第23話 拳と奇跡の巡礼者
「あ、あの、お怪我とかはないですか……?」
鵺さんが俺に恐る恐るといった様子で尋ねた。感情に合わせてか狐耳がふにゃりとなっているのが妙に可愛い。なんかこう純粋で毒気が抜かれるような思いだ。
「いや、大丈夫ですよ。鵺さんみたいな強い人がシナリオ踏んでたみたいで安心しました。一人じゃないかって不安だったので」
「い、いえ、そんな!本当は全部終わらせてから合流するはずだったんです!トレインみたいになっちゃって本当にすみません……」
律儀に何度も謝る鵺さんをとりあえず落ち着かせる。その間にアイコンタクトでアイダに他にもいるのか確認を取ったが、どうやら俺と鵺さんの二人が攻略メンバーのようだ。かなり心強い戦力ではあるが、果たして彼女は実際どのくらい強いのだろうか。
「いつまでもそうやっとらんで鵺もアリーも自己紹介でもしたらどうじゃ」
アイダが気を利かせてくれたのかそんな事言ってくれたのでそれに乗ることにしよう。
「俺はアリー、とりあえずジョブは騎士でやってる」
「騎士……ですか?」
そんな目で見ないでくれ……。もはや俺の革鎧は残骸しかないんだよ……。インナー丸見えとか気にしても仕方ないんだ……。
「確かにおヌシ、よく見ればまともなもの来とらんな!こりゃ傑作じゃ!ワハハハハ」
笑い事じゃないんだけどな。もうなんかわりと何とでもなるような気もしてきたので、もうそこは諦めた。それはそれとして今まで気づかずに俺を振り回してくれやがったのかこの野郎。
「せめて出発前に気づいて欲しかったなって」
「すまんすまん、それでも戦えておったし気づかなんだ。ほれ、これでどうじゃ」
「なっ⁉︎ 」
「竜の涙は……奇跡の滴……」
笑い過ぎて出た涙を指で拭ったアイダは、その濡れた指を俺の鎧にすっと這わせる。するとみるみるうちに鎧が修復され、買った時の新品同様の姿になった。
あわてて装備欄を確認するが、確かに耐久値が最大になっている。それに、なにかエンチャントもされているらしい。
エンチャント『竜息吹:生』"HP自動回復中量"
「生の『竜息吹』じゃ。その鎧はアリーを護り、生きる力を授けるぞ。生はワシにしか使えんから、光栄に思うがいい」
「いや、まじですげぇな……」
改めて竜の力の凄さを実感させられる。竜、ドラゴン、ファンタジーでは善の姿でも悪の姿でも描かれる彼らは、どこにおいても超常の存在であることは間違いないようだ。
アイダは見た目は人でも中身は竜のようだし、ますます不思議な生き物である。俺も鵺さんも感心したようにアイダを見ていた。
「んん!で、次は鵺、おヌシじゃぞ」
アイダが恥ずかしそうに咳払いし、鵺さんを促す。
「あ、そうですね。改めまして、私は鵺です。ジョブは……えと、すみません……今はその言えません。ですが神聖系統は一通り修めました。
メインジョブを明かせないとは、もしやオンリーワン要素でもお持ちでいらっしゃる?ますます全部任せていい説まであるが。
とりあえずこれから一緒に行動する者としてパーティの申請を行った。素早く受理され、ステータスを確認してみたが、職業欄には高位司祭と書かれている。これは、一部ジョブは秘匿できるということだろうか。
ん?あれ?
「あ、その、わけあって今の私はレベルが41しかないので、そこまで火力は見込めないです」
おっと?
