第4話 天ぷらは美味いがテンプレは食傷気味
セリアの言っていたギルド本部の建物はすぐに分かった。いや、もうこれでもかというくらいわかりやすい。青い屋根は周りにその建物しかないからだ。しかも建物自体もデカいのでこの上なくわかりやすい。
わかりやすいのだが、その前に確認することがある。さらっと流されたが教会を出た瞬間に称号だとか状態だとかのログとメニュー機能が解禁された旨が表示された。
早速開いてみる。側から見ると指を虚空に押し出している感じに見えるのだろうが、どのプレイヤーも似た者同士なので今更だろう。
『メニューの一部操作は思考操作も可能です』
ほう。
試しに閉じて開いてまた閉じるという作業を手を使わずに行ってみたが、戦闘中にはそれなりに使えそうな機能ではある。だがインベントリが開けないのでここは対応していないのだろう。戦闘中のショートカット対策だろうか。
それさておき、ステータス画面を開いてみる。
名前:アリー(出自:高貴なる者)
Lv:1
職業:なし
所持金:0M
称号:3
特殊称号:1
表示称号:『はじめの一歩』
『加護を授かる者』
『祈りを受ける者』
『羞恥の道化』"MND10%向上"
状態:『女神信仰:極低』"効果なし"
HP:150
MP:162
STR:20
VIT:15
AGI:15
DEX:10
MND:10+1
LUK:10
装備
武器:星の短剣(ATK:3)
頭:高貴なスカーフ(DEF:1)
胴:高貴な上着(DEF:1)
腰:高貴なパンツ(DEF:1)
足:高貴なブーツ(DEF:1)
スキル:なし
防具はどういう扱いなのかはわからないが、とりあえずごみなのだろうという事はわかる。
ともかくそれらは置いておいて、問題はなんか馬鹿にされたようなものが混じっている称号だ。誰が道化だ。
詳細には、『自信を辱めるその姿はまさに道化』などとなんともまあイラッとくるものが書かれている。しかもメリットがあるのが地味に腹が立つ。
称号のほとんどはNPCとの関係においてわずかな補正がかかるらしい。そして、特殊称号についてはステータスやより効果の高い関係補正などもっと大きなメリットがあるようだ。
だがこれらの称号は表示設定を有効化していなければ効果を発揮しないようだ。初期では自動で公開設定となっている。
つまり私は自分から恥ずかしい事をして恥ずかしがりましたなんて大々的に喧伝しなければ、この効果得られないようだ。
くそ!どうせ今は1しか上がらないんだ!非表示非表示っと。こうなると上位プレイヤーの称号は凄いことになってそうだな。
とりあえずステータスとか色々確認終わったので、すこし気勢も削がれたが改めてギルド本部へ向かった。
「たのもー」
ドアを押し開けて中に入るとむくつけき男達がギロリとこちらを睨みつけて……なんて事はなく、意外と空調の効いた広々とした空間になっている。よくある形で酒場も併設されている形にはなっているが、荒くれ者の屯場になっているわけではないようだ。
とりあえず行けばいいところはわかる。真正面にわかりやすく設置してあるカウンターだろう。美人と可愛いのあいのこのような受付嬢のお姉さんがすまし顔でいらっしゃるので、色々と
さあこれから冒け
『チュートリアルフィールドに侵入しました』
「オイお前、新人か?」
おっとどうやらイベントらしい。ちなみにチュートリアルフィールドとはこのチュートリアルでのみ使われる特殊エリアで、他プレイヤーの干渉などを受けない仕様となっているようだ。
というかこの時点でこんなドスの効いた声をかけられた時点でわかる。これまでも散々経験してきたからだ。古今東西、ゲームでもアニメでも漫画でもライトノベルでも、サブカルチャーには一種のお約束のようなものがある。
テンプレというやつだ。
それはもう、現代になっても未だに描かれるほどにお決まりのものとなっている。
つまりこれは、戦闘チュートリアルだ。
「そうだが?なんか文句あるかぁ⁉︎オォン⁉︎」
とりあえずイキってガンを飛ばしてみる。
やはりお約束というか、意地の悪そうな顔をしたガタイのいい男がこちらを睨みつけていた。というか今俺の視線から若干目を逸さなかったか?なに新人相手にビビってんだテメーコラ。
「は、はン!威勢のいい奴だな!ぶっ飛ばしてやる!」
あまりにもわかりきった展開でかつ、馴染みある展開なために力も入らない。
脱力しながらも俺がファイティングポーズを取ったことでイベントは進行したようだ。相手の新人潰し(仮)も構えをとる。お互い武器は構えず素手だ。
このゲームは武器を装備していようと抜刀などの動作を取らなければ素手扱いになるらしい。そんなメッセージを読み流しながら相手を観察する。
ガタイはいいが向こうも素手、その上あまり質は良くなさそうな服しか着ておらず防具の類はなし。そもそもチュートリアル戦闘のためそこまで強くないだろう。
『戦闘はどちらかのHPが尽きることで終了します。相手のHPは表示されません。注意しましょう』
『攻撃を上手くHitさせる事でクリティカルアタックとなります。角度などがヒントです』
なるほどね、とりあえずジャストミート、狙ってみるか。
「なんだァ、ビビってんのか⁉︎ならこっちから行くぞ!」
新人潰し(仮)が一直線に迫ってくる。
この手のゲームは散々遊んできたのだ。思考型ではなく行動型みたいだし、自分で自分を動かせるってのはいい。
フルダイブゲームでは現実の身体能力や技能は確かにゲーム内でも使うことができる。
しかし、それだけではない。ここは現実ではない。ゲームはあくまでもゲームだ。だから、
「だから、俺だって成人男性を一撃でノックアウトくらいできんだよバーカ」
馬鹿正直に真正面から向かってきた馬鹿の腹に一発お見舞いしてやった。角度が良かったのかそれとも初戦補正か、それに加えて馬鹿の突進の勢いが乗って強烈な一撃と化した俺の攻撃は、狙いあやまたず鳩尾に刺さったらしい。
呻き声を上げながら床に倒れこみ伸びてしまったが、死んじゃいないだろう。ネバエンはNPCやPKをすると罪業ポイントがたまってしまうようなので、こんなところでは貯めたくない。
……チュートリアルだから大丈夫。たぶん。
とまあ、このように現実では非力な俺でもこんなことくらいは出来てしまうのだ。
実際はフルダイブ適性も関わってくるらしいが、俺はゲームでの体の動かし方は分かっている。上手く言葉には出来ないけど。
お、レベルが上がってら。
「お強いんですね」
「うわ!ビックリした」
「これは失礼しました。私はアーシャ、ギルド本部の受付を担当しています。以後よろしくおねがいしますね」
気配もなく俺の背後にいた受付嬢のお姉さん、アーシャさんがにこりと微笑んだ。ちょっと怖い。
称号『期待のルーキー』を獲得しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます