第5話 就職完了
俺はアーシャさんに連れられて応接室のようなところへ連れて行かれた。これが特殊進行ならこのまま特別待遇!みたいになるはずだが、おそらく通常進行だ。
「実は教会から連絡を受けておりまして、先ほどのは腕試しのようなものなのです」
アーシャさんが申し訳なさそうに笑いながらそう言った。白目を剥いて気を失った馬鹿がギルド職員に運ばれていく様を思い出しながら、損な役回りを押し付けられてんだなとすこし同情する。
喧嘩を売ってきたのは向こうではあるので正当防衛です。
「ああ、彼は心配しなくても大丈夫ですよ。ギルドでも問題を起こし過ぎ、挙句返せない借金があるためにああいう事をしておりますので」
「は、はぁ……そっすか……」
なんだ同情する余地なし!死刑!俺は頭の中で馬鹿を地獄に突き落とした。さようなら。
というかアーシャさんがちょっと怖いせいで、尊大ロールをしようと思っていたのが早速どっか行ってしまった。
「まあその話はどうでもいい事です。本題に入りましょう」
どうでもいい事とオーバーキルされた馬鹿を頭の中から消し去り、アーシャさんの方を見る。
……かなり凝ったモデリングがされているな。
「アリーさん、あなたはおそらく騎士系統の適性があると思われます。また闘士、賭博師などの適性もあるでしょう」
「なんか一個変なの混じってますね」
「これも立派な冒険者なのですよ?」
「ははは、ご冗談を」
「ふふふ」
マジで言ってんのか?サイコロでも投げつけて戦うってのか?1の目が出たら自爆とかしてしまいそうだな。
騎士系統についてはキャラメイクで説明があったし、闘士は多分ステゴロでも戦えちゃうってのがわかったからだろう。闘士が必ずしもステゴロじゃないと思うんだけどなぁ。
最後のについてはもはやコメントができない。
ん?というか俺、名乗ったか?
「どうして名前を?それに職業も……」
「ふふ、こう見えても私、
「ソッスカ……」
いたずらを成功させた子供のような笑みでアーシャさんが言った。冗談とかではなく本当に適性があるらしい。一発に賭けたりしたからなのか?地雷とか言ってパーティ蹴られたりしたくないのでほんとやめてください。
というか、NPCにも星人っているんだな。
「まあ、最初から決めているんですけどね」
「そういう方も多いですね。それでは何になさいますか?」
ふふ、決まっている。こういう世界に来たならば、俺は迷わずこの手に取るのだ。
「剣を」
「はい、騎士ですね」
「……」
……これ『羞恥の道化』がランクアップとかしないよな?
ドヤ顔で言った俺をスルーしてアーシャさんが紙のようなものに何かを記録している。覗き込んでみると、どうやら俺のゲーム内簡易プロフィールらしい。流石に称号やステータスは出ていないはずだが、名前と職業、出自が書かれているらしい。
ネバエン世界独自の文字で書かれているため、あまり自信がないのだ。
それが終わると、「少し待っていてくださいね」と言ってアーシャさんは紙を持って部屋を出て行ってしまった。
手持ち無沙汰になってしまったので、ステータスを確認してみる。レベルが1上がり、ステータスポイントを5ポイント得ていた。レベルアップによってステータスは変動せず、ポイント振り分けによって変化が出てくるらしい。
とりあえずSTR、VITは必要なので2ポイントずつ振り分け、残りをAGIに振っておいた。DEXは腕である程度なんとかするつもりで、LUCはともかく、MNDについては当てがある。
昨晩にも馬鹿話をしたやつの顔を浮かべながら、そっとステータス画面を閉じた。とりあえず『羞恥の道化』についてはなにも変化はなかった。
「お待たせしました」
ちょうどよくアーシャさんが戻ってくる。その手には何かリングのような物が載せられたトレイがあった。
「それは?」
「これは冒険者証です。あなたの行動に関する記録と、マッピング機能が備わっています。初めて向かう場所や未開域を訪れる際はこちらの機能を活用してくださいね」
アーシャさんに促され、腕を差し出すとカチャリと手錠のようにはめられてしまった。一瞬ここで抵抗してみるとどうなるのか疑問が浮かんだが、面倒ごとの予感しかしないので踏みとどまった。
アーシャさん怖いし。
腕輪に触れてみると音もなくウィンドウが浮かび上がった。最初に表示されたのはマップだ。現在地は『ギルド本部・応接室』となっている。すでに誰かが記録した地点は名前がついており、初期スポーン地点の教会も『リスラ大聖堂』となっていた。
どうやらこの冒険者証で表示される文字は日本語のようだ。
タブを切り替え次ページを表示してみると、先ほどアーシャさんが書き記していたのと同じ内容の簡易プロフィールが表示された。しっかりと職業欄に騎士と書かれている。無事、就職できたらしい。
その後にもこれは失われた世界の遺物だとか、複製スキルで作られたとはいえ貴重だとか色々と言われたが、あまりゲーム進行に関して関わりは薄そうなので右から左だった。そういうフレーバー要素は考察厨に任せればいいのだ。
「最後に、こちらはギルドからの餞別です。星人はお金を持ってはいませんので、活動資金としてください」
「ありがとうございます」
そう言って手渡されたのは硬貨の入った袋だ。価値はわからないがインベントリに入れてみるとわかはずだ。所持金が10000Mとなったので、とりあえずこれで初期装備一式を揃えろということなのだろう。果たしてどんなものが買えるのやら。
「ではこれでギルドからのは以上です。なにか質問などはありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「何かあればいつでもお尋ねください。私はギルド本部一階受付にいますので。それでは、良い冒険を!」
そんな言葉に送られて俺はギルド本部を後にした。
『チュートリアルエリアを離脱しました。これにてチュートリアルは終了です。これからの事はあなた次第』
称号:『見習い騎士』を獲得しました。
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