第6話 道草って美味しい
意気揚々と出た割にはあのあとすぐにギルド本部に戻って、武具売ってる店聞いたりとか間抜けな事もしたわけだが、今度こそやっと冒険を始められるわけだ。
ちなみに最初の街という事か、防具は近接向けか魔法職向けの二択しか無かった。素材集めてきて生産しろって事だろう。防具一式で8000Mが溶けたので、消耗品の回復ポーションを二つも買うとあと1000Mしか残っていない。
ちなみにMはミロンという単位である。
あ、ロングソードが900Mですか、そうですか。
早速軽くなったインベントリに涙しながら人を待つ。城門を待ち合わせに指定してきたのは向こうだ。
『Newvision』は外部のメッセージ機能も搭載しているから、ゲーム内チャットが出来なくとも連絡が取れてしまうわけだ。それに気づいたのは防具屋に向かっている途中に向こうからメッセージが来た時だったが。
「なんでお前男キャラなんだよ、色気ねえなぁ」
「そんなナリして男声出す方が俺としては無いんだが?」
「ばっかオメェ、この良さがわからねぇかぁ?」
流れる黒髪、切れ長の目。美人を体現したかのような女アバターの頭上には、ヤマダDEEPとプレイヤー名が表示されている。俺をここに呼び出した張本人だ。
魔術師装のローブに隠れているが、おそらくコイツのことなのでナイスバディなキャラメイクをしているのだろう。キャラメイクには性癖がでる。
ヤマダは別ゲーからのフレンドであり、現実での友人、いわゆるリア友でもある。ちなみにヤツの本名は山田ではない。
「相変わらずヤマダなんだな」
「この名前には大いに意味と思い入れがあんのヨ。そういうオメェだっていつもどおりの凡百に埋もれる本名もじりネームだし、似たようなもんだろ」
ばっかお前、シンプルイズベストなんだよと、お互いのIGN(In-Game Name)についての話はいつも通りで笑い合う。
と、向こうからフレンド申請が飛んできたようだ。視界の端に通知が見え、メニューを開くとフレンド欄に申請者、ヤマダ
とりあえず拒否っと。
「通るまで申請連打でいい?」
「冗談だよ」
コイツマジでやりかねないからな。フレンド申請を承認し、お互いのフレンド欄に名前が表示されたことを確認した。ゲームによっては双方送り合わないと、承認した側のフレンドリストには名前だけ載ってフレンド扱いではないとかたまにあるので確認は大事だ。
そのままヤマダからパーティ申請も飛ばされてきたので承認する。
パーティを組まずに一緒に行動も可能だが、パーティとして登録しておかないと経験値は共有にならないし、お互いの距離が離れていても共有されないらしい。パーティ承認と同時に、メニュー欄にあった冒険者メモなるTips確認機能に追記された。
パーティ状態になるとパーティメンバーの簡易ステータスが確認できるようだ。ステータス値まではわからないが、Lv、HP、職業、表示称号、状態が確認できる。ヤマダは予想通り、魔術師になっている。
「んじゃ、改めて行きますか。俺たちの冒険はここからだ!」
「ヤマダ先生の次回作にご期待くださいってか?次の街の前のボス、魔法職いれば楽できるらしいけど」
「ヤマダ先生!援護期待してます!」
「まあそもそも就職しただけで、攻撃魔法はおろか支援魔法すらないんだけどな」
なんだコイツ使えねー!杖で殴るしか出来ないってか?
