第14話 再出発
さっきから出鼻を挫かれる事が多いが、暑さ対策のお守りの購入も済ませたので今度こそやっと出発だ。
『対暑の護符 "パッシブスキル『対環境:猛暑』"』
お守りはアクセサリースロットを一つ埋めて装備することになった。
今後パッシブのスキル習得などで暑さの対策ができるかもしれないが、それまではお守りのお世話になることになるだろう。猛暑より上の暑さならもっと上位のスキルが必要なんだろうな、と思いつつ西門を再び通る。
視界の端に勧誘活動に精を出す黒い鎧の神聖騎士が見えたが、気にしないことにした。
改めてさっきは踏むことの出来なかった不毛の大地へと踏み出す。
視界端に『熱界の荒草地』と表示された。どうやらこの荒地はそんな名前のようだ。草地なんてついてるが、ちょろちょろとその辺に片手で数えられるほどしか生えていない。もしや、元になった世界ではこれでも多い方なのか?
「特に何もないな」
お守りのお陰なのか、少し暖かくなったと感じる程度しか環境の変化は感じられない。
しかし明確に界境で仕切られているのか、荒地に入る前とあとでは確かに気温が違う。界境を跨いで環境の変化が波及する事はないようだ。
「ちょっと試してみるか」
お守りを一度外してインベントリに入れると、途端に暑さが襲ってきた。じわじわと体を焼くような暑さで、汗が吹き出てくる。
汗をかく昨日まであるのかと驚きつつも、お守りを再装備した。
「これ砂漠とかみたいな感じなら夜は逆に寒くなるよな……?」
ふと思い出したその事実に、思わず焦る。今はまだ夕方の時間帯のため気温は高めだが、日は既に傾いている。徐々に気温は下がり始めるだろう。
そうなると、今度は寒さ対策が必要になるのでは?
高緯度の砂漠でかつ冬場でもない限りは極寒にはならないようだが、ここはファンタジー世界という前提のもと動いた方が良さそうだ。
「こうしちゃいられねえな」
しかし急いでばかりもいられない。やはり次の街の手前にはボスがいるわけで、レベリングも行わなければならないだろう。
という事で街道からそんなには離れず、しかし敵が出没するであろうエリアを俺は少し早足で歩く。
「
昨今のゲーム的に難しくなったせいか見られなくなったものの、昔のRTAなんてそもそもレベルとか関係なくバグとかを駆使してクリアしているようなものも多い。それをやれというわけではないが、時間と戦うのならば最近のRTAに見られるかなり効率的なレベリングを求められるだろう。
こんな生き急ぐ冒険者になりたかったわけじゃないのだが……。
おっあれは。
「とりあえず経験値寄越せや!」
道すがらに見つけた荒地の敵、おそらくはトカゲモチーフのモブが見えたのでとりあえず襲いかかる。向こうは完全にこちらに気付いていなかったようで不意を取った形だ。
「思ったより硬い!」
先制で『パワースラッシュ』をぶつけてみたが、硬い鱗にダメージを吸収されたのか手応えをあまり感じない。これは柔らかそうな腹などを狙うべきだろう。
ドタドタと慌ただしく振り返ったトカゲモンスターは、べろりと長い舌をこちらへ伸ばして攻撃を仕掛けてくる。
「おっと」
完全に獲物を捕らえる動きだ。
カメレオンも混じっているのだろうか?モンスターの見た目を観察しながらどんな行動をとってくるか予測を立ててみる。
見た目はほとんどトカゲと言っていい。体長が4メートルくらいあって鱗がところどころ刺々しいが、こういう見た目の砂漠に暮らすトカゲを見た事がある。だが、顔つきはわずかに丸く、舌を伸ばしてきた動きの通り、カメレオンが混じっている可能性もある。いや、舌を伸ばして物を食べるトカゲも見た事あるような……そこはまあいいや。大事なのは舌を伸ばしてくるということ。あとこういうモンスターはだいたい尻尾も攻撃手段である。
そして一番気になるのが背に生えた植物だ。ワサワサとよくわからない植物がかなりの数育っている。共生関係なのだろうか?ならば、そういう場合は……。
「ほら来た!予想通りだよ」
種子らしき物を飛ばしてきやがった!防御もそれなりで遠距離攻撃の手段も備えている。なかなかに面白いモンスターのようだ。
「でもまあ、動きが明らか鈍いよな」
先ほどの振り返る動きもそうだが、そういう調整がされているのだろう。俺のそんなに高くないAGIでさえ、奴にとってはついていくのがやっとの速さらしい。背中の植物をしならせて鞭のような攻撃もしてくるが、そもそも草トカゲ(仮)の視界から外れていれば、擦りもしない。
「だいたいの生き物は腹が弱点なんだよ」
