第20話 考える人々

「お、たんたかさんも戻ってきたか」


「ただいま。他にも戻ってきてるみたいだね」


 バインダー4と表示されたプレイヤーが、竜巫女を伴ってやってきたプレイヤーに声をかけた。

 TanTakaTanTanが戻ってきた星人ギルド前の広場には、人だかりというにはいささか規模が大き過ぎる集団がいた。武装した者や楽器を持った者も混じり、混沌としている。

 その中心に居るのは竜巫女のアイダだ。

 従者に詰め寄られ、うんざりした様子でそれに返事をしている。それがますます従者の怒りに油を注いでいるようだ。


「おー、ワシが怒られとるなぁ」


「自業自得ですよ」


 他人事のような感想を言う、自分の隣に立つアイダにTanTakaTanTanは呆れた様子で返した。

 竜の里の人々、一般の人々、プレイヤーと集団は大きく分かれているが、プレイヤー中心でありながらその中でもさらに別のグループと認識されているのが彼らだ。それもそのはずで、そのグループは皆一様にアイダに連れられて戻ってきたものたちだからだ。プレイヤーたちを連れてきたアイダの姿は、最後の一人を除いてすでに消えている。

 逆にアイダを連れて戻ってきた者はいない。


「というかこれ、僕が最後なのかい?」


「あー、たぶんそうですね」


「そっか」


 TanTakaTanTanは一団を見回し、と首を傾げたが、そばにいたアイダが口を開いたため一旦そちらへと意識を向けた。

 他のプレイヤーたちの視線も自然と彼女に向けられる。一部最初から注がれていた熱のある視線もあるようだが。


「おヌシらにはワシの戯れに付きうてもろうて悪かったのぅ。これは褒美じゃ、受け取ってくれ」


「竜鱗粉か。うれしいね」


 追いかけっこの参加者全員に、イベントシナリオ『竜巫女の鬼ごっこ』が終了しましたとログが表示され、報酬がシステム的に配布される。ザワザワと、プレイヤー達は口々に話し合いながら一喜一憂していた。途中で追いかけることを断念したり、参加資格はあったものの最初から追いかけなかった者はアイテム報酬を得られなかったようだ。

 パーティメンバー全員の回復を行う事ができる竜鱗粉はそれなりにレアなアイテムだ。ただ追いかけただけでこれが貰えるというのは、さすが竜の里と言ったところかなどとTanTakaTanTanは分析する。

 報酬の配布が終了した為か竜巫女アイダはくるりと振り返り、仕事は終えたと言わんばかりに振り返ることなくが怒られている方へと歩いていった。それを皮切りにプレイヤー達も解散していく。

 彼女の背中に視線を向けるTanTakaTanTanを不思議に思いながら、バインダー4は声をかけた。


「たんたかさんなんか気になることでも」


「あー、いや、追いかけっこの途中色々試したのは話したよね」


「聞きながら書き込めることは書き込みましたからね。いやーすごいっすね。外部のメッセージアプリを走りながら思考入力するの大変でしたでしょ」


「まあそういうのは得意なんだよ、僕は。それに走ってたのはボクだけじゃないでしょ」


「お陰でギルド内に座ってるだけで良かったです」


「あはは、まあ基本的に考える側の人間が多いからね。僕みたいに足を動かす派ももっといてくれたらありがたいんだけど」


「実働部隊ってやつですか、いいですね。自分も新しく作って参加しようかな」


「またサブ垢かい?キミもモノ好きだね」


「まだ4つ目ですよ。試したい事もありますし」


 やれやれと呆れた声でTanTakaTanTanは首を振る。四つの全く同じ顔を頭の中に思い浮かべながら、ここにもう一つ増えるのかもしれないのかと嘆息した。

 バインダー4は既に次に取るジョブの組み合わせについて思考を巡らせている。


「話が逸れちゃったね。話を戻すけど、色々試している時に一人のプレイヤーに会ってね」


 TanTakaTanTanは情報共有板や、考察板をメインに活動するクランのメンバーだ。断片的に得られる情報から、その全容を解き明かそうとする者たちの仲間である。

 だからといって彼らは、情報が来る事を雛鳥のように待つ事をよしとしている訳ではない。現実ではなくゲーム故に、現地調査が難しいという面も多く存在しているが、それでもTanTakaTanTanのように自分の足と行動で情報を得る者もいる。

 そんな彼らは竜巫女アイダを追いかけながら一通りできる事を試してみたのだ。

 わざと道を間違えてみたり、他に見えた竜巫女の方を追ってみたりなど。たまたま足を踏み外してアイダを見失った者もいたが、それすらも情報の一つになった。

 TanTakaTanTanはそれらから得た情報と、自分の持つ情報より一つの結論を出した。


 竜巫女アイダはプレイヤーの選定を行なっている。


「居ないんだよね」


「誰がっすか」


「そのプレイヤーだよ。追いかけている時に出会った彼がいない。名前はアリー、だったはずだ」


 見るからにボロボロの装備と、必死の形相から彼のレベルはそれほど高くないとTanTakaTanTanは判断している。そんな人間が報酬の誘いを断るような天邪鬼ではないだろうというのはTanTakaTanTanの直感的なものでしかない。


「しかし」


 思えば、この追いかけっこの終わり方も不自然だった。アリーと別れてしばらくの後、急にアイダが立ち止まったかと思うとやめだと宣言し、礼をするからついてこいとだけ言って歩き始めたのだ。

 バインダー4はぶつぶつと思考にふけるTanTakaTanTanにどう声をかけようかとまごつく。あまり思考を遮るのは良くない。


「ん?」


「お」


 そんな二人が同時に声を上げる。彼らのクランが使用しているゲーム外部のチャットアプリに通知があったのだ。竜の里に入り浸っている者からの情報である。

 曰く、竜巫女は里を発つ前に一つの予知をしていたとの事。内容は要約すると、「誰も知らない地に隠された何かを、海の街に現れる星の輝きを持つ者が示す」というもの。

 この情報を得る為に竜酒を四つも使ったからMの補填をしてくれといった泣言を二人は無視した。


「ふーむ、今回の巫女の行動は予知が原因か?」


「という事は僕の予想通り、プレイヤーの選定なのかな」


「さっき言っていたアリー?が別ルートを踏んだ、と?」


「その可能性は高いと思うよ」


 まあ、参加した全プレイヤーを把握しているわけじゃないんだけれどと心の中でTanTakaTanTanは再び思案する。

 バインダー4も含めて彼らは、他のクランも焚きつけてまで今回のイベントになんらかの現状打破に繋がる要素を求めてやってきた。他にもいくつかそれに繋がりそうな情報が掲示板に書き込まれているが、ここでの事ではない。

 ここまで大きなイベントでありながら、フラグを踏む事ができたものが推定一人であり、かつそれが自分達の関係ないところで進むと知った彼らはどう思うだろうか。

 彼らの中には教会とこじれている現状に不満を抱いている者もいる。そんな彼らのフラストレーションが向かう方向はおのずとわかるというものだ。

 仮にも他の特殊シナリオは高レベルプレイヤーが自発しているようであるのだが。


「これはまずい事になるかなあ」


「しばらくは俺たちで黙っとく方が良さげっすね」


 同じ結論に到達していたバインダー4も頷く。

 どこで情報が漏れるのかはわからないのだ。

 例えば、彼らから少し離れたところで偶然考察プレイヤーが話しているのを見かけ、獣人のプレイヤーだとか。


「面白いこと聞いちゃったねぇ」

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