第22話 骨の街

 さて問題です。ゴーストタウンに出ててくる敵とは一体なんでしょう?

 正解は───


「スケルトン、スケルトン、スケルトンスケルトンスケルトンスケルトン……だぁー!もう!何体目だ!」


「ワシが倒した分も含めて87体じゃな。ほれアリー、おかわりが3体きたぞ」


「ふざけてんのか⁉︎ スケルトンしかいねえじゃねえか!てかまだ真昼間だぞ!」


 スケルトンを蹴っ飛ばしてバラバラにしながら悪態をついているが、許してほしい。いい加減うんざりなのだ。

 街に入ってすぐから、次から次へとスケルトンが襲いかかってきて一向に足が進まない。物理防御がとことん弱いせいで下手に剣で切るより殴りつける方がダメージが出るのも悲しくなってくる。

 レベルも上がるし格闘スキルなんかも覚えてしまったからより効率化される始末だ。

 アイダはアイダでおそらく俺なんかよりもずっと強い。スキルエフェクトもない、俺が捉えることのできない速さの一撃でスケルトンを文字通り粉々にしていた。

 道中エネミーはスケルトン固定だとでもいうのか?アンデッド系エネミーはホラー要素の一つなんだから、夜とか暗いところに出てくれないと雰囲気もへったくれもない。

 明るい街を骨がカラカラケタケタガタガタ鳴らしながら闊歩しているのはもうなんか、ギャグだ。


「バリエーションは服か身長くらいしかないからマジで見飽きてきたな」


 まっすぐ、大聖堂を目指して大通りを進んでいるので後ろを振り返ると骨の絨毯が出来上がっている。ここだけの特殊仕様なのかは不明だが、スケルトンは撃破後もオブジェクトとして残るようだ。

 これだけ骨ばかりだというのはどうにも不自然なので理由を考えてみる。

 かつてはこの街に暮らしていた人々が、白骨化した後も動き回りよそ者を排斥している。

 結論出たな。


「おヌシ、だいぶとイライラしておるなあ」


「そりゃこんな作業じみた事をさせられてるとなあ」


 人間は同じ事を繰り返してやられるとだんだんとイライラしてくるものだ。

 戦い甲斐があったのもごく最初の数回のみで、弱点がわかり、俺が強くなり、バリエーションもないような状態では否応にも作業感が増す。まだレベルが上がるだけ有情なのだろうか。そろそろ30になっちゃうな。


「第一次レベルキャップが来ちまうぜぇ……」


「ほれほれ、またきたぞ」


 このキャップ開放以降からレベルが上がりにくくなるらしいが、同時に上位職も解除される。楽しみにはしていたのだが何か釈然としないものがある。


「ハァッ!」


 格闘スキル『掌底:破撃』を目の前にいたスケルトンの胸骨に叩き込む。文字通り破壊力のみを追求した掌底であり、効果としてはダメージ計算を二回行い、二回目のダメージ量に応じたノックバックが発生する。つまり、一撃で三度美味しい。

 しかもリキャストが極端に短いので連続で放つことも可能だ。ただしスタミナの消費も極端に多いので俺の今のスタミナでは三発目の発動後に疲労硬直が発生してしまう。

 『掌底:破撃』を受けたスケルトンがノックバックで吹き飛ぶのを見ながら、その横にいたスケルトンに今度は『掌底:波動』を放つ。

 こちらは破撃とは違い、ダメージ計算は一回でノックバックもないが、最低確率を10%としてダメージ量に応じた確率で相手に硬直効果を付与する。


「どっちも物理防御皆無なお前らには最適だよなぁ」


 吹っ飛んで行ったスケルトンはそのままHPが0になり、残ったスケルトンをスキルを使わない攻撃で削りきった。

 おっ、レベル30になったな。

 ひとまず喜んでおこう、わーい。


「まあ、アリーの苛立ちももっともじゃな。どれ、ここはワシが一肌脱いでやろう」


「何してくれるの?」


「まあ、見ておれ」


 アイダが胸の前で手を組んで膝を折り、祈りを捧げるような姿勢になる。目を閉じ何事をか口の中で小さく呟いた。


「おぉっ!」


 それと同時に、キラキラと輝く粒子が俺とアイダに降り注ぐ。


『祈祷:破邪』の効果を受けました。


 特殊状態の付与をする魔法のようだ。効果は低位のアンデッド系モンスターの出現率が極低になるというもの。また、出現したアンデッドへの全ステータス低下のデバフも付与されるようだ。


「これもやろうかの」


 今度はふぅ、と軽く吐息のような息を吹きかけられた。


『竜息吹:聖』の効果を受けました。


 こちらも状態付与系のようだが、効果は先ほどとは違う。全ての攻撃にアンデッド特攻の浄化作用が働くようになるらしい。アイダの一撃はこれがカラクリのようだ。


「これでかなり楽になるじゃろ」


「だろうな」


「おヌシ、最初からそうしてくれという顔をしとるな」


「うっ」


 だってさー、だってさー!


「まあ、おヌシがどれほど戦えるのか見てみたかったのじゃ」


 実力試験ですか。俺を選んだのアイダなんだけどな。でもあまり余計な事を言わないようにしよう。くだらない事で好感度をマイナスにするのは良くない。メタ的に言えばレベルを30にさせるため、というのもあっただろうし。


「のうアリーよ、という言葉を知っておるか?ん?」


「え、知らないけど……」


「瞳には口がないからちゃんと口を使え、という先人のありがたい言葉じゃ。胸に刻んでおけ」


「う、うっす……」


 ちょっとアイダさんの目が怖かった。


「では行くとするかの」


「そうだな。さっさと終わらせて帰ろう」


 戯れもほどほどに気を引き締めて歩き出す。

 しばらく進んでみたが、本当にスケルトンは出てこなくなった。先ほどまでの連続戦闘が嘘みたいにスイスイだ。

 これですこし余裕もできてきたので、アイダに聞いてみたかった事を聞いてみる。


「トゥーリの方はどうしてんの?たぶんアイダを探して大騒ぎなんじゃ」


「フフ、こういったときこそ可能性存在を使うのじゃよ」


「あっズリィ!」


 今頃柱にでも縛りつけられておるんじゃろうなぁとアイダが楽しそうに呟く。普段から何をしていれば竜巫女などという位の者が縛り付けられるようになるのか。若干呆れるが、誘拐犯として手配されるようなことは無さそうなのでよかった。


「ん?アイダは自分の可能性存在がどうなってるのかはわからないのか?」


「そうじゃな。ある程度の距離にればおぼろげに気配を辿ることもできるんじゃが」


「ふーん。それじゃあさ───」


 俺の声は、突如響いた爆発音と建物の崩壊する音に遮られた。思わず立ち止まって身構える。

 音の発生源はそれほど遠くない。今も断続的に戦闘音が聞こえてくる。かなり激しいようで、たびたび振動と共に大きな音が鳴っている。


「あのさ、聞くけど、この未開域にさ、居たりする?」


 爆発の衝撃で飛ばされてきたのかスケルトンの残骸が転がってきた。眼球のない頭蓋骨が暗い穴でこちらを見ているが、それを踏み潰す。

 アイダはニヤリと笑った。俺の主語のない質問を正確に理解しているようだ。


「きかれなかったからのぅ」


「性格悪いぞ!」


「クハハハ。安心せい、向こうから近づいて来ておるわ」


「安心できねえなあ⁉︎ 」


 こんな激しく戦ってんのがこっちに突っ込んでくるってのか。勘弁してくれ。

 もうすぐそばまで来ているようで、一つ向こうの通りのようだ。覚悟を決めるしかない。

 久しく使っていなかった剣を握りしめると同時、一つの影が屋根から飛んできた。ふわりとローブの裾をはためかせ、俺のすぐ前に着地する。

 プレイヤー名は鵺。黒銀の艶やかな髪、狐のように高く尖った耳、ローブ内に隠されているが臀部にふくらみが見えるので尻尾もあるだろう。

 金色の瞳をこちらへちらりと向け、驚いたように目を見開いた。俺をしっているようだが、生憎俺には心当たりがない。

 彼女に続くようにその横へとアイダが降り立つ。特徴的な装束を優雅にはためかせて着地するのは妙に様になっていた。

 そして最後は彼女たちが戦っていた相手のようだ。スケルトンワイバーンが三体。MPKを狙っての事なら数が少ないが、そうではない。鵺という名の狐の獣人プレイヤーが飛び上がり、一体のスケルトンワイバーンの上から拳を叩きつけた。


「うわ、すげぇ」


 なんらかのスキルなのだろう、拳が触れると同時に爆発し、スケルトンワイバーンは地面に叩きつけられ粉砕される。

 爆発の反動でさらに飛び上がった彼女はインベントリから杖を取り出す。そして詠唱を行わず二つの岩を出現させ、残り二体のスケルトンワイバーンもそれで倒してしまった。

 この手際なら、最初は彼女はもっと多くのワイバーンに襲われていたのではないか……?最初のようなスケルトンの波を思い出し、もしかしてそれはただ俺よりもレベルが高いからという理由で全ての強いエネミーが流れたのではないのかと思い至り、冷や汗が流れる。


「あ、あの……」


「は、あっ、ハイ!」


「お、オツヨイッスネ……」


「あ、ありがとうございます」


「……」


「……」


「何をしとるんじゃおヌシらは」


 いつのまにか一人になっていたアイダに呆れられた。

 しょーがないだろ。だってこれ、俺いらなさそうじゃん。

 ねえ?



称号『粉骨砕身』を獲得しました。

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