第15話 厄介ごとは向こうから1

 あれからしばらくはさっきのネズミ(ダストスカブという名前らしい)とまた戦ったり、サンドヴァルチャーとかいう名前のでかい鳥の寝込みを襲ったり何度かの戦闘を経てレベルは22になった。

 ダストスカブもサンドヴァルチャーも微妙にAGIが足りず歯痒い思いをしたが、そこはもう腕でカバーして戦った。今更AGIに振るポイントを増やすと中途半端なビルドになりかねない。ただでさえDEXも気にしないといけないんだぞ。最低限のAGIは確保するが、もはやAGIは捨てていると言っても過言ではない。

 MND?知らない子ですね……。


「脳筋感は拭えないが久しぶりにやってみたかったんだよな、こういうの」


 魔法使いはこれまでに散々やり尽くしてきた、というか選択肢がなかったとも言える。型落ちハードではどうにも反応が遅れやすく、あまり近接職をやると迷惑をかけかねなかったからだ。昔からやってるゲームだったり、技術革新後のしばらくは近接職だったりシューティングでもガンガン前に出ていたが、今までなんとか食い付けていた場面でも手も足も出ないことも増えてきたのだ。

 そうなると遠距離や後方支援がメインになりがちだった。端的に言えば飽きていたのだ。

 ハードを言い訳にはしたくなかったが、実際に使ってみればその差は歴然だ。


「思った通りに体が動くってのは、これほどまでに気持ちいいんだな……」


 今ならプロゲーマーにさえ勝てそうな気が……いや、あのへんの人種は常に最高のパフォーマンスを出すための動きをしているし、たぶんどう足掻いても普通に対応されそうだ。何度か、いくつかのゲームで共に戦い時に拳をぶつけ合ったがあの反応は尋常ではない。

 フルダイブならまだしも、廃れたとはいえ未だあるディスプレイ式のゲームの大会を見たりすると異次元の世界だ。


「ハードを変えたら同じ舞台ってわけじゃないよなあ」


 それなら誰でもプロゲーマーだ。

 やはり地力が違う。

 と、そんな感慨にふける俺に水を刺す者がいた。まあ、エネミーなんだが。殺意丸出しの空からの強襲を躱し、武器を構える。

 飛びかかってきたのはサンドヴァルチャー、ではなかった。


「オイオイ、出るところ間違えちゃいないか?お前見た目的にこんなところに出るヤツじゃねーだろ!」


「カロロロ……」


 喉を鳴らすようにこちらを威嚇しているのは、ゴブリンと同じくファンタジーおなじみのドラゴン、あるいはワイバーンと言われるエネミーだ。厳密にこの二つに差異は無いらしいが、日本の創作ファンタジーにおいては分けられており、特にワイバーンはドラゴンの下位種族扱いな事が多い。

 長い尾も含めた体長は6m程だろうか?巨体を支える強靭な脚に、蝙蝠のような腕が変化した翼を持ち、恐竜よりもワニを彷彿とさせるような顔つきをしている。

 ご丁寧に煌めくような黒、いやあえて表現するならのオーラを纏っており、いかにも強力な気配を漂わせていた。


「いや待て、もしかして星喰いか⁉︎」


「グワォォォオオッ‼︎」


 俺の問いかけに応えた訳ではないだろうが、そうだと言わんばかりの咆哮と共にぐるりと身を翻して尾を叩きつけてくる。


「ちっくしょうがぁ!」


 それをすんでのところで回避し、後退しながらも星喰いからは目を離さない。

 一周年記念イベント『星のかけら』で追加されたレアエネミー星喰いは、を纏うが、エネミーの種族は固定されておらずランダムだったはずだ。ならばやはりこいつは推定ワイバーンの星喰いといったところか。

 ドロップアイテムは通常素材の他に固定で星のかけらが一つ。いま、もっぱら厄介ごとの種としてプレイヤー達に混乱を与えているアイテムだ。星のかけらを持っているとおそらく厄介ごとに巻き込まれる可能性があるが、この戦闘は避けようがなさそうだ。

