第16話 厄介ごとは向こうから2
「ハァッ……ハァッ……ダァ、くそ!テメェ硬すぎなんだよ」
スタミナが底を突き掛けたが、なんとか右翼膜の破壊に成功し、呼吸を整える。
ズタボロになった星喰いの右翼はみるも無残であり、これでヤツを地上に縫い付ける事ができるはずだ。ここはゲーム的処理なのは少し悲しいが、そもそも翼を閉じてたら翼幕をちゃんと攻撃できないし妥協といった感じだろう。
星喰いは星喰いで右翼破壊の影響か激しく動く事はせず、低い唸り声を上げながらこちらの様子を伺うように睨みつけていた。
「こっから第二ラウンドだ」
「カロロロ……」
改めて武器を構え、とっくに効果時間もリキャストも終了していた『精神統一』を再び使用する。気持ちが落ち着くような錯覚を噛みしめながら、一歩踏み込む。
それに反応するかのように星喰いの脚に力が込められた。ヤツの身体を支える筋肉が動きを見せる。
上か、横か、それとも。
「正面か!」
グッと前につんのめるように動き出したヤツの体を見て、その突進の経路から外れるように身体を動かす。
へっ、側面は貰っ待て!ヤツが身体を捻って───
「がぁッ⁉︎」
思い切り弾き飛ばされた。通り過ぎざまの星喰いの顔は、錯覚かもしれないがしてやったりといったような表情を浮かべていた。
クソ!何が起きた。
「まさか、右翼か!」
「ガァアッ!」
嘲笑うかのように吹き飛ばされた俺への追撃を仕掛ける星喰いをいなしながら、少し距離を取る。
どうやらヤツは破壊された右翼を武器として使うように決めたらしい。先ほどまでは取ってこなかった行動のせいで反応が遅れた。
死に瀕して行動を変えるエネミーはたくさんいるが、ヤツのアレはそういう定められたものよりももっとお行儀が悪い。
なるほど、そうまでして生き足掻くか!面白い!
「まだまだこのゲームを舐めていたって感じだな」
星喰いのもはや決死とも見える攻撃を躱しながら、自然と笑みが浮かぶ。血が滾る。
これこそ、こんな熱くなる戦いこそ、俺がゲームに求めるもの、非日常だ。
お前が死力を振り絞るなら、俺だって出し惜しみはなしにしよう。ちょっと早いが第三ラウンドだ。ゴングは鳴らないぜ。
ああ、そうだ。ゲームは面白い。現実にはないことを体感させてくれるし、そして何より成長が実感できる。
「初のお目見えだ。俺の成長を味わえた喜びで昇天してくれよな!」
戦いの最中、星喰いは痛めた右翼でありながら、跳躍や短時間の飛行をもって俺の攻撃を回避した。その時何度思ったことか。
あそこまで攻撃が届けば。
どうやら
使い勝手の程がわからないものをこんな厳しい戦いの中で出すのは博打でもあるが、この戦いは俺の命をベッドしてでも楽しむ価値がある!
まあ、リスポーンはするんだが。
スキル『遮那王跳躍』を発動。後で調べたことだが、遮那王とはかの有名な牛若丸が鞍馬寺で名乗っていた名前らしい。このスキルの効果は彼の逸話にちなみ、跳躍力を飛躍的に向上させること。
その効果で俺は高く飛び上がり、眼下に星喰いを見下ろす。
フフ、どうやら混乱しているようだな。何しろ俺は地上にいるお前の頭上にいるんだから。そういうところも生物らしさがあっていい。
「このままくたばってくれよ」
着地時のダメージが不安だからさ。
空中で武器を構える。踏ん張りが効かないので少し威力は下がるだろうが、そこはSTRでなんとかするとしよう。
スキルを発動し剣を振り抜く。剣が何もない空を切り裂くがその瞬間、剣の軌跡そのままの銀光が放たれた。
『月光斬り』
効果はシンプルに斬撃を飛ばすこと。その威力は振り抜かれた剣の速さに比例する。夜間に覚えたから『月光斬り』なのかはわからないが、今、この場に欲しかったスキルなのは確かだ。
こちらを見上げ間抜け面を晒していた星喰いの口に銀光が飛び込み、それが決定打となって断末魔と共についに星喰いの身体が地に伏せる。そのまま溶けるように身体は消え、その場には数個のアイテムが残されているのが見えた。
さて、どうするか。
すでに身体は落下を始めている。これはもう覚悟を決めるしかない。ここまできてリスポーンはやめてほしいが、満足感はかなりあるのでまあ……いや、後で絶対後悔するぞ。かなりの高さまで飛び上がったが果たして。
結果はカスダメだった。スキルによる自傷ダメージ判定なのか反動ダメージなのか計算はよくわからないが、とりあえず少なかったのでよしとする。
「ふぅー、疲れたぁ……」
その場に座り込み、息を吐き出す。時間経過でもHPは回復するので、その回復効果に期待しつつステータスを確認する。レベルは2も上がって24になり、すでにボスの推奨レベルには到達した。あれだけ苦労したので2もレベルが上がったのは素直に嬉しい。
まあオーガのことも鑑みてあげられるところまでは上げようとは思うが。
スキルも行動参照以外に、職種依存のものも増えたので大満足の戦果だ。
「ドロップはっと」
確定報酬の星のかけらをとりあえずインベントリに放り込む。厄介ごとの種かもしれないが、それはそれとしてもらえるものはもらっておく。それがゲーマーってものだ。ちがうかな?
「あとは牙、鱗、爪……翼膜は部位破壊報酬とかかな?」
とりあえずまだこの地域では出ないであろう素材を入手できたのでこれは嬉しい。素材の名前を見る限り、あれはワイバーンで間違いないようだ。
これだけの素材で何かできるのかは不明だが、持っていて損はない。
「いやー、オーガから一日しか経ってないのに、またもやってくれるなこのゲームは」
本当にこのゲームをやってよかったと思える。
今までもこれからもたくさんのゲームを楽しむつもりだが、これほどまでに楽しいものは今までにはなかったし、これからも現れるかはわからない。本当に素晴らしい体験をさせてもらっている。
「充足感に浸りながら月を見上げて寝転ぶっていいな……」
この世界を生きているって感じがする。
生きているって素晴らしい!
だからもう少しだけ、HPを回復させてください。
特殊称号『星落とし』を獲得しました。
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