第二章 其は世界の裏より出し者

第11話 次の目的地

 結局昨夜はログアウト後に復習していると、思ったよりも抜け落ちが多く時間がかかり寝るのが遅くなってしまった。

 あくびを噛み殺しながらなんの気になしに黒板を眺めていると、盛大にあくびをしながらヤマダDEEP、ではなく深井ふかい進一郎しんいちろうが教室に入ってくるのが見えた。

 

「ふあぁ……うーす」


「なんだ寝不足か?」


「あー、寝る前にBattle ArenaBAのランクやってたら沼ってさ」


「先に落ちときながら結局夜更かしかよ」


「いってろ」


 べーと舌を出す仕草は実に子供っぽいが、童顔でカワイイと女子に評判のヤツには無性に似合っている。

 特に声をかけられたりなどがあるわけではないが、少なからずファンがいるようで、たまにはゲーム内でのヤバい行動とかを暴露してやろうかとさえ思う。しかし今日まで踏みとどまっている俺を褒めてくれる存在は居るだろうか。

 ちなみにBAとは、フルダイブにおいて200vs200の大規模戦闘を初めて実現した大作シューティングゲームのことだ。リリースは五年前ながら、今もアップデートを続け楽しまれている。


「はいおはよう、今日もホームルーム始めるぞー」


 クラス担任が覇気のない声をかけながら教室に入ってきたのでくだらない考え事はやめ、今日の学業に専念することにした。



 若干寝不足気味になるほどに復習しながら、可もなく不可もない絶妙な点数になった小テストのことを記憶にしまいながら、帰宅早々『Newvision』を起動した。

 元々ヤマダとはドゥーバまでは一緒にやるが、それ以降は適宜パーティを組みつつ基本は別行動を計画していた。職種の違いで受けるクエストやシナリオの傾向は変わってくる上、オンリーワンな要素に触れる場合もある。それらを想定した上でのことだ。


「さて、まずは何からしようかねえ」


 個人の目標としては、聖騎士のジョブ取得だが、そのためには女神信仰の状態を中以上へと昇格させなければならないらしい。

 ログインしたらとりあえず教会に向かうかと思いながら、メニュー画面でネバエンの起動を選択した。



 しかし、早速出鼻を挫かれてしまった。


「まいったな、星人が教会に入れないなんて」


 何故か星人全員が教会に入れないようになっているらしく、教会の前で途方に暮れているプレイヤーがちらほら見受けられる。

 こう言う時はどうするか。そう先達に聞くのが一番早い。

 たしかギルドには掲示板機能があった筈だ。

 ギルドへと向かいながら、冒険者メモを確認する。


「お、あったあった。なになに……」


 どうやら大まかに、ギルドに所属している誰もが利用可能な共有板と特定系統職種のみが利用できる職業板に分かれているようだ。共有板でも個人が立てた情報板だったり雑談板だったり色々あるらしい。

 教会とギルドは目と鼻の先なので、読み終わる頃にはすでにギルドに到着していた。

 教会封鎖と関係があるのか、ギルド所属NPC達の様子はどこか慌ただしい。


「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……と」


 便利な検索機能を使い情報を取り扱っているであろうものにサーチをかけると、欲しいものはすぐに見つかった。


「なになに……ふむ」


 どうやら、現在開催されている一周年記念イベント『星のかけら』に原因があるらしい。運営に問い合わせたプレイヤーもいるようだが、仕様だとの回答が出ているとの事。

 ふと自分のメニュー欄を見ると、通知欄に一周年記念イベント『星のかけら』に参加しましたと書かれている。ドゥーバ以降に到達しているプレイヤー全員が強制参加になるらしい。


「かけらを捧げるなってふれまわっても、そもそも入れないから捧げるもクソもないだろ」


 情報板も色々と錯綜しているようで、挙句には無関係の人間に罵詈雑言を浴びせているプレイヤーまでいる始末だ。

 これには何か意図があるのではないかと考察するプレイヤー達は、教会と星人の敵対が既定路線派とそれでもイベントを取り下げないことから「星喰い」狩りにこそ意味がある派の二つに分かれているらしい。