 だからといってわざと負けるようなことは絶対にしたくない。


「クソ!ド級の厄ネタだ」


 星喰いは飛び上がり、尾の攻撃を躱した俺を睨みつけている。そもそも向こうは何が気に食わないのか、こちらと戦うという選択肢しか存在しないようだ。


「フゥーッ」


 深く息を吐きながら『精神統一』を使う。MNDとDEX、そしてVITが一時的に上昇し、HPとMPもそれに合わせて上昇する。

 使ってくるかはわからないがドラゴン系エネミーのブレス攻撃は魔法的属性が乗っていることが多い。ならば焼石に水かもしれないが、MNDをあげておいて損はないだろう。そもそもHPが上昇するという効果がある。

 VITの上昇も馬鹿にできない効果だ。いくら防具がよかろうと中身が豆腐ならば何の意味もない。

 これ以外にやる事はない。こちらの戦闘準備は整った。向こうは最初から準備万端なので待つ必要はない。


「オラァ!次はこっちから行くぞ!」


 声を上げながら走り出す。

 ヤツの口元から火の粉が舞い始めた。おそらくブレスの兆候だ。


「やっぱり使ってくるか!」


「ゴアァッ‼︎」


 ガバッと大きく口を開けて吐き出された火の玉を回避……熱ッ!地味にカスダメをもらったがそれを無視してさらに踏み込む。

 近くにあった岩を踏み台に、鍛え上げたSTRを駆使して空へと飛び出す。


「空からチマチマやってんじゃねえぞ!」


 ギリギリ届かなかった高度は、STR


「持ってけ泥棒!こんな戦い方もアリなんだよ!」


 ところで話は変わるが、ゲームにおいてアイテムとはなんだろうか。それはその世界に存在している物であったり概念であったり様々だが、ここで重要なのはという事だ。

 昨今のゲームではエンジンの進化と、フルダイブゆえのリアルさの追求から、アイテムというものはそこに存在している。ちゃんとした物理演算が使われているのならばすなわちそれは、使こともできる。


 力の限り放り投げられた『オーガの棍棒』は、放物線を描く前に悠々と空に居た星喰いの翼に直撃した。


「ギャィァアア⁉︎」


 耳障りな声を上げ翼からダメージエフェクトを出し、体制を崩した星喰いは落下するが地面にぶつかる直前に体勢を整え着地する。

 チッ、落下ダメージはなしか。

 だがあんな細い部位に当てられて痛くないはずがない。骨に直接響くところは攻撃されると弁慶さんだって泣くんだぞ。

 ふらふらと敵意に満ち満ちた目でこちらを睨む星喰いは、飛び上がらない。いやのだろう。


「ふはは!痛み的な演算はどうなってんのか知らんが、場合によっちゃデバフが入んだよ!ソースは俺!」


 しかし、飛び上がるのを封じたところで強靭な脚力とブレスは健在だ。ヤツの行動の一部を封じたに過ぎない。そしてそれはいずれ元に戻ってしまう。

 だがそうはさせない。


「テメェが地べたに這いつくばってる間に二度と飛べなくしてやるよ!」


 狙うは翼!

 あると信じてるぞネバエン!部位破壊を敵の行動を封じる常套手段だ!


「グワォォォオオ!」


 咆哮と共に連続でブレスが放たれる。一発目と二発目はゴブリンからドロップした武器を投げて相殺。二つとも一発で全損だ。泣けるね。

 三発目を回避し肉薄。

 いまだ仄かに赤く光る星喰いの右翼を斬りつける。浅いが確実にダメージは与えている。そのまま振り抜いた返す刃でもう一度ダメージを与えた。


「ギャアォ!」


「おっと」


 ヤツも生きるのに必死だ。俺に一方的に殴らせてくれる訳じゃない。

 噛み付いてきた頭を殴りつけ、振り回してきた尾を回避する。頭を殴りつけたら逆に反動ダメージを受けた。向こうのVITに敵わなかったようだ。泣けてくるね。


「こっからお前の翼を重点的に狙ってやるぜ」


 ホームラン宣言をするかのように、俺を睨みつける星喰いに剣を突き付けながら俺は笑った。

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