第27話 其は闇より来たり 3
一つは状態付与の即死。
これは自身の状態欄に死の状態が付与されることで起こる即死だ。高レベルエリアに出現するアンデッドモンスターや、一部の特殊エネミーがスキルなどで行なってくるらしい。
こちらはスキルやアイテムなどで確率を下げる、そもそも判定を回避するなどの対策を行える。
そしてもう一つは生物的な死を迎える攻撃による即死。
これは非常に簡単だ。人間は首を切れば死ぬ。頭を失えば死ぬ。心臓が破裂すれば死ぬ。その現象を物理的に起こす事ができる攻撃によって起きる即死である。
こちらは厄介なことにスキルなどではなく、純粋な力技によるものであるために対策は難しい。かといってVITなどを上げてもVIT貫通などの条件がある場合が多いので、ステータスによる対策も難しい。
ただ一つ、大きな特徴がある。そしてそれこそが対策につながる鍵だ。
それは、
「狙いがめちゃくちゃわかりやすいってことだ!」
『ダッジステップ』で身を躱し、胸元を掠める伸ばされた右腕を見送りながら、夜色の人型へと肉薄する。
例えば今戦ってる闇は伸縮する腕を用いて胸を狙った刺突を行なってくる。攻撃の発動自体は速いものの、距離があれば俺のAGIでも充分反応可能なものだ。予備動作がほぼないので通常攻撃との判別がつけ辛いが、反面発動後の腕の巻き戻しの時間が長くこれが攻撃チャンスとなるのだ。
がら空きの胴体に『スラッシュ』と『パワースラッシュ』を放つ。ワイバーンとの戦いの最中に知ったことだが、同系統のスキルには動きを連続させる事が可能なものがある。スキルコンボと呼ばれるシステムのようだが、そのコンボには様々な恩恵がある。
例えばこの『スラッシュ』と『パワースラッシュ』の場合、『スラッシュ』の袈裟斬りからの『パワースラッシュ』につながるためか後者のモーションが斬り上げモーションになり、消費スタミナが減少する。
他にも色々な組み合わせがあるようだが、生憎スキルが少ないのとそんな時間がなかったのでほかのコンボは二種類の『掌底』しか知らない。コンボは発見することで初めて使えるようになるのだ。
スキルの伴った二連撃が闇に二条のダメージエフェクトを刻むが、そのダメージは非常に少ない。
左手を鞭のようにしならせ叩きつけてきたので、それを身をかがめて回避する。未だ腕は戻りきっていないため、無理な体勢の攻撃は非常に躱しやすい。
「撃ちます!」
「ほい来た!」
鵺さんの声に応え、軽いステップで闇から距離を取る。
腕が絡まったような変な体勢をしている奴に、鵺さんの放った魔法が向かう。火の鳥と氷の鳥がくるくると絡み合うように闇へと飛翔し、二羽同時に闇へと激突した。
正直言ってめちゃくちゃかっこいい。
爆発が起こり、白煙が巻き起こる。これで倒せるなんてハナから思っちゃいないが、それなりに痛手くらいは追って欲しいものだ。
どうやらそう甘くはないらしい。
「どぅわ⁉︎ っぶねー!あっちょ!がぁっ⁉︎ 」
白煙の中から分裂する黒い腕が俺と鵺さんへと殺到する。
ここでレベル差が出たのか、鵺さんは被弾しなかったが、俺は分裂した腕のうちの一本をまともに食らって吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか⁉︎ 」
「大丈夫大丈夫!」
「回復飛ばします!」
正直言って大丈夫ではない。HPが四割も削られていやがる。『竜息吹』のリジェネ効果で回復が始まっているがかなり危ないな。
あ、クソ!こいつ吹き飛んだやつを優先的に狙う悪辣なAIしてやがる!畜生!
回避してヒーヒー言いながら走っている俺は、鵺さんの回復魔法によりHPが全回復した。回復も攻撃も一人でこなせる万能鵺さんは、正直言ってかなり頼りになる。お荷物の俺が悲しくなってくるね。
オイオイアリーくん、寄生ですかぁ?
「だぁー!クソ!これも全部アイダのせいだな!」
聞けばトゥーリの街での追いかけっこはただの気まぐれだったらしい。御転婆の設定そのまますぎだろ畜生!
