第8話 第二の街
ボスを倒し、街道を進んだ先に見えて来たのは万里の長城を彷彿とさせるような長大な壁だった。
高さは多分10mくらいあるんじゃないだろうか?
「すげぇ、これぞファンタジー世界って感じだな」
「なんか元は小さい城塞都市だったらしいが、安全を求めて人が集まったせいで外へ外へと雪だるま式に広がったらしい。上から見たら木の年輪みたいに壁があるらしいぞ」
「うわー、よくあるー」
そうやって人が集まった結果なのかはわからないが、周辺では最大規模の都市となっているらしい。都市内のみで利用できる短距離ポータルまで設置されているとかなんとか。
その長大な城壁に圧倒されながら門へと向かう。流石に堀までは作られていないようだ。
大聖堂で見た聖騎士には劣るが、それなりに高価そうな鎧に身を包んだ門衛が二人、両脇に立っている。
「お前たち、アーズィンから来たのか?」
「ああ、途中でオーガに襲われて大変だったよ」
男の声を出す女を見て門衛の眉がピクリと動いたが、それ以外に反応は見せない。大したものだ。俺なら怪しいのでその場で切り捨てる。ヤマダだし。
「最近出現報告が多くてな。近々掃討隊が組まれるかもしれん。ふむ、その腕輪は
門衛が俺の腕に付いている冒険者証に気付き、納得の表情を見せた。ヤマダのやつはローブに隠れているせいで見えていなかった。慌てて袖をまくって冒険者証を見せている。
「ようこそ、城郭都市ドゥーバへ。疲れたろう、ゆっくり休んでいってくれ」
「おう、ありがとう」
冒険者証が身分証代わりになるようで、簡単に入場を許された俺たちは、オーガ討伐の礼が都市から出るのでギルドで受け取るようにという門衛の言葉を聞き、とりあえずギルドへと向かった。
門前にあるポータルからギルド前広場へとファストトラベルを行う。風が体に吹き付けるような感覚とともに視界が明転し、視界が戻った時にはすでに門前にはいなかった。目の前に見える建物がギルドらしい。ここも青い屋根だ。
ギルドはアーズィンの本部に比べて小さい建物だった。いくつかあるカウンターのうち一つが空いていたのでそこへ行くと、受付嬢がにこやかに対応してくれる。
「何かご用でしょうか?」
「オーガ討伐の報酬が出るとかなんとか言われて来てみたんだが」
「ではアーズィンから来られたのですね。冒険者証をお見せください」
討伐記録は冒険者証にあるようで、冒険者証と同じ材質出てきた何かの装置で読み取り、たしかに討伐した事が証明された。
謝礼金として15000Mを受け取り、また『アーズィンの森』で倒していたゴブリンやらのエネミーなども一定数以上討伐していだという事で追加のMも貰った。
これでちょっとした小金持ちだ。装備の更新もできるだろう。
「ところで、転職などに興味はございますか?」
「転職?」
「はい。今の職業が合わないとか、新たな技能を手に入れたいとか、そういった時にべんりですよ」
なんでも、転職を利用すると今の職業がサブジョブに割り当てられ、新たに転職した方がメインジョブにセットされるらしい。新たに得たジョブのスキルは、セットされた時点での到達レベルに応じて習得できるようだ。
サブジョブに割り当てられたジョブで覚えたスキルはメインジョブでも利用できるが、ジョブ系統が別の場合リキャスト時間の増加や消費MPの増加などなんらかのデメリットが発生するようだ。また、サブに割り当てられている間はレベルアップでもスキルを習得できない。
メインとサブの入れ替えはギルドならどこでも行えるらしい。
ならばレベルキャップに到達したらジョブ入れ替えを繰り返してスキルを習得し放題かと言えばそうではない。
サブに割り当てられるジョブの数は二つまでであり、サブジョブ欄に空きがなければそもそも転職は不可能だ。サブジョブの削除も可能だが、削除されたジョブのスキルは特定の条件を満たしたものを除いて消失するというふうになっている。