「なるほどなぁ」


 どうやらとても初心者プレイヤーが何かできるようなものではなさそうだ。というか全プレイヤーに大きく影響を与えるような内容だし、そもそも運営はプレイヤー達が失敗したらどうするつもりなんだろうか。


「お、リスポーン地点自体は教会に近づく事で更新される仕様になってるのか」


 リスポーンする場所も教会の外になるようだ。

 これでひとまずの懸念材料はなくなった。


「イベントがいつまでかはわからんが、とりあえず触りだけでもできるようにレベル上げと次の街へ向かいますか」


 第二の街ドゥーバは規模が大きいだけあって、アーズィンの他に三つの街と直接街道でつながっているらしい。

 港湾都市トゥーリ、地下迷宮チートゥリー、中央都市ピャラチの三つだ。

 どの街もエネミーのレベル帯は共通しているようだが、俺は港湾都市に行くことを決める。港湾都市トゥーリの郊外には、打ち捨てられた祠があり、そこで女神信仰の状態を変化させられるらしいのだ。教会の管轄外であり、現在の情勢の影響を受けないのである。

 情報板にも僧侶関連やは聖騎士を目指すなら今ならまずはそこに行けとアドバイスされていた。

 それを確認した俺は掲示板を閉じる。


「まあやることは決まったし、さっさと行くか」


 そうと決まれば話は早い。早速武具屋に向かった。

 利便性を考慮しているようで、武具屋はギルドにほど近いところにあった。


「おう、冒険者か。何が欲しいんだ?」


 鍛え抜かれたからだをアピールするかのような、着るサイズ間違えてますよと指摘したくなるようなぴっちりした服を着た、獣人らしきNPCが武具屋の店主をやっていた。暑苦しい笑みが妙に眩しい。

 とりあえずいくつかのドロップ品の売却を行う。耐久値の関係で買い取りをしてくれないものもあった。主にゴブリン装備だ。


「他に何か用はあるか?」


「あー、防具と武器、あるだけ見せて欲しい」


「武器と防具か、あいよ」


 ドン!と俺と店主を隔てるカウンターの上に置かれた本に手を触れると、ウィンドウが目の前に広がった。


『牛猪革の鎧:一式-12000M

 タックブルボアの皮を使用した一品。軽く頑丈。

 (DEF+12)


 衛士の鎧:一式-20000M

 ドゥーバの街の衛士が着ている標準的なもの。

 (DEF+14)


 呪法導師:一式-14000M

 かつて呪法を極めた者が纏ったローブのレプリカ。

 (DEF+9 MND+6)』


 防具はアーズィンにあった二つに加え、この三つが追加されていた。というか武器も買う関係上買えるものは牛猪革一式しかないだろう。

 いくつか素材の売却もしたが、結局懐が寒い事に変わりはない。それに衛士の鎧は値段と性能が釣り合っていないように思えるのだ。おそらくオシャレ装備的意味合いが強いだろう。

 普通のプレイヤーならしばらくドゥーバでギルドから依頼を受けて金を稼ぎながら生産も行うのだろうが、とにかく俺はトゥーリに早く行きたいのである。

 牛猪革一式の購入処理を済ませながら、武器のページも開いた。

 どうやら全武器種に骨素材のものが追加された以外にはアーズィンと変わらない。物理攻撃力の高い骨素材にするか、耐久力の高い鉱物素材にするかという選択だろう。

 それならばとアーズィンで買った剣をオヤジに見せてみた。


「お?なんだ?武器持ってんじゃねーか。そいつを強化すんのか?」


「あ、やっぱり強化できる感じ?じゃあおねがいするかな」


 要求された素材は手持ちの素材でなんとか足りていた。ゴブリンがまれに鉱石素材をドロップするのは、採掘エリアのない初心者エリアに対する救済措置なのだろう。

 ただ単にゴブリンが礫がわりに持っていた可能性もあるが。


「これなら2時間もあればできるだろう。後でまたこいよ!」


 オヤジがそう言いながら俺の武器と素材を受け取る。


「ああ、お願いするよ。またあとで」


「おう」


 ひとまず装備更新の目処がたったので武器屋を後にした。現在武器を装備していないので、進もうにも進むことができない


「まあ飯とか風呂とかまだだしな」


 リアルでもやることはまだまだある。

 俺は仕方なく一度ログアウトを選択した。

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