側面に回り込めば、ガラ空きの腹を攻撃できる。ご丁寧に柔らかい部位は白くなっているようで、硬い鱗に当てて武器の耐久を減らさないように攻撃を当てていく。
見た目の大きさ通り、それなり、いやかなりのHPは持っていたが、対処法がわかればそれほど苦戦する相手ではなかった。
ヘルスが少なくなった最後の方は足を畳んで腹を地につけることで守ろうとしていたが、足を攻撃したら簡単に持ち上げてくれたので問題ない。
「ボスはともかく、雑魚についてはソロでもなんとかなりそうだな」
それに初心者エリアに関してはパーティを組む重要さを教える目的があるらしいので、ああいった調整がされているという側面もあるらしいとはwiki談だ。
あれ以降はソロだと多対一になるボスは二体のみらしいうえ、通るルートによっては戦うこともないそうだ。
「ドロップは、と」
『ツタトカゲの厚鱗
ツタトカゲの体を熱と外敵から守る鱗』
『ツタトカゲの刺鱗
ツタトカゲを外敵から守り、外特殊な形状から共生関係にあるロープラントへ水分を提供する役割も持つ』
『ロープラントのツタ
ツタトカゲの背部に共生している植物のツタ。ツタトカゲに水源へ運んでもらい、荒地のミネラルと水から栄養を作り出してツタトカゲへと与える』
他にも牙とか爪とか種子とか、あとレア枠だと舌とかありそうだが今回はこの三つだった。ドロップするアイテム数はモンスターの大きさで変化するらしい。たしかにオーガも棍棒とか鉱石とか複数ドロップしていた。
「ふーむ、これは次はスケイルメイルかな」
武器にはどんなふうに使えるのか分からない。鞭とか?
夕暮れの周囲を見回してみると他にも何匹かツタトカゲの姿が見える。うち一匹はこちらに気付いて臨戦態勢だ。夕陽をバックに闘志を燃やす姿は少しかっこいい。
お仲間がやられてご不満かな?
「大丈夫だ、すぐに同じ場所に連れて行ってやる」
かなり正確に飛んできた種子を『ダッジステップ』で回避しながら、ツタトカゲへと肉薄し剣を叩きつけるのだった。
「うーむ、馬鹿とは俺のことかな?」
1時間前の急ぐ決意は宇宙の彼方へと旅立ってしまっていたらしい。浦島効果で1時間前の真新しい姿のまま、すでにとっぷりと日が暮れた今になってご帰還なさった。
「まあ思っていた事態にはならなかったようだが」
どうやらここは緯度の高い地域(そもそも緯度の概念があるか難しい)ではなく冬でもなかったようで、寒さを感じるような気温にはなっていないようだ。
と言っても日が沈んでからまだそれほど経ってはいない。ここから少しずつ下がっていくだろうということは予測できるし、昼行性のエネミーが消えて夜行性のエネミーが姿を見せる頃合いだ。
予想通り、巣穴のような穴から出てきたのは耳の長いネズミのような生き物だ。ネズミのようなとは言ったが身体はネズミの3倍ほどはありそうである。
「それってウサギでは?」
自分の思考に突っ込むなんて馬鹿なことをしながら、とりあえず経験値になりそうなので喧嘩を売ってみる。
「しゃオラァ!やるぞ!」
スキルの『挑発』を使うとすぐにヘイトがこちらへ向いた。威嚇するようにこちらに怖い顔を向けて牙を剥き出しにしている。可愛い見た目によらず、かなり物騒な物をお持ちのようで。
そんなヤツと睨み合っているとさらに背後から一匹、『挑発』に釣られたのか敵意剥き出しでネズミウサギ(仮)が出てきて、さらに一匹、もう一匹、二匹、三匹……。
「待て待て待て待て待て」
気づけば八匹のネズミウサギ(仮)に囲まれていた。
なんだこれは……。
「ちくしょう!やってやらぁ!」
幸い単体のHPは少なく、攻撃は突進噛み付きと後脚での蹴りくらいだったので、なんとか捌き切る事ができたが、ヘルスは8割持っていかれてしまったのでなけなしのポーションを使うことになった。
オーガ戦でも一つ使っているので手持ちのポーションはドゥーバで出発前に購入した一つしか残っていない。
うかつに挑発を使わなければ穴から出てくるのを一匹ずつ倒していく事ができただろう。次からは気をつけます……ハイ……。
ドロップは毛皮と肉だった。空腹値の概念があるらしいが、最初のうちはアーズィンでのポーション初回購入特典でもらえた携帯食料があるので、お世話になることはまだ先になりそうだ。
ともかくそれらをインベントリにしまい、20になったレベルに少し満足しながら止まっていた歩みを再開するのだった。
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