まあ俺も似たようなものなのでここは許してやるとするか。ネバエンはかなり現実に近い演算で動いているみたいだが、HP制ではあるのでダメージを与え続けていればいつかは倒せるだろう。つまり殴れば死ぬ。
士気高く城門を抜け、最初の冒険エリアに飛び出したわけだが、さすがネバエン、広大な大地に圧倒される。
始まりの街、アーズィンは海に面した小高い丘になっており、振り返ると一番高いところに大聖堂が、そしてそれを中心として発展したとわかる街並みをしている。
そしてその裾野は広大な平野となっていた。
時間帯が夜のためか空に月が二つ見える。複数の月があるのは世界が交わったせいらしい。月明かりに照らされた平原はどこか幻想的にも感じられる。
いわゆる初心者エリアに相当するこの『アーズィン平原』は、複合世界の基礎となった世界そのままの姿を残しており、最も人が歩いた地と言われている。『アーズィン平原』を囲うように『アーズィンの森』があり、第二の街『ドゥーバ』に行くには必ず通り抜けることになる(ヤマダ談)。
たしかに整備された道が敷かれており、道なりに行けばドゥーバにはすぐに着くのだろう。
道から逸れるとまばらに木が生えており、さらにその奥は徐々に木々が増えている。その木々の隙間にはおそらく倒せば経験値を得られるであろう生物や、プレイヤーの姿がちらほら確認できた。
「でもまあ、道草食ってレベルアップが常道なわけでありまして」
周囲に見えるプレイヤーたちに倣って俺たちも道を少し行ったところから逸れる。初心者エリアのプレイヤーはお互い狩場が重ならないように微妙な距離感を保って固まっていた。
「こういうところ微妙に日本人っぽい」
「横殴りは揉め事の元なので仕方ないね」
横殴りで余計なギスギスは俺も避けたいところだな。
それはともかく、どうやら『アーズィン平原』はかなり広いようだが、少し行くだけで他プレイヤーとはそれなりの距離となり周囲には木々が茂り始める。
いや、これは。
「移動速度、プレイヤーは速い感じか?」
「あー、なんかNPCの話では次の街まで徒歩で2日はかかるらしいぞ。プレイヤーは突っ切るなら1時間もいらないらしいが」
「流石にそこまでリアルにすると苦行ゲーになりそうだな」
そんな雑談をしながら木々の隙間を歩いていると、飛び出してくるものがあった。
「ギャギャッ!」
ファンタジー定番エネミー、ゴブリンだ。
ボロ切れのような腰巻に棍棒を持っており、緑の肌に人間の子供くらいの身長というのはいかにもといった感じで否が応でも気分が昂る。ゴブリンの息遣いさえ感じるようだ。
「てか、本当に息遣いまで感じない?ネバエン、規制されたりしないかちょっと心配になっちゃう」
「まあ実はたまにこのゲームが批判されるときにリアル過ぎるって言説が使われるんだよね、これはヤマダ調べ」
ふーむ、信憑性の程はともかく、このリアルさは本当に異世界に迷い込んだかのようだ。
ギルド本部でのあれが戦闘チュートリアルかとも思ったが、あれはそもそも戦闘スタイルの見定めがメインにあり、ようやくこれが本番ということだろう。
ちっぽけな殺意を放つゴブリンに感心しつつ、そんな殺意を感じることができるゲームシステムにさらに感心する。
「グギャギャーッ!」
「お手並み拝見といきますか」
律儀にこちらが構えるのを待っていたゴブリンが、飛びかかってきた。ギルド本部の馬鹿とあまり変わらないが、これでも野生生物、こちらの剣の動きを察し身をかわそうとしたらしい。
しかし、剣はゴブリンの体を切り裂く、とまでは行かずとも赤いヒットエフェクトを散らした。
微妙にクリティカルを外したカウンターの一撃は、それでもゴブリンに痛手を与えたようで、こちらを睨みつけているがふらふらと足元がおぼつかないようだ。
大人なファンタジーではゴブリンを痛めつけるとゴブリンボスみたいなのが出てくるが、初心者エリアにそういうことは無いだろう。
「HP低下でデバフみたいなのかかるっぽいな」
「そりゃ死にかけながら最初と変わらず全力って怖くね?ヤマダ、そういうのむりぃ〜」
ニヤニヤして微妙に気色悪い声を出しながら体を震わせるバカは置いておいて、とりあえずゴブリンにとどめを刺す。ドロップは何もなく、レベルも上がらない。
しばらくはこれが続きそうだ。
その後もツノの生えたウサギだったり、突進ばかりする牛と猪を混ぜたような生き物だったりを狩ったが、初心者エリアの敵の攻撃はやはりヌルいというか、簡単に目で追うことができる程度の攻撃しかしてこなかった。
ただまあ、ファンタジー世界にいる実感で楽しくなったというか、色々ドロップすることがわかって集めてみたくなったというか、気付けば2時間以上戦闘してました。ハイ。
道草がおいしいのがいけないのです。
結果は二人ともレベルが15になり、ドゥーバ手前にいるらしいボスの推奨レベル12を超えてしまっていた。
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