第29話 其は闇より来たり 4

 第二形態になった世界を喰らう者の攻撃は苛烈の一言だ。携帯変化と言っても見た目はデカい口ができた以外に差はない。

 最初の頃ほど即死攻撃の頻発は無くなったものの、学習したことによって動きに緩急が多少つけられていたりする。分裂腕の攻撃は腕の分裂数が増えたりしてより厄介になった。


「GuuUUaaAAAA!」


「がぁ!足癖もわりぃ!」


 足を自由に動かすようになったヤツは、単純に攻撃手段が増えただけではあるが、それゆえに今までにない動きを行なってくる。

 なんとか蹴りは防いだものの、俺の防具とVITではガードしたところで上からどんどん削られていく。

 それと一つ、わからないことがある。

 世界喰らう者は八割俺を狙って攻撃をしている。第一形態の時から俺を狙うことが多かったが、第二形態になってから、いや俺が一度リスポーンしてからはそれが顕著だ。

 ヤツの敵意がチラチラと散っていたのが、アレ以降ずっとこちらへと向いている。


「俺と、鵺さんの差はなんだ」


 考えられるのはレベル。レベル差なら第一形態時に俺を優先的に狙っていたことも納得できる。弱いヤツ、倒せそうなヤツから狙っていくのは数の不利を覆すのに簡単な方法だ。

 だが、おそらくはもう一つ原因がある。

 デス以降俺に付与されている状態、『状態:界外の闇-侵食1』これがヤツの気を引いている原因だろう。効果は『闇を誘う印の付与、エネミー「世界を喰らう者」の特殊行動誘発』で、まさに答えだと言っているようなものだ。侵食の段階で何が変化するのかはわからないが。


「次は左へ!」


「了解!」


 鵺さんの声に反応し、左側へと飛ぶ。逃すまいとヤツは腕を伸ばしてきたが馬鹿め、。お前は目の前から逃げようとする奴には、腕を伸ばして対応するってことは何度かの攻防で分かった。その時お前は第一形態の時と同じようにその場から


「我願うは貫く槍!氷よ、我が願いに答えよ!『アイスランス』!」


「俺にストーカーするのはいいが、周りは見たほうがいいぜ」


 棒立ちの世界を喰らう者は、鵺さんが飛ばした氷の槍をモロに食らって吹き飛ばされる。詠唱短縮で多少の威力低下があるらしいが、かなりの威力だ。

 砕け散りキラキラと舞う氷に思わず見惚れるが、今が好機。体勢を崩しているヤツへと追い討ちをかける!


「もうちょっとだけじっとしててくれよな!」


 反論は認めない。

 『掌底:破撃』を打ち込み、そのノックバック効果でさらにヤツの動きを止める。

 そこへ鵺さんが踏み込み、格闘スキルでダメージを入れている。

 鵺さんにはなるべく高威力の魔法を選んで撃って貰っているが、そうそう連射できるものでもないらしい。高威力の魔法は詠唱の他に魔力の集中、つまりMPをあらかじめなんらかの形にしておく必要があるそうだ。

 魔法職のそういう隙を作るために前衛がいるということだな。

 鵺さんはさっき高威力の魔法を撃ったばかりなので、今は魔力を高めている。MPを何とかしている間に近接戦闘ができる魔法職とはこれいかに。前衛要らないのでは?

 まあ万能ビルドはどれも本職に敵わないという大きな欠点があるのだが。


「GaaAAAAAA‼︎ 」


 ノックバックの硬直を振り払うかのように世界を喰らう者が腕を振って暴れる。鵺さんはそれを回避するが、その攻撃の止まった隙を突いてヤツは再び俺への攻撃を再開する。

 どうしても俺を倒してしまいたいらしい。そこまで執着する理由はなんだ。この執着はレベル差だけではなさそうだが……。


「ぐっ!」


「GuuuuUUuuunnnnnn」


 ヤツは腕を分裂させ俺を縛り上げる。

 腕の分裂が、俺に触れる目前で発生するという初めての攻撃で回避が遅れた。即死攻撃と思って直前で回避しようと思ったが違ったようだ。

 唸るようにヤツは俺を見つめている。

 何をしてくるつもりだ?投げつけるのか?くそ、抜け出せない!


「ぐああぁっ⁉︎ 」


 これは、ドレインか!

 身体から何かが吸われるような感覚がある。だがHPは減っていない。何が吸われている⁉︎

 クソ!悠長にステータス見てられないな!

 暴れてみるが俺のSTRではヤツのSTRにかなわない。


「ハアァ!」


「助かった!」


 鵺さんの一撃で世界を喰らう者がよろめき、拘束が緩んだ隙に俺は抜け出す。その最中、思考操作でステータスを展開してみると信じらない情報があった。


「テメェ!レベルドレインかよ!」


 レベルが1下がって29になっていた。幸いステータスポイントは5ほど保険として振らずに置いていたので、ステータスの低下は今はない。

 ご丁寧に状態欄に『状態:レベル低下1』となっている。状態として付与されているなら戦闘終了で解除される可能性もありそうだが。


「下手に食らうとまずいな……」


「大丈夫ですか?」


 鵺さんが尋ねてくる。


「レベルドレインされた」


「えっ」


「鵺さんもさっきの直前の分裂気をつけて」


 と言ってもあまり鵺さんは狙われない上に、状態付与されていないから大丈夫だろうが、俺への一撃が流れ弾になる可能性もある。

 迫る腕の一撃を回避しながら考える。

 『状態:界外の闇』で誘発される特殊行動がおそらくこのレベルドレインだろう。というかそうであってくれ。これ以上なにかくるともうやばい。

 これまでの即死攻撃を引き付けてからの隙を狙った攻撃は難しいだろうなこれは。


「だが、まあ、見えてきたぜ」


 ヤツとのステータス差は歴然だ。レベル差も相当にあるだろうしこういうステータス制のゲームならば大いに物を言う要素なのは当たり前のことだ。

 だが、俺がこれまでにをどれだけ勝ち抜いてきたと思っている。型遅れの骨董品で、強制的にステータスが相手よりも低いような状態で俺はこれまで戦ってきた。

 その感覚が今俺に語りかけてくる。これはそれと変わらないだろうと。

 お前たちエネミーが学習するように、俺たちプレイヤーも学ぶ。もう俺の目はお前に追いついたぜ。

 これまでギリギリで回避をしていたヤツの攻撃も、余裕を持って対応ができるようになってきた。いまだ初見の行動や、さっきのような初見でかつ発生も早いものはどうしようもないが、それすらも見えるようにはなった。

 要は慣れれば問題ない。ステータス制ゆえそれが1ダメージであろうと通るのであれば、

 さっきからカスダメかどうかはわからないが、俺の攻撃もダメージエフェクトが発生しているのだ。


「ステータスだけが正義じゃねえんだ」


 そもそもステータスが全てなら、どうあがいてもプレイヤーはボスには勝てないだろう。

 そんなステータス差を、スキルやアイテムや装備、そしてプレイヤースキルで切り抜けるのが俺たちプレイヤーだ。強さを語る指標ではあるが、フルダイブゆえ、いやフルダイブだからこそよりそれは絶対なものではない。

 これはPvPでも言えることだ。と言うよりもPvPでこそより培われるものだろう。

 俺がそれをお前に教えてやる。


「こっからはギア上げていくぞ!」


 まあ、俺が追いつくためなんだがな!

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