は俺に、小さな結晶を差し出した。これは、さっき世界を喰らう者を封じた結晶だ。
おっと、こんなヤバいもの一介のプレイヤーに渡すのは良くないぜ。
「ご心配なく。すでにかの存在の意思は完全に消え、今は純粋な力のみとなっているのですよ。それにその力も大きく失われ、何かを害することはありません」
女神が優しく微笑んだ。「使い方にもよるでしょうけれど」と小さく付け足したのは、脅しの役割もありそうだ。
思えば厄ネタに思われた小さな星のかけらが、こんな激ヤバアイテムに変わりそうなんだから感慨深いものがあるとも言えなくもない。
「これは星を巡る者には託せないもの。いまだ力秘めたるあなたにしか渡せないものなのです」
おっとそれはよくないよくないよ。男はお前にしかできないことだとかいわれるの弱いんだぞ。的確に弱点ついてきやがるぜ。
やってやろうじゃないか。おうプレイヤーども、俺に生かされる気分はどうだ?
「お預かりいたしましょう。ただしあくまでも一時的に力を受け取るのみ。然るべき時には再びこの力は女神様へとお返しさせていただきますよ」
あくまでも俺のものじゃないアピールだ。俺がミスった時、託した女神様にも責任ありますよーってな。苦しいかな?
しゃーないだろ俺はチキンなんだよ!
「ありがとうございます」
女神が微笑み、彼女の差し出す手から俺は結晶を受け取る。俺の言葉には何も返してくれない。
というか未だ力秘めたるってレベルキャップとかの事ではないか?ならばもしかして、隠しジョブとかなのか……?じゃあこれってあれじゃね?低レベルでクリアとかの特殊分岐か。
それならばもしかしたら世界の命運的なあれはない───
「かの存在が再び目覚めないとも言えません。各地の闇が封じられた場所へは近づかない方がいいでしょう」
そう甘くはなかったらしい。
やっぱ一歩間違えたら目覚めて滅亡ルートとかだな。怖い怖い。受け取っちまったよ。
アイテム『星の結晶』を獲得しました。
『星の結晶
"隠しジョブ???の修得。レベル上限解放一段階が必要。
界外の闇に棲まう世界を喰らう者の力を封じた結晶。そこに世界を喰らう意思はなく、ただ力のみが渦巻く。それは新たな道への扉"』
ふぅん、予想通りジョブ系か。でもまだ30より上にレベル上げられないからギルドにいかないといけないな。
あー、そう言えばギルドで思い出した。
「時に女神様と聖女様」
「なんでしょう」
「私のことはフィリスラティナで構いませんよ」
長い、フィリスで。
「俺の方も一つお願いしたい事があるのですが……」
俺は今、教会が封鎖されて星人が中に入れない事を伝えた。その原因も事細かく。
「あら、それは大変ですね。その今代の聖女もいずれは目覚めるでしょうけれど、今の聖女は女神様の加護も薄く、その身に宿す力も少ない。奪われてしまった力はもう戻らないでしょう……」
フィリスが悲しそうにそう言った。
女神様によると、シャーシチ、そしてそれ以外の街の星の石に関しては問題ないとのこと。元々星の石自体も末端存在ではあり、星のかけらを捧げるのはそれすなわち力の還元でもあるのだが、女神様のできる限りの小細工で街中の星の石はすでに変質しているようだ。
ただあまりにも大量に捧げられたために浄化が追いついておらず、それに触れてしまった今代の聖女が力を食われて倒れてしまったという事らしい。
馬鹿みたいに捧げたプレイヤーのせいですね。
「その辺りのゴタゴタをなんかこう、いい感じにこう……」
ヤバい、プレイヤーのせいだとか考えてたら、どう伝えたらいいか分からなくて曖昧な変なアレになってしまった。
「そうですね、いい機会です。私も街へと向かいましょう。フィリスラティナ、貴女も久方ぶりの里帰りですね」
「私はすでに人である事を捨てておりますゆえ……」
女神が楽しそうに手を合わせる。彼女が動くたびに錫杖がシャンシャンなって地味にうるさい。
ただ女神様たちが直々に教会に話をつけてくれるようで非常に助かる。
このままイベントも終わって街に戻る流れだな。
「おい、アイダ。いつまでも考え込んでないでそろそろ帰ろうぜ」
「んぁ……、そう、じゃな。うむ」
ずっと考え込んでいたアイダは、俺に声かけられて驚き、曖昧に頷いた。
何がアイダを悩ませているのか分からないが、なんか元気でちょっとうるさかった奴がこんな風になっているのはあまりよくない。
「なあ」
「……なんじゃ」
それにその顔にそんな表情は似合わんだろう。
「何を悩んでるのか知らんけど、お前はお前だろ。俺は竜巫女なんて大層なもんじゃないし、過去の存在との板挟みとかになった事もないが、俺が知るお前は歴とした竜巫女アイダだぜ」
アイダがじっと俺を見つめている。よせやい、こんな事言ってるけど、受け売りに近いんだからさ。
「過去の竜巫女がいようと、それがお前と同じ存在であろうと、今のお前が積み重ねたものはお前だけのもんだろ。むしろ、そんな過去の竜巫女を笑い飛ばせるくらいになればいいんじゃねぇ?過去の竜巫女も今のお前も、未来の自分が役割でウジウジ悩むのは望んでねえだろ。俺が知る今代の竜巫女アイダってそんな奴だけどな」
過去の魂だとかデカい役割だとか、そういうものを持つキャラクターは得てして自分の今のあり方とその役割や過去の存在とを天秤にかけて悩んでしまいがちだ。それが悩みかは知らんけど。
古今東西、そんな創作は色々あったし、俺はそれらを見てきた。だからこれはほとんど受け売りみたいなもんだ。
今の自分を肯定してやる。それだけ。
まあそれで解決するほど甘いとも思ってはいない。この世界に当てられて、一人前に悩むただのNPCでしかない存在に感化されて、俺は相当のめり込んでいるらしい。
アイダが視線を逸らし、ふっと笑うのが見えた。
「そうじゃな」
その横顔は心なしか紅く見えた。
特殊シナリオ『闇に手を伸ばして』をクリアしました。
称号『光を継ぐ者、星の子』を獲得しました。
特殊称号『星の輝き潰えず』を獲得しました。
称号『前人未踏』を獲得しました。
称号『女神の寵愛』を獲得しました。
称号『新たなる道』を獲得しました。
特殊称号『竜巫女アイダの盟友』を獲得しました。
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