これはボスのアレにもよるが、苦戦ルートだな?俺もしっかり働かないといけないらしい。世界はニートに厳しいようだ。世知辛いね。
ただ装備やアクセサリーの関係かHPはかなり高い。タフさはありそうだ。
「でもスケルトン系を見るに41の鵺さんや30の俺でも軽く倒せるし、ボスのレベルも低いのかな?」
「あの、あまり楽観はできないかもしれません」
「ほうそりゃなんで」
なんでも、高位司祭のスキルに『アナライズ』があるらしく、それで敵のレベルを知ることができるらしい。それで解析した結果、スケルトンワイバーンのレベルは65だったらしい。高すぎる。雑魚スケルトンでも40前後。
「でも、おそらくは通常のエネミーと違ってVITとHPが非常に低いと思います」
流石にレベル65のスケルトンワイバーンを、レベル41が火力スキルとはいえ一撃で倒すというのは異常だそうだ。神聖系統スキルによる特攻や、打撃に弱いとはいえ不自然すぎるらしい。
「出現数が理由かねえ」
敵の数があまりにも多すぎる。一体一体にかけられる時間はそう多くないのだ。そうだと思いますと鵺さんも同意してくれた。
「でも、突然来なくなりましたね。気配はあるんですけど……」
「それはワシの『祈祷』の効果じゃな。さっきアリーにもかけてやったでな」
ああ、なるほどといった様子で鵺さんがうなずく。おもむろに彼女も『祈祷』を使い、自分にバフをかける。
スキルのエフェクトが消えると同時、俺たちを取り囲むようにあったプレッシャーが消えた。どうやらスケルトン軍団がこちらの様子を窺っていたようだ。怖いねえ。
「ほれ、こんなところで風を数えとらんで、早よ行くぞ」
アイダが俺たちを促し、俺も鵺さんも歩き出す。相変わらず敵は出ないので安心安全、楽チンな旅だ。
「なあ、アイダ」
「なんじゃ」
「風を数えるってなに?」
さっきのアイダの言葉気になり、歩きながら尋ねてみる。戦闘がないので楽ではあるが、暇になるので話しながら進むしかない。
鵺さんも気になっていたようで、興味深そうにアイダの方を見ている。
「なんじゃ、知らんのか?大昔に仕事中に怠けとる門衛が言い訳に、「門を通る風を数えてる」とかなんとかいったのが始まりでな、それ以来仕事中に怠けたりやるべき事をやらんで
「なんだが油を売るみたいなことばですね」
「おヌシらの故郷の言葉か」
「そうですよ」
「言葉というものは面白いものじゃのう。同じ意味でも言い方が違っておる」
うむうむと楽しそうにうなずくアイダを見ながら、ネバエン
この世界を運営がどこまで作り込んでいるのか見てみたい。どっかの物好きクランとか研究したりしてないかな……。
「そういえばこれはどこに向かってるんですか?」
鵺さんが俺に尋ねた。
あれ、知らないでついてきていたのか。
「そっちはアイダになにも言われなかった感じです?俺の方はヒントみたいなの出されて、それで星のかけらを出したらって感じでしたけど」
俺はインベントリから星のかけらを取り出して見せてみる。夜色のオーラは相変わらず大聖堂らしき建物に向いており、心なしか石本体の振動が大きくなっているようだ。やはり、何かに近づいているのだろう。
「あ、ほんとだ。私すぐに合流を目指したのであまりそういう会話していませんでした」
「いいよいいよ。俺なんか一人だと思い込んでズンズン進んでましたし」
「まあ、合流できたしよかろうて」
お互い苦笑し合う。何も考えず突っ込んだ俺はスケルトンに足止めを喰らっていたし、そのおかげで鵺さんは簡単に俺に追いつけたのだ。アイダの言う通り結果オーライということで。
「わたしの星のかけらも同じようになってますね」
鵺さんも自分の星のかけらを取り出して確認している。
む?さらにかけらの振動が強くなったな。
「鵺さん、ちょっと」
「え?」
鵺さんを呼び寄せ、彼女の手の上にある星のかけらに、俺の星のかけらを近づけてみると合体し、少し大きくなった。
ビンゴだ。
「鵺さん、かけら後何個持ってる?」
「え?え?」
「多分、ボスギミックは星のかけらの数だよ」
目指す場所に星の石があるのか、それともかけらを求める何かがいるのかはわからないが、それを取り込んだボスがその数だけ強化されるといった具合のような気がする。
「あ、えーと、今はあと59個あります」
「う、うーん」
それって多いのだろうか?
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