「なるほどなぁ。上位職になるのも転職扱いみたいだな」
「多分消えないスキルって系統ごとに共有されてるスキルとかだろうな。俺の魔法とか上位になった途端消えたりしたら流石に泣く」
それぞれのジョブごとに覚えるスキルのシナジーとかもあるだろうし、これはギャラビルドにテンプレなんてものはできないだろう。自分の体を一番動かしやすいスキル構成こそが正解だ。
有名人の誰々が使っているビルドだとかって言われても自分が同じように動けるわけじゃないんだ。
「まあ、いまは転職はいいかな。剣に腕慣らしたいしそもそも剣以外使うつもりねえからなぁ」
「俺ももうちょい色々調べてからだな。とりあえずサブで使う近接職一個は欲しいけど色々見てみないと」
美しい女が髪をかきあげると絵になるが、ヤマダだからか逆にムカつくな。
「ではまた転職を行いたくなったときはギルドへどうぞ!いつでも受け付けております」
受付嬢に見送られながら俺たちはギルド舎を出る。次に向かうのは教会だ。
星の石に触れてリスポーン地点の更新を行うためだ。
アーズィンに同じく教会はギルドの近くにあった。これはおそらくどの街でも共通しているのだろう。
街の規模に反して教会は小さい。マップを見る限りこの都市の中心部にもっと大きい教会があるようなので、こっちは後から作られたものである事が想像できた。
教会内の雰囲気はアーズィンと変わらない。NPCに混じって何故か祈りを捧げているプレイヤーがいるのも同じだ。星の石のそばには老齢の司祭が佇んでいる。
俺とヤマダはそれらを無視して星の石へと向かう。
特に止められる事もなく、すんなりと石に触れる事ができた。ここの星の石はアーズィンのものに比べて小さい。
『リスポーンポイントが更新されました』
「良き旅を」
司祭が微笑みながらそう言った。
厳かな空気がどうにも落ち着かないので二人してそそくさと教会を出ると、いよいよやることもなくなってしまう。
「さーてどうすっかなあ」
「そろそろいい時間だし俺はもう寝るかな」
たしかにヤマダの言う通りメニューに表示される時刻は0:00になろうかと言ったところだった。今日が金曜日ならば徹夜を敢行してもいいのだが、明日はあいにく平日だ。
「明日って数学の高嶋だろ。ぜってぇ小テストあるって」
「あー、なら俺は寝る前に見返しとくか」
「えらいねぇ、どうせ俺はわからねえしいいや」
やらないから余計にわからなくなるんだよとツッコミをしたくなったが、何回目かもわからないので諦める。こいつはなんだかんだで赤点は回避する男なのだ。
いまは女だが。
「んじゃひとまず解散ってことで」
ヤマダがパンと手を鳴らしそう言った。
「そうだな。色々付き合ってもらって悪かったな。お前もこのゲームやりたかったはずなのにさ」
そうなのだ。
この男、俺に合わせてずっとネバエンを購入せずにいた。俺が目標を達成するまでずっと。
別ゲーでも何度か先にやってても構わないことを伝えたが「こういうの差が開きすぎててもつまんねーだろ?」の一点張りでついぞ先に購入はしなかったのだ。
「へ、何言ってんだ。ダチだろ?俺は一緒に楽しくやりてーんだよ」
とてもいい笑顔でサムズアップをしながら、黒い髪の女が笑う。
とてもいい絵なのでスクショいいですか?ヤマダなのが減点100だが。
少し、いやとても嬉しくなったのは秘密だ。
「んじゃ、先寝るわ、
ヤマダはそれだけ捲し立てるように言うと、光の粒子となって消えていった。ログアウトのエフェクトはあんな風になっているようだ。
「んじゃ俺も落ちるか、乙」
俺もそう言ってメニューからログアウトを選択した。
多分、消える間際のヤマダの顔が赤かったのは気のせいだろう。
明日あいつの称号見せてもらうか。
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