「いつまでもおんぶに抱っこじゃいられねえ!」
攻撃を回避しながら気合を入れて突撃する。
スライディングで攻撃を潜り抜け、振り下ろされた腕を剣で防ぎ、ヤツの足を蹴り飛ばす。そのままゴブリンからドロップしたボロ布を足に引っ掛けてやった。
布を引っ張りながらヤツの背後へと滑り抜ける。
「転けろや!」
ブチブチィ!と音を立ててボロ布が破れてしまった。悲しい。一銭にもならないアイテムであったが、『アーズィン平野』からのお供なのだ。まあそれはいい。
俺に気を取られたままのヤツは、ここにもう一人敵がいることを完全に忘れているらしい。
顔がないのに視線が感じるのはどこか不気味だが、誰に注意が行っているかすぐにわかってこれはこれでありがたい。
「我が祈りは我が道のため!今ここに活路を切り開く力を!」
詠唱だろうか?何かを叫びながら鵺さんが闇の横っ面を殴りつけた。
これまで一歩も最初の地点から動かなかった闇が、初めて脚を動かした。殴り飛ばされた勢いで数歩たじろぐ。
「へ、不動の構えは終わりだぜ」
「クリティカル、入りました」
ていうかさっきの何?今までに見たことのない威力だったしめちゃくちゃ気になるんだが。あれも神聖系統で覚えるスキルなのだろうか。
「それは、外なる闇、世界を喰らう者、あなた方の産みの親」
「……なんだって?」
「やはり、ですか……」
唐突に祈りを捧げる女性がめちゃくちゃ気になる事を言い出した。というか鵺さん、やはりとはどういうことだ?
アイダを側へと呼び寄せ、彼女に何かを囁きともに祈っていた彼女だったが、急に口を挟んできた事が気になる。なんかこう、ボスが強化される時に語りが急に入るかのような。
そうだな、気になることと言えばもう一つある。
さっきまで項垂れたような体勢で微動だにしなかった
あ、なんか頭の一部がぱっくり裂けて……。
「……U、guaaaAAAAAA!」
「ソレは学びます。どうか、気をつけて」
再び祈りを捧げる女性がそう言ったと同時。
「危ない!」
「へ?」
爆発的な勢いで飛び出した世界を喰らう者が俺へと飛びかかってきた。
かなりの早さに一瞬見失ったが、どうやら俺が大好きらしい。自分から俺に飛び込んできてくれた。
「このっくそ!はなせ!」
しかし冗談を言っている場合ではない。ヤツは俺を掴み、飛びかかった勢いそのまま俺を壁に叩きつけようとしているのか未だ止まる気配がない。
なんとか逃れようともがいてみるが、ヤツのSTRは相当なようでうんともすんとも言わない。
チラリと背中を振り返るとすでに壁が目前に迫り───
パーティーが戦闘中のため、デスペナルティを回避しました。デスペナルティは戦闘後付与されます。
ペナルティ蓄積:1
「ぶはぁ⁉︎ 」
意識が一瞬暗転し、再び光が戻る。ここは……。
「避けて!」
「ハッ⁉︎」
咄嗟に横に飛び退くと、先程までいた場所を暴風のように世界を喰らう者が通り抜けていった。今のは危なかった。
というか、俺は死んだはず……あ、まさか!
「パーティーメンバーの側にリスポーンてそのままかよ!」
鵺さんと俺を同時に狙った伸縮腕の攻撃を回避して、思わず悪態をつく。
何がぶっ壊れだ!数時間前の俺をぶん殴ってやりたい気分だ。
パーティーメンバーが戦闘中ならその側にリスポーンしたって危ないだけだろ!デスペナが無いことだけが救いだ。
「蓄積とか書いてるから後が怖いけどな!」
腕が戻ることも待たずにヤツは飛びかかってくる。
だが、腕が伸びている間は動きが鈍るようで充分追える速さだ。先ほどよりも重くなった攻撃をいなし、なるべく隙ができるように誘導する。
鵺さんはその隙を見て攻撃を仕掛けてくれている。ヤツのヘイトはどういうわけか俺にばかり向くので、俺がなんとかできていれば火力は任せられる。
「てか、テメェ、攻撃の仕方鵺さんに似てるな⁉︎ 」
「飛びかかりはアリーさんみたいでした」
畜生、学ぶって俺たちからかよ!ログ取得か⁉︎
どうやら、ここからが本番、第二ラウンドのようだ。
特殊称号『死の超越者』を獲得しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます