第21話 責任重大
最初のボスだなんだとオーガに舐めプかましてやられかけたり、金がないからケチってポーション買わなかったり。そんな数々のやらかしを乗り越えて今の俺がある。
そのはずなんだよな。
「ッスゥー……おかしいな?俺今ポーションも防具もないぞ」
オワタ式とかいうやつか、これは⁉︎ 俺はそもそもそんなに運が悪い人間じゃなかった気もするんだが⁉︎ なんだ、何がいけないんだ⁉︎ 『Newvision』当選に全てを使ったのか⁉︎
おおおおおお!
「後ろでゆさゆさ騒がしいやつじゃの。なんじゃ全く」
「運命とやらをどうすれば殴り飛ばせるのか考えてんだ」
「なんじゃそれは」
「金があっても使えなきゃ悲しいねって話だよ」
ますます訳がわからないって顔してるな。俺も全然わかんねえ。
今俺が持ってる使えるものって武器とスキルと竜の涙しかないぞ。竜の涙はHPが1さえあれば全回復する優れものだ。うれしいね。
武器は武器で耐久値に不安はあるものの、そもそもかなり頑丈な武器みたいなので大丈夫……だと思いたい。そもそもこれが無くなったら初期装備の短剣かゴブリン武器くらいしか無くなってしまうんだが。
「フッ……これが詰みというやつか」
「何を言っとるのか知らんがホレ、これをおヌシにやる」
「なんだこれ」
「星の石を削り出したアクセサリーじゃ」
なになに……。
『星石の贈り物
"装備時パーティメンバーのもとにリスポーンする:残り回数5"
星の石から作られたネックレス。これは星人への贈り物』
なんだこれぶっ壊れか?フレーバーテキスト的にはNPCから貰えるものっぽいが。
「その石が砕けぬうちはなんとでもなるじゃろう」
『NPC 竜巫女のアイダからパーティ申請が届いています。受理しますか?』
答えはもちろんYESだ。早速アクセサリーも装備しておこう。
でもこれが渡されるって事はリスポーン前提という事でよろしいか?うーんやっぱり詰みか!
ていうか今何時だ?うわ、3時過ぎてる。色々とイベントの連続だったもんな。そろそろ本格的に眠い。意識飛びそう。
「アイダ、ちょっと寝てもいい?」
「まだしばらくかかるから構わんが、起きた時に驚いて落ちんようにな」
流石にそんなヘマはしない。たぶん。
とりあえずもう限界なのでメニュー欄を操作してログアウトを選択する。あれ、そういやログイン地点はどうなるんだ。
「おヌシらのちょっと寝るはいつ起きるかわかったものではないがな」
ボヤけた頭にそんなアイダの呟きが聞こえてきたが、何か返事をする前に景色は暗転した。
昼過ぎに目を覚ましたのでブランチとは名ばかり、がっつりと昼飯を食べ、『Newvision』を起動する。
そろそろこの真っ白空間をなんとかしたいなーと思いながらネバエンを起動すると、砂浜に寝そべっていた。日は高く上っている。
「まぶし……実は盛大な夢でしたパターン?」
「ん、起きたか。もうついたし昼も過ぎとるぞ」
「現実でござったか」
てことは装備もインベントリもこんな状態か。というかなんか変な事にもなってるし。とりあえず携帯食料で空腹値を回復しながら、状況を整理だな。
アイダに連れられ、良くわからないところに来ました!装備もアイテムもまともではありません!以上!
ギルドにいる訳じゃないから掲示板も使えないしマジでどうしよう。
「というかまずここどこだ」
俺はかなり冷静さを欠いているらしい。これは最初に出る疑問ではないか?周囲を見回すと正面に海、背後に街が見えた。今いる場所はさっきも言った通り砂浜だ。
冒険者証のマップには……『未開域:アーズィン』となっている。
「えっ、アーズィン?」
「アーズィンじゃと?ここは未開域のはずじゃが」
「あ、そうか。未知の場所って言ってたよな。でも確かにアーズィンって書いてあるな……」
どういうことだ、これは。未開域であるはずなのにアーズィンとは。
未開域とは、冒険者が誰も到達していないエリアのはずだ。ということはこの場所には誰も来たことがないはずである。にもかかわらず、マップは表示されているしアーズィンの名前すら判明している。
この矛盾はイベントを進めれば何かわかるんだろうか。
「今考えても仕方ないか」
「そうじゃな。女神様を探さねばならぬし、歩きながらここに来た理由を話そうかの」
そう言ってアイダは街の方へと歩き出す。
そういえば女神様を探すとか言ってたが、そもそもアイダはなんで未開域であるはずのここの場所を知っているんだ。
立ち上がってアイダの後を追う。
「ワシに予知の力がある事は話したかのう」
「いや、聞いてないな」
知ってはいたけれどと心の中で付け足す。それを確認するという事は知らない者の方が多いという事だ。
「知らんのか。無学な奴め」
違ったようだ。聞いてないって言っただけですぅ〜知ってましたぁとは口に出せないので心の中に留めておく。
「まあよい。ワシの見る未来はおぼろげで不確定じゃが、見えたものにはできるだけ従うようにしておるのじゃ」
「その未来に俺が見えたと」
「いや、おヌシではない」
違うのかよ。じゃあ俺じゃない方がいいんじゃないかな。装備ボロボロだしもっと適任なのがいると思う。
「誰でもない誰か、星の輝きを持つものが、ここでワシを女神様の元へと導く。そういう未来じゃ。おヌシを選んだのは面白いと思ったからじゃよ」
おっと、何が巫女様のお眼鏡にかなったのかはわからないが光栄な事だ。素直にうれしい。
「ありがとうアイダ」
「ふん、礼はいらん。ワシの見た未来を確定させるのがおヌシの仕事じゃ」
冷静に考えると、俺なんかは未来予知ができるような重要NPCが頼る相手ではない気がするが、それは一旦置いておくとして、ライブで進行する世界の未来予知とはなんだろうか。
このゲームはあらかじめ決められた進行をなぞるものではない。未来に起きる事は決まっていないはずだ。
何がその未来をアイダに見せる?AIによる行動予測だろうか?アイダの望みに合致する行動をとりそうなプレイヤーが俺だったのか?まだ初めて数時間しかプレイしてないのだが、その少ないログから俺が選定されたのか?
何にしてもアイダは確定していないと言った。という事は俺の行動次第ではアイダの望まない結末を迎える可能性もある。
女神も関わってくるようだし、プレイヤーの未来も背負っていそうで責任はかなり重大だ。
「重圧だが、まあなるようにはなるだろ」
俺がとちってデスゲームとかになったらその時はまあ、誰か介錯してくれ……。
「あまり気楽に構えられても困り物じゃがな」
アイダの苦笑はどこか楽しそうだ。どうやら俺は信頼されているらしい。なんだよ……チクショウ……マジでふざけてられないな。
「ところでおヌシ、ここに来て何か変化はないか?」
「変化、変化ねえ」
それなら、ある。さっきは目を逸らしたが、インベントリ内でこれでもかと存在をアピールしているアイテムがあった。
これが関わってくるという事は、女神なんていう現状ただのフレーバーでしかないものよりもよっぽど俺に説得力と実感と責任感を与える。
「星のかけら」
「ふむ、なんじゃ、どこかに呼び寄せられているかのようじゃな」
インベントリから取り出した星のかけらは、拳より少し小さい程度の石だ。それは星喰いと同じ夜色のオーラを漂わせ、カタカタと掌の上で小刻みに震えている。そのオーラはアイダの言う通り、何かに吸い寄せられているかのように同じ方向へと揺らめいていた。
「街の中みたいだな」
街の方を見ると、街の中央に向かってなだらかな丘になっており、その頂上にはアーズィンで見た大聖堂のような建物がみえる。こういうところは本当にアーズィンにそっくりだ。
俺とアイダはお互い頷き、星のかけらを呼び寄せる何かに向かって『未開域:アーズィン』の街へと足を踏み入れた。
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